前回に引き続き今日も、フィクションのつづき。
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前回
開けてみると、やはり、髑髏。頭の骨、で、ある。
手を入れて、そーっと、骨を出してみる。
五平が慌てて、
「馬鹿お前、見るだけっていいったじゃねえか」
「いやいや、ちょいとだけ」
…持った感じは、、、?人の頭の骨の重さがどのくらいのものなのか、柳治自身
は持ったことはなく、よくわからない。こんなものか、というくらい。机に置
いてよくよく見てみる。骨の表面は長く水に浸っていいたからか、洗ってある
ようだが、まだ多少苔が付き、緑の部分も残っているが、特に不審なところは
ない。また、一つ目のものも傷などはないという話であったが、これもまた、
そういうものは見当たらない。だがやはり、本当のところは、こういうものを
見慣れた人の意見を聞かねばいけないと、思い直す。
「はあ、こういうもんですか」
「もういいだろ。早く仕舞っときな」
「へい、へい」
柳治はまた、そーっと、骨を壺へ戻してふたをする。
「これ洗ったのは。五平さんですか」
「ああ、そうだよ。まったく。気味悪いったらねえや」
と、舌打ちをする。
「最初のもこんな感じでしたか」
「そうだよ。泥なんかも付いていたから、それを洗って。
骨なんて、どれもこんなもんだろ」
「大きさは」
「わかんねえなあ。おんなじくらいじゃなかったかなぁ」
「はあ。
最初のからなん日目でしたっけ」
「そうさなぁ。あれが先月の十八日で、今日が三日だろ。だから十五日か」
五平に礼をいって、小屋を出る。
[大七]の台所へ戻ると、ちょうどお玉がいて、
「五平さんにお願いして、骨を見せてもらってきました」
「まあ、まあ。私なんか、やっぱり気味が悪くてね。
でも、うちの主人も心配してるんですが、二回目となると、変な噂が立ちは
しないかって」
「そうですね。ご心配なことで。
だけど、へんですね。よく使ってる桟橋のあたりで、なんで今まで気が付か
なかったんですかね。一つ目の骨が見つかってから、大水(おおみず)はなかっ
たでしょ」
「そうですよね。あの後、お役人もうちの者も、入掘はよく調べたんですから。
小梅の親分もそれが変だって。ひょっとするとね、誰かが嫌がらせに置いたん
じゃないかって。明日は親分がお役人と一緒にくるっておっしゃっていたから。
柳治さんもいいお知恵があったら貸してくださいね。なんといっても客商売
ですから評判が大切で。
あ、忘れてた。柳治さん、ご飯まだなんでしょ。仕度させますから、食べて
いって」
「いや、そりゃあ、申し訳ないですよ」
「なにをいってるの。時分時(じぶんどき)にうちへきて、お食事も出さない
で帰したら申し訳ないですよ」
「すみません。江戸名代の[大七]さんのご飯をいただけるなんて、真打に
でもなってお客様に呼ばれなけりゃ、貧乏二つ目には無縁ですからね」
お玉は板場へそういって、台所脇の小座敷に簡単な膳を用意してくれた。
[大七]名物の鯉の洗い、それから鯉の甘露煮。それから汁は鯉こくの鯉づくし。
お酒も一本つけてくれた。客用であれば、さらに色々なものがつくのだろう。
酢味噌で食べる鯉の洗いは堪えられない。
「ゆっくり食べていって下さいね。それから、緒方の叔父よろしくおっしゃって」
と、柳治に声を掛けると、客座敷への挨拶まわりに忙しいお玉は、足早に
出ていった。
六
柳治は[大七]で鯉料理をご馳走になり、すっかり日も暮れて、用意してもら
った提灯を手に、浅草へ戻る。
長屋へ戻って、緒方のご隠居の家でに[大七]の二回目の骨について報告する。
「まさかね、一度ならずも二度までも、とくれば、こりゃあ、古い土左衛門の骨が
ただ流れてきたんじゃねえと思うんですよ」
「うん。誰かが[大七]へ嫌がらせになあ。確かに、柳治さんの言う通りかも
しれんなぁ。お玉のところは客商売、変な噂が立てば、客は気味悪がって店に寄り
つかなくなる」
「女将さんも旦那も、それが一番ご心配で」
「だが、だれがそんなことを」
「そりゃあ、あのあたり、料理屋はなん軒かありますから」
「商売敵(がたき)か」
「はい。
それから、[大七]さんがなにか恨みを買うようなことはありませんかね。」
「そうじゃのう。
そうすると、お前さんにも、あの家のことを少し話しておかねばならんのう。
つづく