浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



菜飯田楽


10月29日(月)夜



さて。



今日は、菜飯(なめし)、田楽(でんがく)に
しようと、考えた。


この前、大根を一本買っておろしにして梅肉と和えた
浦里、それからふろふき、さらにスープにした。
その葉っぱを菜飯にしようと下拵えをしておいたのである。


冷蔵庫に突っ込んであるが、これを、使わなければ、
ということ。


菜飯田楽。


どういうわけか、昔から、菜飯と田楽はセットになっている。


菜飯というのは、大根などの菜っ葉の細かく刻んみ、
ご飯に混ぜ込んだもの。
田楽は、味噌を塗って焼いた豆腐の田楽が一般的であろう。


私の場合は、菜飯にしても田楽にしても
子供の頃から、あまり食べた記憶がない食い物で、あった。
まあ、今時、家庭ではあまり作らない料理、で、あろう。


私が作るようになったきっかけは、池波作品から。


池波作品に登場している例は、
以前書いたので、引用してしまおう。



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剣客商売』青山にある「六道の辻の菜飯屋」。


盗賊、土崎(つちざき)の八郎五(はちろうご)と


四谷の御用聞き、弥七の子分、笠徳こと、笠やの徳次郎、が


秋山小兵衛の隠宅に盗みに入ろうという、「徳どん逃げろ」。


(この一編、筆者かなり好きである。)


剣客商売・隠れ蓑」より 池波正太郎著、新潮文庫



鬼平』では、女擦(す)りのお富が、根津権現門前の茶店に入る。


土間の奥の腰掛けで、「菜飯ととうふの田楽、汁などで腹を満たし」


(今日はやれる)、と、感じる、、。


鬼平犯科帳・二巻」より「女掏擦(めんびき)お富」池波正太郎著、文春文庫



同じく『鬼平』。乞食坊主であった、平蔵の昔馴染みの一人、井関録之助登場の回。


録之助は、塒(ねぐら)の品川から、白金の通りを托鉢をしながら目黒まで行き、


目黒不動で、菜飯と田楽を食う。


鬼平犯科帳・五巻」より「乞食坊主」池波正太郎著、文春文庫



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食べる場所は、青山の菜飯屋、根津権現前の茶店目黒不動茶店)。


つまり、どれも江戸市中の料理屋や、居酒屋でもなく、
郊外の茶店、飯や、と、いう設定。


なにもないところでも出せる、素朴で安い飯。
そんな位置付けといってよかろう。


これも、前に紹介しているが、菜飯と田楽を売り物にしている
文政年間創業の「きく宗」というところも、愛知県の豊橋には、ある。


おそらく、日本中にあり、それも古くから、起源を調べたわけではないが、
味噌と豆腐が一般化していた頃なので、進んでいた畿内では室町終わり、
安土桃山から江戸初期には、食い物として、全国で一般化していた
ようなものではなかったろうか。
(ただし、金を取って食べさせる飯屋のようなものができるのは、
江戸でも中期以降のことになる。)


菜飯は飯に混ぜ込むだけなので、
帰り道、豆腐だけ買って帰る。


さて、豆腐の田楽。
これはなかなか、問題。


過去になん回か作っているのだが、
いまだかつて、ちゃんとしたものは
残念ながら、出来上がっていない。


まあ、慣れないせいもあるのだが、
難しいというのか、わからないのは、豆腐の水抜き。


そもそも、最初は水抜きをせずに、味噌を塗って
焼いていたくらいではあった。


水抜きをしないと、むろん柔らかく、
焼くための串を刺しても、崩れてしまい、
持ち上げることすらできない。


また、それでも強引に味噌を塗って焼いても
水っぽくて焼けないうえに、味が薄く、はっきりいって
うまくない。


いろいろ、学習もし、また、調べもしてくると、
本来は、俎板などで重石をして、1日も、水抜きをするもの、
というのが、わかったような次第。


そして、さらに調べると、一日もかけずに
豆腐の水抜きをする方法、というのも発見した。


なにかというと、レンジをかける。
または、茹でる。


つまり、豆腐は加熱をすると、水が抜けやすくなる。


一丁をペーパータオルでくるんで、レンジを3分ほどかける。
あまりかけすぎると、爆発するので注意が必要。


やはり、加熱の場合も、重石を載せる。


加熱した場合は、冷めてくるにしたがって、
水が抜けてくる、という。


やはり、そうはいっても、2〜30分はかかりそう。


しばらく置いておく。


田楽用味噌は、やはり、この前のふろふき用に
作った、卵黄を練りこんだ桜味噌が残っていたので
これにする。


そして、ここで、菜飯用の大根の葉っぱの
下拵え法も書いておく。


作り方は、まあ、いろいろあるが、
ようは、塩味の葉っぱで、水分をある程度
飛ばしたもの、ができればよい。


ポイントは大根の場合、繊維が強いので
できるだけ細かく刻んでおくこと。


細かく刻み、塩でもむ。


これを、水分を飛ばすため、炒めてもよいのだが、
ラップなどせずにレンジ数分。


これだけでよい。


さて、豆腐。


2〜30分後、串を刺してみる。


持ち上げると、、、、


ぐにゃ、、、。


だめだ、崩れてしまった。


表面は水が抜けているのだが、奥はまるっきり
抜けていない、、、。


それでも、なん回かやっているうちに、
水が抜けて硬いところで、なんとか、写真を
載せられそうなものができた。




菜飯の方は、冷蔵庫の冷や飯をレンジで温めて、
混ぜ込んだだけ。





豆腐の田楽。


硬くなっていれば、豆腐の田楽もそこそこ
食えるもの。
過去、あまりうまくないとおもっていたのは、
やはり、水が抜けていなかったから。


菜飯の方が、これは、まあ、素朴でうまいもの。


大根でもよいし、蕪でもよい。
じゃこ、などを混ぜてもよかろう。


ただの葉っぱではなく、野沢菜など菜っ葉の漬物、
でもむろんよかろう。
(こうなると、市販のふりかけに近くなるか。)


豆腐の田楽、悔しいから、水抜きを会得したいものだが、、
やはり、そこまで気を入れて極める料理にも、思えぬ
ような気もするが、、。ハテ。