浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



餡かけ豆腐

10月1日(金)夜


だいぶ涼しくなった。


20時すぎ仕事を終え、オフィスを出る。


なにを食べようか、考える。


簡単にできるもの。
豆腐?。


餡かけ豆腐にでもするか。


餡かけ豆腐は池波レシピ


鬼平を始め、梅安、剣客、などにもよく登場する。


正直のところ、当初はこんなものを、
と、思いつつ、作って食べていたのであるが、
なんのなんの、段々と、うまいものだ、と、
思うようになってきたのである。


第一、簡単なのがよい。


そして、そこそこ、うまい、こと。


豆腐、と、いうのは、私にとっては、ちょっと
捉(とら)えどころのない食い物である、と、ずっと
思ってきた。


いや、捉えどころがないというよりは、
あまりうまいもの、という印象は、正直なかった。


これは、豆腐のもっとも一般的な食べ方である、冷奴。
これを、むろん、子供の頃から食べているが、
うまいと思ったことはなかった。


これは、おそらく、スーパーで売っている安かろう、わるかろうの、
豆腐ばかり食べてきたからであろうと思う。


それが、最近、値段も多少高く、わけあり風のものが
市場に出始め、自分でも食べてみたり、
また、根岸の笹乃雪のもの


2007年3月

2007年6月


を食べてみたりし、なるほど、うまい豆腐もあるものである、
と、考えるようになった。


豆腐の生(き)の味だけで味わう冷奴は、豆腐そのものの品質
だけがすべて、で、ある。
こうした食べ方であれば、いい豆腐であれば、十分うまい。
まあ、当たり前のことではあるが。


そんな風に豆腐に対する認識は変わってきたわけである。


そんななかで、餡かけ豆腐も食べてきた。
実は、根岸の笹乃雪でも、餡かけ豆腐はやってみたことはある。
(実際、笹乃雪の店舗では、餡かけ豆腐はメインのメニューである。)


笹乃雪の豆腐を餡かけで食べても、実は、そう違いが
わからなかった、というのが正直のところで、
それよりは、餡の味の方が問題だと感じたのである。


まあ、逆にいえば、餡かけ豆腐をなん回か食べているうちに
慣れてもきたのであろう、そこそこうまい餡を作れば、
豆腐を選ばず、うまい、と、思えるようになってきたのであった。


自分で編み出した、それほどのものでもないが、のは、
簡単に作れて、なおかつ、出汁が出る、乾燥椎茸のスライスを
使うこと。これを煮出せば、出汁にもなるし、具にもなる。
その上、簡単。


帰り道、豆腐とともに、椎茸スライスが切れていたので、
ハナマサで購入。


帰宅し、二つの鍋に水を張り、一つには椎茸スライスを入れ
両方とも火をつける。
片方は餡で、もう片方は、豆腐を温めるため。
温めるためのものは、ある程度加熱し、とめておく。


椎茸の方は、一度煮立ってから、弱火にし、
よく煮出す。


10分弱、で、あろうか。
だいぶ、椎茸も戻って、煮汁に色が付いてきたところで、
もう一つの鍋に、一丁の豆腐を半分に切って、入れる。


椎茸の方は、ここに鰹削り節を入れてもよいのだが、
(味噌汁で私がいつもやる、籠に削り節を入れて、煮出す方法で。)
今日は、一計を案じ、ニョクマムを入れてみる。
ニョクマムというのは、ご存知の東南アジアで使われている魚醤。
魚醤は基本的には、加熱すると匂いは飛びやすい。
むろん、たくさん入れてはだめだが、ちょいと、
であれば、煮立てれば、匂いは飛んで、旨みだけは、汁に残る。
和食の出汁に入れるという技をプロがやっているのを
以前になにかで見たことがあったのである。


そこに、酒としょうゆ。
しょうゆは、濃口だけではく、薄口も入れてみる。


これで、一度煮立て、味見。


濃口しょうゆを足し、微調整。


OK。


水溶き片栗粉を溶き入れて餡、に、する。


温まった豆腐を鍋からすくい上げ、皿へ。
餡もかける。





ふむふむ、なかなか、うまい。
やはりこれ、豆腐よりは、出汁の味か。


だが、この季節になってくると、
温まって、うまいもの、で、ある。


梅安の彦次郎ではないが、これだけで、
酒の肴としては、十分。
他にはなにもいらない。


一丁全部、餡とともに、食べてしまった。




以前、たいしてうまいと思わなかったものなのだが、
不思議なもの、で、ある。
私も歳をとった、と、いうことなのか、、。