浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



酒盗のパスタ

dancyotei2010-04-25


4月24日(土)第一食


さて。


土曜日。


まったくひどいもの、で、ある。
なにかといえば、このところの天候。


先週の東京の雪、その後も、水曜日の東京の
最高気温が25℃、金曜日は9℃。


野菜も高騰。


体調を崩されている方も多いのではなかろうか。
私も先週の講座の後から、いま一つ。
(元来、アレルギー体質で、鼻炎から副鼻腔炎
関係はなかろうが、比較的ひどい腹下し。)
疲れもあるのだろうが、仕事もそこそこ忙しく、
ヘロヘロの一週間で、やっと週末がきた、という感じである。


朝起きて、なにを食べようか。
考える。


なにかさっぱりしたもの。
腹も、下しているので、うどん?。


先週食べたか。


思い付いたのが、酒盗のパスタ。


以前から作って食べているが、簡単で、うまい。
拙亭には、酒盗は常備してある。
つまみ、でもいいし、茶漬けにしてもよい。


皆さんは酒盗、というものをご存知であろうか。
まあ、一般には、そうそうあたり前の食品では
ないかもしれない。


酒盗、という名前は、酒を盗んででも呑みたくなるほどうまい、
と、いう、まあ、ニックネームのようなもので、
なにかといえば、鰹の内臓の塩辛、で、ある。


塩辛といえば、いか、が最も一般的であろう。
ほや、なども塩辛としては、ある程度知られている
ものではあろう。


カニズムとすれば、魚介類の内臓の消化酵素
で発酵が進むらしい。
このため、塩辛といえば、
内臓を必ず入れるのかもしれない。


塩辛は、広くいえば、魚介類の塩蔵、発酵食品である。


もっと発酵が進むと、形がなくなり、
秋田のしょっつる能登のいしる、などが有名だが、
魚醤と呼ばれる調味料になる。


海に四方を囲まれた我国にはこの類の食べ物は
随分とある。


鯵などを、内臓の発酵したつゆ
(このつゆは魚醤、と、いってよいのであろう。)
に漬けて干す、くさや、などもその類であろう。


(鮨の原型といわれている、琵琶湖のふなずしなど、
米麹で発酵させた、なれずしも、魚介類の発酵食品と
いえる。しかし、醗酵のメカニズム、味の方向は、
塩辛、魚醤とは少し系統が違うかもしれない。)


また、魚醤、塩辛など魚介類の発酵食品は、
近隣諸国にもある。
ご存知のように、塩辛は韓国にもあるし、
魚醤は、ナムプラー、チョクマム、などと呼ばれ、
フィリピンベトナム、タイ、インドネシアでは基本の調味料、で、ある。


また、中国には、鹹魚(ハムユイ)といって、
くさやに近い、塩蔵で発酵したクサイものも、ある。


日本では今は、塩辛は酒の肴などとして、そのまま食べることが
多いが、地方によっては、調味料としての使い方もある。
私が学生時代、民俗学のフィールドワークをした
新潟県北部の漁村などではでは、鰯の塩辛(ショッカラ、という。)
を野菜の煮物などの味付けに使っていた。


このあたり、塩辛、魚醤、くさやの類をもって、
我国を含め、東アジア、東南アジアは魚介類発酵食文化圏
と、いえるかもしれない。


欧米はどうであろうか。
元来、欧米人は我々と比べ、食生活が圧倒的に肉食に寄っており、
チーズなど乳製品の発酵食品は発達しているが、
こうした魚介類の発酵食品というのは、あまりなさそうである。


例外はやはり、魚介類をたくさん食べる、イタリアであろう。
確か、シシリアなどには、鰹の塩辛に近いものも
あったはずだし、また、ピザなどにものせるので一般的な、アンチョビは
鰯の塩漬けで、これも塩辛に、近いものだろう。


ともあれ、魚介類発酵食品は、うまい。
発酵することによって、くさくもなるが、アミノ酸が増えて、
うまくなる。


とまあ、そんな位置付けの中の、鰹の塩辛。
酒盗


くさやほどではないが、やはりクサイもの、
ではあるが、酒盗はうまいもの、で、ある。


拙亭に常備してある酒盗のブランドは、
小田原の、しいの、の、もの。


東京で求めようとするとここのが一般的であろう。
全国的には、鰹節の生産地。
内臓は鰹節加工時の副産物のため、鰹節を加工する地域に
酒盗は多くあるようである。
例えば、鹿児島、高知、静岡、などである。


先に書いたように、アンチョビはイタリアンでは
味付けに使われ、パスタにも使われる。
それで、塩辛、酒盗のパスタ、と、いうことになる。
(そういうことなので、酒盗でなくとも、いかの塩辛でも
パスタには、可、で、ある。)


作る。


と、いっても、簡単。


まず、湯を沸かし、スパゲティーを茹でる。
普通、パスタを茹でる時には、塩を入れるが、
酒盗は塩味が強いので、少なめに。


同時進行で、にんにくのスライス。
2かけらほど。


フライパンにオリーブオイルをひき、
熱くなったら弱火。


香りを出す。


ここに酒盗を大さじ1ほど。


塩辛の類(たぐい)は、熱をかけると
形がなくなる。


軽く炒めて、置いておく。


スパゲティーの茹で具合をみる。


アルデンテ、OK。


フライパンにスパゲティーを移し、和える。


味見。
ちょっと、足らない、か。


酒盗を、足す。


胡椒。


OK。


他の具は、なにもないので、まあ、ぺペロンチーの、
というところか。





パルメザンチーズもなにもかけない。


まったく簡単だが、さっぱりして、うまい。


過去の日記を検索してみたら、
酒盗のパスタは、バリエーションがあった。


キャベツ





トマトソース


まあ、こんなふうにしても、
うまいパスタができる。