浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



うなぎ蒲焼のこと。

dancyotei2013-07-21


さて。



明日、7/22(月)は土用の丑の日
土用の丑の日といえば、むろんうなぎ蒲焼。


私は6月に駒形の前川で食べた。


この時にも書いたうなぎ蒲焼の危機は
この数日、TVでも大々的に報道されている。


ただ、民放系では今一つ危機感が伝わってこなかったのが
気になる。


やはり日本人、自分達が食べている水産物について、
今まであまりにも考えてこなかった。
もっと真剣に考えるべきではなかろうか。


昨日(7/20)のNHK朝の「ニュース深読み」
をご覧になった方はおられようか。
なかなかシビアな取り上げ方であった。


前川の回に、うなぎ蒲焼は東京の伝統的食文化であり
これを絶やしてはいけない、と書いた。
これは、今でもその通りであると考えている。


ただ、本来の江戸、東京のうなぎ食は今のような
ものではなかった、と、考えている。


養殖がなかった戦前はすべてが天然もので
数とすれば格段に少なかった。


つまり、現代に比べれば希少性は
大きく違っていたはずである。


誰もが頻繁に食べられるものではなかったと
考えた方がよいだろう。


[日本うなぎ]というのは「環境省指定の「絶滅危惧1B類」で、
危ない方から二つ目のカテゴリー。これはライチョウと同じ」。


これはなにも昨日今日こういう危機的な状況に
なったわけではない。


今まであまり報道されてこなかったように思うが
中国や台湾で養殖されて日本へ入ってきていた
うなぎは、元々中国や台湾を含めて獲れていたのは
[日本うなぎ]だけではもはやなく、欧州や
北米のものも集め、さらに最近ではインドネシアあたりの
シラスウナギを調達して養殖してきた。


それで、スーパーで扱える一串数百円の価格が
実現できていたのである。


私が子供の頃でさえ、うなぎ蒲焼は、
スーパーなどで売っているものではなかった。


まだ、これが本来の姿だったのではなかろうか。


日本で買ってくれるから、中国でも台湾でも
世界中からシラスウナギを集めた。
これを我々日本人は責めることはできまい。


このこと、結局、マグロなども同じであろう。


太平洋、インド洋、地中海などなど、
世界中のマグロを当初は日本の遠洋漁船が獲りまくり、
最近では現地の漁民が替って獲っているが、
送られるのは日本で、同じこと。世界中のまぐろの
ほとんどを日本人が食べ尽している状況は変わっていない。


そのおかげで、というべきか、回転寿司で
広くあまねく、そこそこの値段で誰もが
大トロを食べられるようになっている。


自然のものに、大量消費文化を持ち込んでしまったのである。


これは、あまりに食いすぎ。
英語にgreedy(貪欲な)という言葉があるが、
まさにそんな感じである。


一方で、うなぎや、マグロを食べるのは日本の本来の食文化である
という議論も出てくるかもしれない。


食文化のことになると、鯨ではないが、話がややこしくなる。


ただ、気を付けなければいけないのは、先ほどから述べている通り、
うなぎ蒲焼は東京の伝統的食文化ではあるが、以前は
こんな制限のない"貪欲な"食べ方をしていなかった、ということである。


技術や流通網がなかったからだが、身近で獲れるだけのものを
ゆっくり(?)獲って、食べていた。


マグロにおいては、明治までは下魚として
特に脂の多いトロなどは、安いねぎま鍋になっていた
くらいで、トロの鮨は伝統的なものとはとてもいえない。


やはり、安いからといって、貪欲に、絶滅させるほど
食べてはいけないのである。当たり前のことではないか。
他ならぬ、我々日本人自身が自らの首を絞めているだけ
ということに早く、気付くべきである。


さて、そこで、うなぎ蒲焼について、提案である。


うなぎ蒲焼店を許可制にしてはどうだろうか。
(暴論は承知しているが。)


東京の町の(伝統的な)うなぎ屋さんは許可。
スーパーや、牛丼チェーンのような、大量に安くさばくのは
禁止。(マグロも同様。)


NHKの「深読み」で水産物の国際的なエコマーク
MSC認証のことを取り上げていた。


持続可能な漁獲の仕方をしている魚にこの認証マークが
与えられるという。


うなぎ蒲焼店の許可の要件は、こういうことにしても
よいのかもしれない。


鮨や天ぷらその他、魚介類の食文化は我が国が
世界に誇るべきものである。


これには板前さん達の卓越した技術があり、世界一の扱い高の、
築地市場があり、それを支える、鮮度や規格を満足させる
驚くべき魚介類のサプライチェーンを日本人は世界に構築してきた。


これ自体そのものが日本の文化といってもよい。
パリへ行っても、ニューヨークへ行っても、
マグロの獲れるモルジブでさえ築地並のマグロは
食べられない。


ただ、やっぱり、世界に、世界の生態系に
迷惑をかけていいはずがない。


こんな魚食文化とサプライチェーンを世界に構築した
日本であればこそ、逆に世界の漁獲を含めた魚の消費の仕方を
リードしてしかるべきではないか。


このままでは、10年後、20年後、尊敬はおろか、
世界中の魚を貪(むさぼ)り尽した、お馬鹿さんとして
歴史に残ってしまう。


消費者、板前さん、お店(老舗から回転寿司など
飲食チェーンも含め)、仲卸、卸、水産会社、など
魚を関わるすべての企業と人々。また、水産庁など行政。
皆で考えなくてはいけない。
魚を愛する日本人であればできるはず。


いい加減目を覚まし、方向転換をしようではないか。


安く買えるからといって、貪ってはいけない。


安いものなら旬にたくさん近海で獲れる、
秋刀魚だったり、鯵だったり鰯だったりを食べるのが
本当の姿なのである。