浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



イタリア土産

dancyotei2012-09-11


夏休み編は終わったが、名残のイタリア土産。

8月19日(日)〜

さて、夏休み。
8/18(土)イタリアから帰国した。

シシリアで買ってきたもの。



まず、この二つ。

右側の、ちょっとお洒落なラベルの瓶詰めは
「Tonno Rosso」とあるが、黒マグロ。

左の袋は同じく、Tonnoだが、Bottarga(ボッタルガ)。
かの、からすみ。
それも粉末。

まずは、瓶詰をあけてみた。



これ、地中海産の黒マグロ(本マグロ)で、
きれいに瓶に詰められているのだが、開けて出して食べてみると、
なんのことはない、ツナ缶に限りなく近いもの。

実際、数ユーロで、100円程度のシーチキンよりはずっと高いのだが、
こうなってしまうと、なんのことやら、という感じではある。

Bottarga(からすみ)粉末。



かなり細かい粉末。
bottargaは、丸のままの卵巣の形のスティック状で
真空パックになっているのもあったのだが、
安いこちらの粉末のものを買ってきた。

なめてみる。

ん?
なるほど。これは、からすみ、というよりは、
味はやはり塩辛に近い。

例えば、酒盗かつおの塩辛を乾燥させたような感じ。
乾燥しているので、さほど強くはないが、やはり、
くさやや、魚醤などが発する、独特の魚が醗酵した
あの匂いがする。

卵巣の塩漬けなので、日本語のからすみ、をあてている
のであろうが、やはり、からすみは、ボラ以外のものに
使うべきではなかろう。
日本のからすみは、醗酵という意味では、
酒盗などまでは、進んでおらず、塩漬け、という
範囲ではなかろうか。

日本にはご存知のように魚介類の醗酵食品は
随分とある。

琵琶湖の鮒寿司、北陸から東北、北海道にある、
飯寿司(いずし)など、米麹で漬けた、なれずしの類。
あるいは、北陸のヘシコなど糠漬け、それから
最も一般的な、内臓を塩漬けして醗酵させた、各種塩辛。
そして、塩辛の上澄みを使う、秋田のショッツル(魚醤)。

あるいは、魚の醗酵液に鯵などを漬けて干物にしたのがくさや。

朝鮮半島、あるいは、中国、さらには、東南アジアまで、
ひろくこの種の魚発酵食品や調味料は存在する。
魚が醗酵し、アミノ酸が増え、匂いは強いが、うまくなる。
(もう一つの特徴は、日持ちがするようになること。)

ともあれ、これら、どちらかといえば、湿ったもの。

シシリアで買ってきた、bottargaは完全に乾燥はしていないが、
半乾燥という感じのもの。
この状態のものは、日本にはない。

スパゲティーなどにかける、という、日本でいう、
ふりかけ、のような使い方が普通という。

イタリアではチーズを削って料理にかけるのと、
同じような使い方、と、いった方がよいのかもしれない。

ただし、タオルミーナでスパゲティーにソース状のもので
この香りのしたものも食べたので、調味料的な使い方も
していたのかもしれない。

ともあれ、アジア太平洋沿岸各国にある魚醗酵食と似たものが
趣は随分違うが、遠く離れた、地中海にもある、というのは
やはり、おもしろい。

さて。

もう一つ、買ってきたもの。
チーズ。

土産というよりは、タオルミーナのホテルの部屋で
つまみに食べるために買ったのだが、塊だったため
当然食べきらず、そのまま持って帰ってきた。

タオルミーナの街の酒なども売っている食料品店で
家庭用の食材として売っているチーズ売り場で見て、
他のものは名前がわからず、唯一、読めたPecorino。
=ペッコリーノチーズ。

一塊で3ユーロくらいだったかと思う。
で、わけもわからず、買ってきたわけである。

これ、Pecorino Siciliano、と、書いてある。

私などもそうだが、イタリアのチーズといえば、
パルメジャーノ・レッジャーノかモッツァレラぐらいしか知らない。
しかし、調べてみると、Pecorinoもイタリアでは並ぶくらい
ポピュラーなものらしい。

ペッコリーノは牛ではなく、羊の乳が原料で
日持ちをさせるため塩分が多く、やはりパルメジャーノ同様、
すり下ろしたり、薄く切って使うという。

ペッコリーノで最も有名なのは、ペッコリーノ・ロマーノだという。
つまり、ローマ地方で作られたペッコリーノチーズで、
例のローマ名物、カルボナーラ・スパゲティーも
このペッコリーノで作るのがローマ式のよう。

イタリアにはDOP(デノミナツィオーネ・ディ・オリージネ・プロテッタ)
という制度があり、それぞれの品質基準を満たすものに、特定の産地名を
名乗ることを許される。

ペッコリーノのDOPはペッコリーノ・ロマーノの他に、
同トスカーノ、同サルドに加えて、シシリアーノというのもあり、
ペッコリーノ・シシリアーノはオーソライズされた産地
の品物ということのよう。

ペッコリーノはきっと、どこかのイタリアンでそれとわからず、
食べているのであろうが、こういう味である、というほどの記憶はなかった。

今回、意識して食べてみた感じは、パルメジャーノとの
比較でいえば、よりにおいも強く、重くコクがある。
そして、持って帰ってきて気が付いたのだが、
入れていたビニール袋にベットリ脂がついていたくらいの
脂の多いチーズ。これが重さとコクになっているのかもしれぬ。

そして、帰ってきてなん回か作ったイアタリアンに
使ってみた。

これは、8/19、シンプルなトマトソースのスパゲティーに
のせて。



そして、8/25、これは豚のモツ(タンとガツ)のトマト煮。



パルメジャーノよりもやっぱり心なしか、
“本格”っぽい感じの味になるような気はする。

やはり、チーズというのは、ワインなどと並んで、奥が深い。

この機会に、ちょっと、入り込んでみたいような気もするが、
輸入チーズはシシリアでは300円くらいのものが、
東京で買えば、2倍、あるいは、3倍くらいは平気でする。
そうそう気軽には買えないもの、ではある。

買ってきたペッコリーノ・シシリアーノはまだ残っている。
今度、カルボナーラに使ってみようか。