浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



鮨・新ばし・しみづ その2

dancyotei2012-06-26



さて。



引き続き、新橋の鮨や[しみづ]。



つまみを三っつつまんで、にぎり。
最初のきす、まで。


次は、小肌。


強めの〆具合で、うまい。


小肌、というのは、夏に子供が生まれ、
新子、といって、香りがよく、鮨やでは珍重される。


小肌自体は、数年は生きて、小肌の次はナカズミ、
大きいのは、コノシロ、と呼ばれる。


にぎりに使われるのは、ナカズミあたりまで。


いか。


今は、あおりいか。


柔らかく、あまみがある。


江戸前鮨は、通常は、すみいか、に、決まっているが、
産卵期の今は、あおりいかを使うところが多い。


柔らかく、あまみがあるのは、すみいかも
あおりいかも同様だが、すみいかは、独特の
香りがあり、うまい。


また、小肌同様、すみいかも、夏に子供がまれ、
これも、新いか、といって待っている人は多い。


新いかは、香りがより強く、とろけるように柔らかい。


次は、しまあじ
こりこりとした食感に、適度にのった脂と、
青魚らしいあまみ。


(順番、このあたり、怪しいが。)


塩むし。
蒸し鮑(あわび)、で、あるが、このようにいう。
この呼び名も、この系列独特かもしれない。


鮑なので、夏のもの。


塩むし、というくらいで、ほんのり塩味で
柔らかく、濃厚な、滋味といってよい味。


蒸し、といいながら、実際には塩茹で。
煮汁を、身にもう一度含ませるように、煮る。


一般の鮨やでは、鮑は生で出す方が多いと思われるが、
塩むしも、伝統の江戸前仕事といってよかろう。


生で食べるよりも、うまい。あるいは、別のうまさが
生まれる。これが古い江戸前仕事を残す現代的な
意義、なのだと思う。


古い江戸前仕事、と、いうのは、ご存知の通り、
冷蔵設備がなかった頃に生まれた独特の魚の拵え方。
煮たり、蒸したり、酢〆にしたり、漬けたり。


冷蔵・冷凍設備が開発、普及し、冷凍・冷蔵のサプライチェーン
出来上がったのは、戦後のこと。


東両国の尾上町で与兵衛が[華屋]というすしやを開き、
にぎりの鮨が生まれたのが、文化七年(1824年)という。


そこから戦後、昭和30年(1955年)として130年あまり。
その後、今年までで60年足らず。


にぎり鮨の歴史の中で、まだ、圧倒的に、
冷蔵設備がなかった時代の方が長い。つまり、130年の間に、
数多(あまた)の工夫がなされ、淘汰されたものが古い江戸前鮨。
この時の重みを軽んずべきではなかろう。


現代において、ただなにも考えず、生のままを握ればよいか、
といえば、そうではないと思われる。どちらがうまいか、いや、
古い江戸前仕事も含め、どう拵えれば、最もうまい鮨になるのか、
それを考え、腕を磨くのが、鮨職人、というものなのであろう。
すきやばしの二郎翁などは、そういった高みを極めようと
80歳を越えた今でも日々研鑽を続けていると聞く。
ここ、しみづの親方もずっと若いが、その一人だと思われる。


ともあれ。


では、鮑の場合、どうであろうか。
むろん好みであろうが、どちらも別物として、うまい。


ものがよければ、生のコリコリとした食感もうまいし、
塩むしの、奥深い味も捨てがたい。


さて


次は、貝二品、鳥貝と赤貝。


鳥貝は生。どちらもうまい。


が、正直をいうと、貝というのは、子供の頃は苦手だったくらいで、
むろん、うまいのはわかるようになったが、
思い入れは必ずしも深くはない。
赤貝なんぞは、贅沢な話だが、刺身としてたくさん食べたいもの、
で、ある。


大トロ。
これはもう、言葉がない。
うまみ、あまみ、口の中で溶けていく。


ここはおまかせだと、大トロよりも、中トロが出ることの方が
多いように思うが、マグロもこの店の看板、と、いってよいだろう。


次は、海老。
茹でた才巻(さいまき)海老。
才巻海老とは小さめの車海老のこと。


お客がきてから、茹で始めたもの。


皆さんご存知の、にぎり鮨では定番の茹でた海老。


茹でて流通しているものも多く、安い鮨やでは
皆、これ。ご存知のように、パサパサ。
子供の頃からそんなものばかり食べていたので、
海老なんぞ、と、馬鹿にしていたが、とんでもハップン。


最初に食べたのがどこであったか忘れたが、
ちゃんとした江戸前の仕事を忘れていない鮨やでは、
自前で茹でているし、そこそこ以上であれば、
お客の顔を見てら茹でる。


茹でて荒熱が取れてから握った才巻海老は、あまくてプリプリ。
海老がこんなにうまかったか、と実感できる。


最後は、巻物。


内儀(かみ)さんが、どうしても
“おぼろ”が食べたいというので、
じゃあ、玉子と巻きましょう、と、巻いてくれた、
玉子おぼろ巻。


おぼろ、というのも江戸前仕事の一つであろう。
生の芝海老をつぶして味付け、鍋で加熱したもの。
(見た目には白い“でんぶ”のようなもの。)


使い道は、ちらしに載せたり、小肌のにぎりにはさむ、
その他、巻物にもする。


玉子も鮨やでは、今は厚焼きの出汁巻きが普通だが
薄くふかふかの江戸前仕事のもの。


この玉子を細く切って、おぼろとともに細巻にしたもの。


以上。



まったくもって、堪能。



ご馳走様、うまかった。



勘定はビール二本、酒一合。
二人で\30,000。


この内容である、安くもなく、高くもない。
リーズナブル、で、あろう。


格子を開けて、烏森の細い路地に出る。
まだ、6時を少しすぎたところで、明るい。


よし、せっかく、着物も着てるし、
銀座までぶらぶら歩こうか。






新ばし・しみづ
03-3591-5763
港区新橋2-15-10