浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



銀座・新富寿し

3月13日(土)夜


さて、土曜日。


今週も、講座の準備、など。


夕方、内儀(かみ)さんに付き合い、
着物を着て、日本橋のギャラリーへ。


鰹節のにんべんの近所の細い路地にある、
古い民家を改造したちょっと雰囲気のあるところ。


路地裏であるが、日本橋のこんな場所、
どこかから移築でもしたのかと思うほどだが、
戦後に建てられたものらしい。


さて、なにを食べよう。


内儀さんが鮨が食いたい、と、いう。
日本橋で鮨、と、いえば、吉野、と、思い、
調べてみると、土曜は夜はやっていないよう。


銀座、新富寿し、に、しようか。


一応、TELを入れ、銀座線に乗って、移動。


銀座で降りて、地上に上がる。


晴海通りを築地側へ歩き、一本目、
あづま通りを入る。


新富寿しは、すぐ左、
ビルの一階。


いわずと知れた、池波レシピ。
昨年暮れに初めてきて、以来、で、ある。


入ると、先客は一組。


羽織りを脱ぎ、たたんで、後ろの棚に置く。
座り、ビールをもらう。


つまもうか。


まずは、目の前にあった、やりいか。


もちろん、煮いか。


子持ちです、と、親方。
今の季節は、やりいかは、子持ち。


一杯を輪切りにして、付け台に置かれた。
たれをかけていないで、そのまま。


煮いかは、この前「しみづ」でもそうだったが、
たれは、かける方が、多いように思う。


わさびじょうゆで、食べてみる。
むろん、これはこれで、うまい。


もう少し、つまもう。


内儀さんは、平貝がよい、と、いう。
私は、この前、「しみづ」で食べなかった、さより。


とはいっても、二人でつまむ。


平貝は、普通に薄く切って。


さよりは、しっとり、うまい。
「鶴八」などでは、酢洗い、を、していたと
思われるが、そんな感じは、しない。


ビールを二人で、二本、呑み終わり、
お茶で、にぎりにしてもらうおう。


いかと、昆布〆(平目)。


すみいかです、と親方。


もちろん、そうであろう。
もう春になり、すみいかもだいぶ大きく
なっている、のであろう。
厚みがある。


先ほどの、さよりもそうだったが、
いかも、しっとりとしている。
前にきたときには、感じなかったが、
ここの特徴なのかもしれぬ。


昆布〆は濃厚なうまみ。


しかし、前回も書いたが、ここは、必要なこと以外は、
気持のよいくらい、まったく喋らない。


次は、光りもの。
春子と、小肌。


これもそうだ、水気が多い。


そして、ここのにぎりの大きさは、小さめ。


小さめで、小肌はちょっと、ひねった形で
にぎられ、美しい。
やはり、江戸前鮨で、最も美しいのは、
小肌で、あろう。


むろん、味はよい。


中トロ。
内儀さんは、これに、とり貝。


中トロは、この前の「しみづ」に、近いかもしれぬ。
柔らかく、あまい。


光りもので忘れていた。
鯵もあるが、季節柄、〆鯖、鰯。


鰯は軽く〆てある。


そして、鯖。
やはり、今年の鯖は、脂がたっぷりのって、
そうとうに、うまい。


蛤、蝦蛄。


蝦蛄は、子持ち。
これもうまい。


忘れていた。
鰹があるといっていた。


まったく早いもの、もう初鰹。
表面が炙られた、たたき。


香ばしく、また、鰹自身は、さっぱりと、
香りもよく、うまい。


〆は、海苔巻。


干瓢の味が深いように思う。
深い、と、いうのは、説明をしないとわからないが、
甘い、というのとも違い、コクがある、というのか、
濃い、という感じ。


二人で、ビール二本、この内容で、
21000円ほど。


なにか、段々、無口なここの雰囲気にも
慣れてきた。
むろん、無口だからといって、放っとかれている
わけではない。お茶の差し替えにしても
常に、細かい気遣いはしてくれている。


基本的には、「鶴八」などとも、微妙に違うが、
やっぱり、オーソドックスな江戸前仕事を、
続けている、と、いってよいのだろう。
そういう意味では(「しみづ」、の、ような)
驚かせてくれる、と、いうことは、ない。
しかし、それで過不足なく、十分にうまい、
と、いってよいし、満足できる鮨や、で、ある。
(仮に、ここが池波先生の行きつけの店でなくとも。)


ただ、前回もそうだったが、ちょっとお客の数が、
淋しい。


この無口さは、今のお客に受けないのか。
なぜであろうか。






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