引き続き、日曜日。
元浅草から森下のみの家、まで歩く。
両国橋東詰め、南側の句碑。
四十七士、大高源吾のもの
日の恩や忽(たちま)ち砕く厚氷
初見である。
これは、あとで、ちょっと調べてみると、
多少の背景がわかった。
講談、歌舞伎にも縁があるよう。
講談は『赤穂義士銘々伝・大高源吾』。
歌舞伎は『松浦の太鼓』。
大高源吾は、俳句が上手く、号も持っていたほどで、
当時、芭蕉の弟子、宝井其角とも親交があった。
これは知っていた。
この縁で吉良邸出入りの茶の湯の師匠に入門し、
かの12月14日に、吉良邸で茶会があることを突き止めた
(と、いうことになっている)。
ここまでは有名であろう。
この『日の恩や』の句は、討ち入り後、吉良邸の隣家、
旗本土屋主税に対して、通報もせずに見守ってくれたことへの
お礼として詠んだ、ということ(になっている。
なにしろ、講釈ネタである。
講釈師見てきたような嘘をいい かもしれない)。
真偽はともかく、昭和2年、碑にするくらいであるから、
この逸話と句は、この頃、そうとうに有名であったのであろう。
残念ながら、今はほとんど埋もれてしまっている、
と、いってよかろう。
なぜここに、大高源吾の句碑があるのかといえば、
むろん、吉良邸のあった本所松坂町はここから
目と鼻の先であるということ。
また、赤穂浪士達は本懐を遂げたあと、
一度、この両国橋まできている。
ただ、ここから両国橋を渡って泉岳寺までいったのかといえば、
そうではなく、このまま川沿いに南下し、一之橋(一つ目橋)で
竪川を渡り、新大橋も素通り、さらに南下、小名木川を
萬年橋で渡り、永代橋までいって、やっと大川(隅田川)を渡り
霊願島、鉄砲洲・旧赤穂藩邸跡と行程は続いている。
なぜ、両国橋を渡らずに迂回したのかといえば、
ここを渡ると、日本橋など、江戸の中心といえる
ところを通らねばならず、江戸市中で狼藉を働いた身として、
これを憚ったのでは、と、書かれているのは池波先生。
(歌舞伎、仮名手本忠臣蔵では、幕府の役人に止められた
ということになっているよう。)
さて。
目の前は、かの、しし鍋・ももんじや、
なのだが、ももんじやの角を右に曲がり、すぐに左。
次の角左側が[ぼうず志ゃも]。
軍鶏鍋や、で、ある。
(江戸初期創業という。落語船徳にも名前だけだが
出てくるので、御通家(ごつうか)はご存知かも。)
[ぼうず]の角を右。
ちょっといくと、右側に、案内板があり、
[(華屋)与兵衛寿し跡]。
与兵衛寿しは、文化年間、江戸前のにぎり鮨を
始めた店として有名。(つまり、にぎり発祥の地。)
こんなところにあったのである。
立地とすれば、先の西両国に盛り場そば、という
ところなのであろう。
ここから、真っ直ぐ行って、一之橋は渡らず、
左に曲がり、二之橋へ。
二之橋。通りの名前は二之橋通りでもなく、
二つ目通り、でもなく、清澄通り。
ここにも案内板が出ている。
そう!。
ここは、本所二つ目。
ここは、池波正太郎作、鬼平犯科帳に出てくる、
軍鶏鍋や、五鉄があったことになっている、場所。
(内儀(かみ)さんに説明する。)
二之橋を渡る。
ここからは、清澄通りを真っ直ぐ南下。
信号二つ目の先。
五間掘の跡、弥勒寺橋跡を越えて、森下交差点。
みの家はこの交差点を左に曲がるが、直進。
カトレアというパンや。
カレーパン発祥の店。
が!。
店の前まできたら、休み。
日曜休みであったか?!。
せっかく、たのしみにしてきたのに、残念。
しかたなく交差点に引き返し、右に曲がり、
新大橋通りの向こう側。
みの家到着。
途中、うろうろしていたので、1時間弱かかった。
創業明治30年。
年季の入った木造の一軒家で、同じく年季の入った看板。
いつ見ても、よいもんである。
硝子格子(がらすごうし)を開けてはいる。
下足のおじさんがいて、番号が書かれた木札をもらって
あがる。
半端な時間で、お客は数組。
入れ込みの大座敷。
コンロが仕込まれた、長いテーブルが二列。
座って、鍋を二人前にビール、それから、たたき、も。
歩いてきたので、実に、ビールがうまい。
鍋もすぐくる。
味噌味。
ザク、と、いっているが、千住ねぎに白滝、麩。
それから、えのきと焼き豆腐も別にもらう。
味噌をかき混ぜて、焼いてください〜。
半生でも食べられます、と、お姐さん。
しし鍋は、よく焼いた方が柔らかくなるが、
馬の場合は、どんどん堅くなるので、火が通るそばから、
食べねばならない。
味噌は甘め。
実にどうも、ばかうま。
たたきも、うまい。
どんどん、食べてしまうので、一人前追加。
焼き豆腐も味噌に馴染んで、これがまた、
うまい。
食った、食った。
大満足、で、ある。
席で勘定。
(ビール2本、二人で1万円弱。)
下足のおじさんの愛想のよい声に送られて
まだ明るい森下の街に出る。
気持ちのよい夕方。
大江戸線で帰宅。