浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

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国立劇場11月公演・歌舞伎・浮世柄比翼稲妻 その1

dancyotei2012-11-26


11月23日(金)勤労感謝の日

さて、連休。

前日、今月も思い立って、歌舞伎を観にいくことにした。

先月も国立劇場『塩原多助』
9月は新橋演舞場『菅原伝授手習鑑』

3か月続いている。

皆、通し。
私のような歌舞伎素人には、やはり作品を理解するためにも
一度は通しを観ておかなければ、ということがある。

『浮世柄比翼稲妻』(うきよづかひよくのいなづま)
という外題(げだい)はあまり知られておらず、
私もピンとこなかったが、『鈴ヶ森(すずがもり)』と
『鞘当(さやあて)』(通称不破)。『鞘当』は歌舞伎十八番
にもなっており有名。この二幕が含まれている。

「お若ぇの、お待ちなせえ〜(やし)」という幡随院長兵衛の台詞で
有名な『鈴ヶ森』の幕だけは観たことがあった。



三代豊国(安政5年)『御存 鈴ヶ森』

演目と主な出演者を書き出しておく。〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

四世鶴屋南北=作
国立劇場文芸課=補綴
通し狂言浮世柄比翼稲妻(うきよづかひよくのいなづま)四幕六場
国立劇場美術係=美術

       
   序  幕   東海道境木の場   
           鎌倉初瀬寺の場
           同 本庄助太夫屋敷の場
   二幕目   鈴ヶ森の場
   三幕目   浅草鳥越山三浪宅の場
   大  詰   吉原仲之町の場
            ―伊達競曲輪鞘当―長唄連中


(出演)
 松 本 幸 四 郎
 中 村 福   助
 中 村 錦 之 助
 市 川 高 麗 蔵
 松 本 錦   吾
 澤 村 宗 之 助
 大 谷 廣 太 郎
 中 村 隼   人
 大 谷 廣   松
 坂 東 新   悟
 中 村 歌   江
 片 岡 市   蔵
 市 川 右 之 助
 坂 東 彌 十 郎
 大 谷 友右衛門
            ほか

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松本幸四郎の座頭公演。
けがで入院中の市川染五郎との親子出演だったはずのもの
でもあるよう。

松本幸四郎が、不破伴左衛門と当たり役の幡随院長兵衛。
中村福助が腰元岩橋(傾城葛城)、下女お国、長兵衛女房お近。
名古屋山三が中村錦之介で、白井権八市川高麗蔵
(この二人が染五郎の代役か。)

歌舞伎作者としては黙阿弥に並ぶ巨匠、
四世鶴屋南北の作。
代表作は、東海道四谷怪談

時代としては、黙阿弥は幕末から明治。
四世鶴屋南北はその前の文化文政期。

初演が1823年(文政6年)江戸、市村座

個人的には、黙阿弥の演目が好きで、
四谷怪談』はあまりにも有名だが、
正直のところ、南北の方は、よくわからなかった。
そんなこともあって、今回は勉強のつもり。

12時開演なので、ちょっとゆっくり。

朝起きると、冷たい雨。

雨が降っていると、着物で出掛けるのは
少しためらうが、そう大雨でもなさそう。

もう間違いなく冬物。
お召、でいいのだろうか、錆茶の、ちょっと表面に凸凹のある
絹もの。帯は紺の角帯。
羽織は、着物同様の生地で近い色だが、渋い深緑。
羽織の紐はアクセントにちょっと目立つ鬱金(うこん)色。
白足袋に、雨なので下駄。

11時すぎ、内儀(かみ)さんとともに、出る。

大江戸線、春日で乗り換えて、
三田線神保町、神保町からはタクシー。

入って弁当とお茶、ビールを買って席に着く。
今日は、前日予約したためか、1等B。
二階席で花道の出は見えないが、正面前の方で、
斜め上から舞台全体が見渡せて、よい席、と、
いってよいだろう。

1時までが序幕で三場。昼休憩。
休憩明けが、有名な鈴ヶ森で40分。
次が浅草鳥越山三老宅、これが長くて、1時間45分。
そして大詰『鞘当』で20分。
4時15分まで。

弁当を先に出しておこう。


 



焼鳥ののったおこわ飯。
(どうも、お上のやっている国立の飯はおもしろくない。)

さて。

観終わっての、感想は、と、いうと“通し”で観ると、
やっぱり、話は、あっちゃこっちゃと散漫。
『鈴ヶ森』『鞘当』だけ抜き出して上演(や)る
のも、うなづけるというところか。

この作品、巨匠、大南北(四世南北を他の南北と区別して、
大の字をつけるようである。)の代表作の一つといわれるだけに、
これには背景がたくさんあるのだが、今の感覚では
そういうことにならざるを得ない。

もう一つ、この演目での売りの『鈴ヶ森』、座頭の七代目松本幸四郎
遥かご先祖、四代目幸四郎の幡随院長兵衛が大当たりをし、以来、
高麗屋のもの、といわれていた、とのこと。

流れるような長台詞が有名のようだが、当代幸四郎先生、
いかに演じるのかも焦点であったろう。
私の印象ではむろん不足はないが、唸らせるようなものは
感じられないというのが正直のところであった。

むしろ、二役を演じる、不破の方が存在感があり、私ですら
随所で「こうらいやぁ〜」と声を掛けたくなったほどであった。

しかし、この人、ちゃんとやると、やっぱり、
さすが兄弟、吉右衛門に似てるなぁ、という印象。

歌舞伎役者としては、吉右衛門先生は昨年人間国宝になっており、
私などトウシロウが観ても今、芸は、上、の、ように思われる。
年もさほど離れていない兄と弟、二人の確執はこの世界では
知らない人がいないことらしいが、幸四郎先生、歌舞伎の舞台での
吉右衛門との差、あるいは違い、悩ましいものだったのか、、。


つづく。
明日は、作品考察など。