浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



浅草観音裏・鮨・久いち

dancyotei2009-05-27

5月23日(土)夜


さて。


土曜日。


今日は、内儀(かみ)さんが、鮨が食いたいという。


どこにしようか。


ちょっと久しぶりになるが、観音裏の一新はどうか。


当日であるが、5時頃、TELをしてみる。
と、留守番電話で、出ない。


ありゃ。


休みか?


うーむ。


どうしようか。


観音裏、鮨や、つながり、だが、一軒いってみたいところが
あったのである。


久いち、という店。
私は知らなかったのだが、できたのは、2〜3年前らしい。


なんでも、かの銀座の名店、久兵衛で修業をした人で
それで、『久』いち、のようである。


私は、むろん銀座久兵衛本店にはいったことはない。
一度ぐらいは、いってみたいが、まあ、特段、
今すぐ行ってみようとも思わない。


しかし、どんなものか、ちょっと、興味は惹かれる。


ということで、久いち、に、TELをしてみると、
入れるようだ。
7時に予約を入れる。


さて、観音裏。
今日は、運動かたがた、歩いていこうか。


30分はかかるであろう、6時半、
私は雪駄に青いアロハという、いい加減な格好で、
内儀さんと、出る。


元浅草から真っ直ぐ東へいって、新堀通りを渡り、
国際通りまで出る。
向こう側に渡り、北上。
浅草通りも渡り、さらに北上し雷門通りも渡り、
すし屋通りに入り、六区ブロードウェイ
土曜日のこの時間は、ここの人通りは、もうさほどでもない。
ひさご通りに入り、言問通り千束通りの交差点。
これも渡って、右にいき、一つ目、大学芋やの角の路地を
左に曲がり、久いち、は、少しいった左側。路地の角にある。


今流行りの和食やによくある、シックな塗りの壁。
幅一間ほどの目立たない入口。
メニューが外にも出されており、
白く長い暖簾が下がる。


入ると、中は明るく、思ったより広い。
右側にカウンター。
左奥に、少しテーブル席もあるよう。


カウンターの中のつけ場には、若いご主人一人。
おそらく、30代であろう。


裏方は若い女性が二人、の、よう。


先客は三組。
私たちと同世代と思われる夫婦二人連れ二組と、
もう少し上、初老といった感じの夫婦。


名前をいって、あいている真ん中の席に座る。


カウンターの奥は、つけ台があり、
例のガラスの冷蔵ケースはなく、すぐに俎板。
ねたは、白木の木箱に入れているよう。


瓶ビールをもらう。


お通しは、三種類あり、どれにしますか、
というので、私は、稚鮎の南蛮漬け、
内儀さんは鮟肝。
(内儀さんの選択は。時期外れである。
あーあ。などと思いつつ、、。)


稚鮎の南蛮漬け。初夏の味覚。
7〜8cmの稚鮎が二匹。小皿に並べられて、出される。


揚げてあるのか、よくわからぬが、さっぱりとし、うまい。
ビールを呑みつつ、つまむ。


右隣のお客は、お好み。
左隣の二組は、セットのよう。


先のメニューにも出ていたが、7000円、10000円の
セットがある。


どうしようか、と、考えていたところ。


ご主人が、どうします?
少しおつまみ、切りますか。
というので、ここで、なんとなく、お好みモードに入る。


つまみは、鯵。(もう一種頼んだような気もするが、
忘れてしまった。)
(今日はこの店、初回でもあり、写真はなし。
最初から私もそのつもりで、聞いてもいない。)


鯵。大葉をはさんで巻き、細巻きのように
一口に切って、これも小皿にのせて出てきた。


ゆずの香りも効かせ、なかなか細かい仕事をしているよう。
久兵衛の仕込み、ということであろうか。


なかなか、うまい。


ビールをもう一本もらい、にぎりにしてもらう。


白身から、鰈昆布〆と、いさき。
(どれも一個ずつ。)


にぎりの大きさは、とても小さい。
それこそ、浅草橋の美家古鮨の立ち喰いなどと比べると、
(体積としては)1/3程度かもしれない。
だが、酢飯とねたのバランスは、酢飯も主張できる割合では
あるだろう。


鰈昆布〆はねっとり。
いさきの刺身、にぎり、というのは、珍しい。
皮付きでにぎっている。


次に、光りもの。
春子に、小肌。


小肌はにぎりが小さいので、半身。
春子も小肌もうまい。


内儀さんは、〆具合が強めでは?といっていたが、
しみづなどに比べれば、普通、で、あろう。


次に、いか。


なにかと聞くと、すみいか、という。
これは好みの問題かもしれぬが、小さめのにぎりよりは、
すみいかは、もう少し、大き目の方が、
存在感があってよい、ように思われる。
(が、まあ、いかだけ、にぎりを大きくするわけには
いかなかろう。)


このあたりで、白く丸いものが出た。
べったら漬け、かと思ったら、
長芋酢漬けを輪切りにしたもの。
これはその、ちょいと、うまいもの、で、ある。


ヅケ、なんかどうです?というので、
ヅケは内儀さんの好物。


ここも即席のヅケのようで、頼んでおく。
それから、海老。
これも、頼んでおく。


貝類は?というので、
私の好きな、平貝と、鮑(あわび)。


平貝は軽く炙って、海苔でとめてにぎってある。
十分にうまい。


さて。
問題の、鮑、で、ある。


なにが問題か。
最近、神田鶴八などへいくようになり、
同じ鮑でも、塩むし、という言い方で、
置かれているねたがあることに、気が付いた。


それ以前、太助寿司にしても、松波にしても
(太助では、鶏の皮と一緒に煮ている、などといっていたが。)
とても柔らかく、滋味のある味。


それに対して、塩むし、と呼んでいるものは
もう少し、色も黒く、硬さもカタメ。


(天神下一心の塩むし)


これがどう違うのか、知りたかったのである。


と、ここで出てきたのは、前者。
柔らかいもの。
これが、久兵衛の仕方、か。
と、すると、やはり、系統が違う、のであろう。


松波などは、すきやばし次郎、吉野鮨の系統。
久兵衛も、鮑については、同じ、ということになろうか。
(美家古鮨の系統だけ違う、のかもしれぬ。)


ヅケ。
きれいな赤身で、うまい。


海老もきた。
頭も入れて、茹で上がりをにぎってくれる。


内儀さんが、その皮をむく手つきのあざやかさ、
速さ、を褒めたら、ご主人は、こんなの簡単ですよ、
熱さなんか感じないし、修行の頃なんか、もっと
たくさんやってましたからね、と。


そうとうに小ぶりな、サイマキ海老。
頭も含めて、にぎる。


色もよく、うまかった。
(のだが、ちょっと、頭が苦かった。
肝の苦い部分を取り残した、のか、、。)


そろそろ、仕上げにかかる。


穴子
小ぶりだが、二つにぎってくれた。
塩と、たれ。


“塩”は、新橋のしみづ、でも出す。
両者、別の系統であるが、こうなると、
最近の流行り、といってよかろう。
(しみづ、は、にぎった一つを、包丁で半分に切って
塩とたれをかけていたが、ここは別々ににぎってあるのが
違いではある。)


むろん、うまい。


最後は、海苔巻。


わさび入りの干瓢巻。


途中から、辛口の酒、冷(ひや)を一合。
内儀さんは焼酎のロック一杯。


うまかった。


お勘定。


〆てお勘定は、二人で、ぴったり20000円。


どうであろうか。
かなり、割安、ではなかろうか。


おまかせ、で、頼むのと、どうなのか、わからぬが、
これで十分である。


勘定をし、店の出入り口まで、ご主人が見送ってくれたのだが、
このとき、私の足元も見て、いい雪駄ですね、と。
内儀さんが、まつもと、です、と、横からいう。
まつもとは、私がいつも買っている、ひさご通りの履物や、で、ある。)


ここへくるとき、ひさご通りでそのまつもと履物店の、前を通ったので、
そのことを内儀さんと話をしたのであった。


すると、ご主人は、私も地元なんで、昔からあそこですけど、
こういう仕事してると、すぐだめんなっちゃうから、
今は、安いのです、と。


あー。


なるほど。
このご主人は、やっぱり地元の人であった。


この、観音裏に店を開いているということ。
そうであろう。


久兵衛から独立、というとだいぶ話題で、
いろんなブログやら、レビューが書かれている。
(かくいう私もその口、ではある。)


それらを読むと、曰く、
この界隈のことを、少し呑みやのある住宅地、だの。
このご主人を、声がでかい、お喋り、など。


この界隈は、昔から、むろん今も、居住という意味で、
住んでいる方々はたくさんいるだろう。しかし、ここは、
いわゆる住宅地、ではない。
散々書いている


2009年

2007年


ので、今さらくどくは書かぬが、浅草寺の裏手、
通称観音裏と呼ばれているこのあたりは、目と鼻の先に
かの吉原もあり、往年の華やかさはなかろうが、
今でも料亭があり、芸者さんの手配をする、見番もあり、
立派な、花街、で、ある。


また、このご主人のお喋り、声のでかさ。
これは、まあ、キャラクター、ということもあろうが、
おそらく、この地元、浅草で育たれたということであろう。


間違いなく『下町のにおい』である。


そうでなければ、この場所に店は開かない。


ともあれ。


さすがに、久兵衛で修業をしたのは伊達ではなかろう。
細かい仕事もきちんとこなし、味もよい。
同時に、8人の客にもよく目を配り、不足はない。


若い生きのよい鮨職人。たのしみ、ではないか。




雪駄を引きずって、帰宅。






TEL 03-3874-2921
住所 東京都台東区浅草3丁目18−8