浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



小島町・うなぎ・やしま

dancyotei2012-06-04



6月2日(土)夜



さて。


土曜日。



夜。



ご近所、小島町のうなぎや、やしまへ行く。


今日は内儀(かみ)さんと私の希望が合った。


こはちょっと、久しぶりかも知れぬ。


私自身、うなぎは、15日に江戸川橋石ばしへいった。


内儀さんはしばらく食べていないという。
夏も近くなり、やはりうなぎが食いたくなる季節。


やしまは、拙亭に最も近いうなぎや。
いや、100m程度で、飲食店としてもそうとうに
近くにある店のうちの一つ。



ご主人とは、この日記がきっかけだが、旧知



そうそう。


来週(6/9、10)は、待ちに待った、我々の鳥越祭。


春日通りを渡った、やしまの方は隣町になるが、
ご主人も活躍されるのであろう。


拙亭にも町内会からは、祭の案内が既に届き、半纏を予約しに
内儀さんが今日、係りの方まで、出掛けていっていた。
たのしみ、で、ある。


ともあれ、やしま。


早い方がよかろうと、5時半頃、下駄で出る。


左衛門橋通りを南に下る。


左衛門橋通りは、拙亭前を通っている通り。
さほど広い通りではないが、名前が付いている。


これは、ずーっと、南へいくと、神田川にぶつかるが、
この神田川に架かっている橋の名前が左衛門橋。


由来は江戸の頃、今の橋の北側に、酒井左衛門尉家
(出羽庄内十五万石)の屋敷があったから。
時代小説ファンならご存知、藤沢周平作品のほとんどが
この庄内藩を舞台にしている。


春日通り左衛門橋通りの交差点を渡って、角が交番。
交番と、毎度お馴染みハナマサの間。
ビルの1階。


入ると、まだ早い時間、一番乗り。


調理場のご主人に声をかけて、座敷に上がる。


座って、ビールと、白焼き、うな重を頼む。





ビールはサントリーのプレミアム。
お通しはいつもの通り、味噌豆。


味噌豆。


なん度も書いているが、ご存知のない方もいる
かと思うので、今日は改めて説明をする。


これ、大豆を茹でただけのもの。味は付いていない。
辛子(からし)が添えられ、青海苔がまぶされている。


しょうゆをかけまわして、辛子を混ぜて、つまむ。


ただ大豆を茹でたものが、なぜ味噌豆か。
味噌は大豆を茹でたものに米麹を加えて、醗酵させて
作るのは皆さんご存知の通り。
つまり、味噌になる豆で、味噌豆、で、ある。


これは東京に限らないと思うのだが、まったく手軽な
お惣菜、おかず、酒の肴であったもの。


落語、というのか、ちょっと長い小噺に、
こんなのがある。



味噌豆が煮えた。


旦那が小僧の定吉に煮えたかどうだか、みにいかせる。
「おいしく煮えております」と定吉
馬鹿!。みてこいといっただけで、
誰が味をみろといった、と、小言。


旦那は定吉を使いに出す。
その隙に、今度は自分がつまみ喰い。
これはうまい、これはうまいと、止まらなくなる。


おっと。こんなところに定吉が戻ってきて
見られたら、小言が利かなくなる。
どこか、隠れて喰えるところはないか。


!、便所。


お椀によそって、便所に入って、
引き続き、うまい、うまいと、つまむ。


定吉が帰ってくる。
旦那がいない。
よし、つまみ喰いのつづき。
見付からないところ、見付からないところ。


!、便所だ。


お椀によそって、便所へ、、、


戸を開けると、中に旦那。


あ!


お代わりでございます。




まあ、こんなもの。


今となっては、実感がわかないが、味噌豆、というのは、
食べ始めると、止まらなくなる、というのに
皆の共感があった、のである。


古い東京下町の気取らない、食い物である。


今も、こういうものをお通しに出しているというのも
ご主人の考えが知れようというもの。


さて。


白焼きから。





わさびじょうゆ。


実に、あまみがあり、うまい。


そして、なんたって、この色がよいではないか。


むろん、蒲焼もよいのだが、蒲焼の脇にあって、
これほど、乙な、いかにも東京らしい食い物は
なかろう。


口に入れると、幸せが広がる、というもの。


と、ご主人のご好意で、肝を焼いてくれた。





焼きたてで、柔らか。



さてさて、トリの登場。





きりっとした、たれ。



私にとっては、食べ慣れた味。


十二分に、うまい蒲焼。



うまい、うまい。




お勘定をして、ご主人に挨拶し、店を出る。



家から100mのところに、こんなうまいうなぎやがあるのは、
やはり、幸せなことだと思わねばなるまい。












やしま
TEL 03-3851-2108
東京都台東区小島2丁目18−19