浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)
断腸亭料理日記本店
 

野晒し その6


前回に引き続き今日も、フィクションのつづき。


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前回






開けてみると、やはり、髑髏。頭の骨、で、ある。

 手を入れて、そーっと、骨を出してみる。

五平が慌てて、

「馬鹿お前、見るだけっていいったじゃねえか」

「いやいや、ちょいとだけ」

…持った感じは、、、?人の頭の骨の重さがどのくらいのものなのか、柳治自身

は持ったことはなく、よくわからない。こんなものか、というくらい。机に置

いてよくよく見てみる。骨の表面は長く水に浸っていいたからか、洗ってある

ようだが、まだ多少苔が付き、緑の部分も残っているが、特に不審なところは

ない。また、一つ目のものも傷などはないという話であったが、これもまた、

そういうものは見当たらない。だがやはり、本当のところは、こういうものを

見慣れた人の意見を聞かねばいけないと、思い直す。

「はあ、こういうもんですか」

「もういいだろ。早く仕舞っときな」

「へい、へい」

柳治はまた、そーっと、骨を壺へ戻してふたをする。

「これ洗ったのは。五平さんですか」

「ああ、そうだよ。まったく。気味悪いったらねえや」

と、舌打ちをする。

「最初のもこんな感じでしたか」

「そうだよ。泥なんかも付いていたから、それを洗って。

骨なんて、どれもこんなもんだろ」

「大きさは」

「わかんねえなあ。おんなじくらいじゃなかったかなぁ」

「はあ。

 最初のからなん日目でしたっけ」

「そうさなぁ。あれが先月の十八日で、今日が三日だろ。だから十五日か」

五平に礼をいって、小屋を出る。

 [大七]の台所へ戻ると、ちょうどお玉がいて、

「五平さんにお願いして、骨を見せてもらってきました」

「まあ、まあ。私なんか、やっぱり気味が悪くてね。

 でも、うちの主人も心配してるんですが、二回目となると、変な噂が立ちは

しないかって」

「そうですね。ご心配なことで。

 だけど、へんですね。よく使ってる桟橋のあたりで、なんで今まで気が付か

なかったんですかね。一つ目の骨が見つかってから、大水(おおみず)はなかっ

たでしょ」

「そうですよね。あの後、お役人もうちの者も、入掘はよく調べたんですから。

小梅の親分もそれが変だって。ひょっとするとね、誰かが嫌がらせに置いたん

じゃないかって。明日は親分がお役人と一緒にくるっておっしゃっていたから。

 柳治さんもいいお知恵があったら貸してくださいね。なんといっても客商売

ですから評判が大切で。

 あ、忘れてた。柳治さん、ご飯まだなんでしょ。仕度させますから、食べて

いって」

「いや、そりゃあ、申し訳ないですよ」

「なにをいってるの。時分時(じぶんどき)にうちへきて、お食事も出さない

で帰したら申し訳ないですよ」

「すみません。江戸名代の[大七]さんのご飯をいただけるなんて、真打に

でもなってお客様に呼ばれなけりゃ、貧乏二つ目には無縁ですからね」

 お玉は板場へそういって、台所脇の小座敷に簡単な膳を用意してくれた。

大七]名物の鯉の洗い、それから鯉の甘露煮。それから汁は鯉こくの鯉づくし。

お酒も一本つけてくれた。客用であれば、さらに色々なものがつくのだろう。

酢味噌で食べる鯉の洗いは堪えられない。

「ゆっくり食べていって下さいね。それから、緒方の叔父よろしくおっしゃって」

と、柳治に声を掛けると、客座敷への挨拶まわりに忙しいお玉は、足早に

出ていった。

  六

 柳治は[大七]で鯉料理をご馳走になり、すっかり日も暮れて、用意してもら

った提灯を手に、浅草へ戻る。

 長屋へ戻って、緒方のご隠居の家でに[大七]の二回目の骨について報告する。

「まさかね、一度ならずも二度までも、とくれば、こりゃあ、古い土左衛門の骨が

ただ流れてきたんじゃねえと思うんですよ」

「うん。誰かが[大七]へ嫌がらせになあ。確かに、柳治さんの言う通りかも

しれんなぁ。お玉のところは客商売、変な噂が立てば、客は気味悪がって店に寄り

つかなくなる」

「女将さんも旦那も、それが一番ご心配で」

「だが、だれがそんなことを」

「そりゃあ、あのあたり、料理屋はなん軒かありますから」

「商売敵(がたき)か」

「はい。

 それから、[大七]さんがなにか恨みを買うようなことはありませんかね。」

「そうじゃのう。

 そうすると、お前さんにも、あの家のことを少し話しておかねばならんのう。






つづく