浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



柳橋・洋食・大吉

4月12日(日)夜


作家池波正太郎氏の小説、エッセイの作品に登場する、
メニューや、食いものや、を、私は『池波レシピ』と、呼んでいる。


で、今日は、久しぶりに、ちゃんとした、と、いうのもへんだが、
池波レシピ、で、ある。


なぜ、ちゃんとした、かというと、
この日記で、まったく書いていないもの、だから、で、ある。


なにぶん、池波先生は故人であり、作品には限りがあり、
必然的に、私の書く、池波レシピも
なん度も同じメニュー、同じ店を登場させてしまう。


読んでいただく皆さんもそうだろうが、
他ならぬ私自身が飽きてしまう。
そのため、最近は、あまり書かなくなってしまっている、
というのが、本当のところ、ではある。


2003年であったか、講談社から「おおげさがきらい」から
始まる五冊の未刊行エッセイ集が出版された。
ファンの方であればご存知であろう。


私なども、未刊行、などと銘打たれると、
真っ先に、買い求め、読んだ。


の、であるが、、、
うかつにも、最後の一冊「新しいもの古いもの」


新しいもの古いもの (講談社文庫)


だけ、買い漏らし、読み漏らしていた、ことに
最近気が付いたのである。。


ここに載っていた、柳橋の洋食や「大吉」。


この店は、噂、としては、なんとなくは知っていたが
いったことはなかった。


今日は、ここにいってみようということである。


ここは、日曜日もやっている。
夜、予約をするまでもないであろうと、
内儀(かみ)さんと、出かけてみる。


先日の中華、馥香の一本先を隅田川側に入った右側。


元浅草から歩いて、10分ちょい。


きてみると、ビルの地下。
先生のエッセイでは、


『まっ白な調理服を着たコックたちがきびきびとはたらくさまが、
表の入口のガラス越しに見え、、』


とあるが、きっと、これは昔の姿、なのであろう。
ビルになり、地下に入っている。


なにしろ、昭和48〜9年の作品で
この時、『開店してまだ4年』と、書かれている。
とすると、今となっては、開店はもう40年前。


『まだ微(かす)かながらも大川端の名残をとどめている
柳橋の花街、、』とも書かれている、頃、なのであろう。
(今となっては、このあたりは、微か、にも
名残はないだろう。)


階段の入口に、メニュー、などとともに、
ずばり、先生のエッセイのこの店が書かれている
ページが広げて見えるように飾られている。


トントンと、階段を降りる。


降りると、思いがけず、広い。
宴会というのか、団体客もあり、なかなかに、にぎわっている。


赤白、ギンガムチェックのテーブルクロスの掛けられた
テーブル。奥に案内され、座る。


『清潔で活気に満ちた店内、親切なサービス。
良心的な値段と味。
 これはまさに、戦前の東京下町の洋食屋である。
レストランではない。』
(あらかた引用してしまった。)


まずは、ビールをもらう。


メニューを見ても、店の雰囲気も、
立ち働く、女性も、男性も、戦前、なのかは私には、
わからぬが、これは確かに、、。


同じ下町でも、浅草の
ヨシカミグリルグランド


などとも違うし、まして、根岸、香味屋とは程遠い。


洋食や、と、いうよりは、食堂と、いった方が
ぴったりくるかもしれない。


メニューを見ると、値段も安い。
コロッケ一個、というような頼み方もできるよう。


こうなると、もう、内儀さんとバラバラと、
好きなものを頼むことにする。


ビールについてきた、お通しがわりの、お新香。




まあ、これは普通。どちらかというと、古漬け。


ベーコンの載ったサラダ。





メンチカツと牛のコロッケ、一個ずつ。





ちょっと、いびつ、だったりするが、
さっくりと揚げられ、普通にうまい。


串カツ。





これは、なかなか、うまかった。
どうも、ここは、肉料理がお得意、の、ようである。


池波先生も書かれているので、その頃から、のもの
なのであろう。


そして、今日の出色。


スパゲティーナポリタン。





実は、洋食やで、いつも私が頼み、好物でもあり、
また、先生のエッセイにも書かれている、
チキンライス。これが今はなかったので、
(オムライスはあったが。)頼んでみた。


太めの麺で、これぞ、昔のナポリタン。
(おそらく、戦前の、ではなかろうが。)


量も多いのだが、とにかく、うまい。


どううまいのかというと、味が濃い。
きっと、市販のケチャップではないのだろう。
トマトソースに自前で味を付けていそう、である。
妙にクセになる味。


これであれば、チキンライスもきっとうまい、はず。
昔はあったメニューのようだし、オムライスができるのだから、
チキンライスもできないはずはなかろう。
(逆に、なぜ、ないのだろうか?)


是非、作ってもらいたいもの、で、ある。


最後は、内儀さんの希望で、スペインオムレツ。





頼みすぎ。


量が多かったので、これは、半分、包んでもらった。


勘定をして、出る。


本当に、普通の洋食の食堂。


池波レシピなどと、期待をすると、肩透かしを食ったように
感じるかもしれない。


しかし、安くて、うまい、は、変わっていない。
それは間違いないだろう。




しかし、やっぱり、チキンライスが食べてみたいもの、
で、ある。






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