浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

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東博「ボストン美術館 日本美術の至宝」その2

dancyotei2012-05-02



さて、引き続き、上野の東京国立博物館
ボストン美術館 日本美術の至宝」。




次は、第三章「静寂と輝き」。


これは安土桃山から江戸期を通して、隆盛を極めた
狩野派の室町期、初期の作品群。


水墨画に色が入っていく過程というのであろうか。
狩野派といえば金地に美々しく立派に描いたものがイメージだが
その萌芽がわかるもの。


ここも、私はあまり素養がないので、さらっと。
(いや、実際、狩野派も後のものや琳派などは派手でわかりやすくて
好きなのだが、水墨画というのは、まだ、というべきか、私、ピンとこない。)


次。


第四章「華ひらく近世絵画」


この章は私にも、わかりやすい。


尾形光琳などの江戸時代の絵画。


まずは、今回の展示の目玉の二つの龍のうちの一つ、
長谷川等伯の『龍虎図屏風』。


等伯は安土桃山から江戸初期。
この時期なので仕事の場は、主として京都。


『龍虎図』は墨だけの絵だが右に龍、
大きく空間を開けて、左に虎。


六曲一双と大きなもの。
いずれ、お寺か大名屋敷の大広間でなければ、
この空気感は味わえまい。


狩野派のものが二点あり、中でも尾形光琳の『松島図屏風』。


尾形光琳といえば琳派の元祖。
江戸初期。


金地に極彩色の絵。
有名な『風神雷神図』『八橋図』。
このあたりは観たことがある。


今回の『松島』は金地に波と松島のお馴染みのモチーフだが、
波や島の形が妙にモダンに見える。


そして、今、細密な書き込みが、超絶技巧と呼ばれ
大人気の、伊藤若冲の『鸚鵡図』。


しかしこの人、江戸期には有名であったが、
明治に入りまったく顧みられない時期があったという。
そして大人気になったのは、ごく最近。
このためであろうか、重文や国宝に指定されている作品は
ごくわずかのよう。


琳派狩野派ではなく、あの細密な技術は逆に、
亜流とみなされてきた、ということであろうか。


第五章『鬼才 曽我蕭白』。


今回の目玉、で、あろう。


雲龍図』。
ダイナミックでユーモラス。
一気に書いたであろう、筆の勢いがよくわかる。


他に作品は数点。


どれもおもしろい。


曽我蕭白(そがしょうはく)は享保の生まれというから、
江戸中期、京都の生まれ。


異端、さらには狂気とまでいわれた、まさに異彩の画家。
こういう人であるから、いわゆる中央の画壇では
まったく評価されなかったであろうが、意外にも
一般には江戸期にも人気は高かったという。


最後。


第六章『アメリカ人を魅了した日本のわざ』


ここは、刀剣と染色。


染色は着物だが、主として能衣装のよう。
豪華絢爛。


そして、今回の展示で私が一番魅かれたのは実は、
この刀剣。


刀(かたな)、というものを、じっくりと観たのは
今回が初めて。


いや、あった。遥か昔、子供の頃。


親父が若い頃、戦争中、士官学校にいっていたのだが、
その頃から持っていたという脇差が家にあったのである。
子供心に興味があり、とめられていたが、
こっそり鞘から抜いて見たりしていた思い出がある。


刀というのは、刀身というのであろうか、刃だけが単体で展示されている。
拵えというようだが、鞘や柄、鍔はまた別個に鑑賞の対象になるようである。


むろん、まったく知識はない。
が、じっくり眺めてみると、むろん名刀中の名刀なのであろうが、
日本刀というものは、実に美しい。


魅入っていると、母娘連れできていた若い娘さんが
「私、これ好き。この○○(専門用語のよう)の形が
いいのよ〜」などと話している。
刀フェチ?。


こういう若い女性がいるのも、
なんとなくわかるような気がする。


よく時代劇などで夜、武士が刀の手入れをしている
姿があったが、あんなふうに、一人で、刀の刃を
眺めていたら、なにか、愉しそう、、、。


今、刀というものは、いくらぐらいで買えるのであろうか。
一本欲しい、のだが。
(内儀(かみ)さんが嫌がることではあろう。)


そうそう。


刀には刀身だけでなく、鞘、柄、鍔その他、拵えも、
工芸品としての奥深い世界がある。


「わてなあ、中橋の加賀屋佐吉方から参じました、へえ。


先途、仲買の弥一が取り次ぎました、道具七品のうち、


祐乗、光乗、宗乗、三作の三所物、並びに備前長船の則光


四分一拵え、横谷宗?小柄付きの脇差、あの柄前な、


旦那はんが古たがやと言やはったが、あれ埋れ木じゃそうに、


木ぃ〜が違うとりますさかいなぁ、念のため、


ちょと、お断り申します。・・」


これは、錦明竹(きんめいちく)という落語の一節である。
私自身一度覚えたことがあり、今もここだけは喋ることができる。
骨董屋の口上なのだが、これ、刀のことを言っている。
むろん、意味も分からず、ただ暗唱していただけだが、
ちょっと、刀というもの、魅力的な世界かもしれない。


ともあれ。


目玉の展示よりも刀に目が行った、というのは、
我ながら、不思議なもの、で、あった。


さて。


以上で、終了。


ここへ来ると、いつもそうなのだが、
本館のミュージアムショップに寄って、
手拭いを買って、出る。
(ここのオリジナルの手拭いは、他にはない
古風な文様のものなのである。)