浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



鮨・新橋・鶴八 その1

dancyotei2010-11-09

11月5日(金)夜





鮨が食いたくなった。





今日は、午前午後と、ちょいと、重めの会議が二つ。
疲れた。


金曜だし、とっとと、帰ろう。





で、鮨。
どこ?





最近『講座』の下準備もあり、新橋あたりを徘徊することが
多いが、新橋の鮨やといえば、私は、烏森神社そばの、
しみづ


しみづ、は、江戸末、鮨というものが生まれた頃に
さかのぼれる、柳橋美家古鮨の系統。



柳橋美家古、神田鶴八、そして、新橋鶴八、さらに最初の、しみづ、に、
つながっている。


で、この系統を、辿(たど)ってきたのだが、
唯一、行っていなかったのが、新橋鶴八。


いってみようか。


TELを調べ、6時をすぎると、オフィスを出る。


市谷から新橋までは、南北線溜池山王経由、銀座線。


地下鉄の市ヶ谷駅に向かって歩きながらTEL。
30分後くらいに一人なのだが、入れるか、聞いてみる。
女性が出て、ややあって、OKとのこと。


南北線に乗る。


新橋には20分で着いた。
少し間があるので、『講座』の件で確認しておきたいことがあり、
駅付近を歩く。


10分後、烏森口まで戻ってくる。


新橋鶴八、と、いうのは、
ニュー新橋ビルに、ある。


ニュー新橋ビル、と、いうのは、まあ、知らない人は
おそらくいないであろう。
籠というのか網というのか、装飾のついた
新橋駅のホームからも見えるビル、で、
烏森口、SL広場にも接している。


先日、東側の新橋駅前ビルのことを書いたが、
まあ、ほぼ同様の昭和の香り満載のビル。
もしかすると、入ったことのない人も
少なくないかもしれない。


この2階。


丸い階段をトントンと上がって、いく。


この2階は、たいへんなことになっている。
鶴八へいく通路は、中国語(?)訛りのおねえさんが
客引きに、並んでいる。


鶴八は、その並び。


白木の格子で、暖簾が出ている。


7時少し前、格子を開けて、入る。


と、奥に細長い店で、カウンターは右側手前から
くの字に奥へ。
さらに奥には小上がりがあるよう。


先客はカウンターに二組。
出口寄りの右奥に、私よりは少し年輩と思(おぼ)しき男女。
正面奥に六〇を越えておられると見える、背広を着た
小柄な紳士が一人。


奥の小上がりにも、2〜3人であろう、
お客がいるよう。


名前をいって、どうぞ、というので、
あいている真ん中、カウンターの角から二つ目に座る。


若いお嬢さんが脱いだ上着を預かってくれる。
やっぱり、少し歩いたので、暑くなっていた。


瓶ビールを頼む。
(キリン大瓶)


白木のカウンター、その上は、斜めに傾斜のついた、
塗りのつけ台。これは、神田鶴八、柳橋美家古と同じもの。


つけ台の向こうは、私の目の前が若い衆。


その後ろの壁には、今日の魚の木札が掛けられている。
これは、しみづ、神田鶴八も同様。


その隣、左奥が親方のよう。
他に、奥にもう一人、若い女性(親方に顔立ちがよく似ており
娘さんか?)。


親方は、紺の着物姿で、襷(たすき)掛け。
頭は真っ白で、きれいに横分けをしている。
お年は、六〇前後、あるいはもう少し、か。


今、鮨職人で、着物姿は珍しかろう。
普通は白い上っ張り(うわっぱり)である。


確か、先代神田鶴八の親方、さらに、その師匠にあたる、
柳橋美家古の先代親方も紺の着物姿で、あったようである。


この先代柳橋の親方の着物のことは、浅草橋駅高架下にある
美家古の立喰店の親方に聞いた。この時、今は、保健所の


指導なのか、白い上っ張りは着なければいけない、とも
言っていたような記憶がある。


しかし、紺の着物で鮨をにぎるのは、見ていて
よいもの、で、ある。


この親方は物静かな様子。


すみいかの下足がお通しで出る。


私の目の前の若い衆が、どうしましょう、と、
声を掛けてきた。


「なにか、つまみを、、、」と私がいうと、


「なにがよろしいですか?」、と、聞き返される。


「今日いいのは?」


後ろのねたの木札を指し、


「なんでも。」


これは神田も、しみづ、も、そうである。
しみづは、つまみから、にぎりまで、完全におまかせ、
という頼み方はできるが、そうでなければ、お勧めは、
いってくれない。


じゃあ、鰹。


鰹は今は“戻り”で、脂があろう、ということと、
鰹は、にぎりよりは、刺身の方がうまいから、で、ある。


頼むのは、若い衆だが、主として作業をするのは
奥の親方のよう。


4〜5切れ、切ってくれて、
つけ台に置かれ、おろし生姜も別に小皿で出る。


なぜか、4〜5切れのうち、2切れは叩きになっており、
残りは、そのまま。


食べると初夏のような脂が少ない、鰹。
予想した“戻り”、ではないが、むろん、これはこれで、
うまい。






と、いったところで、
明日につづく。





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