浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



市ヶ谷・カレー・パク森

10月15日(水)昼


市ヶ谷なのだが、外のビルで会議。


昼飯をそのビルの近くで食う。
場所は、オフィスとは反対のお濠を渡ってJR市ヶ谷駅の向こう側。
靖国通り沿い。駅から少し靖国神社の方へいったところ。


都営新宿線市ヶ谷駅の九段下寄りの出口よりは、
少しJR市ヶ谷駅寄り、というところ。


市ヶ谷、と書いているが、本来の市谷はお濠の外側、で新宿区。
お濠の内側、南側は千代田区
JR市ヶ谷駅は、五番町。靖国通り沿いは、南北分かれて
九段南と九段北。お濠側が北で、反対側が南。


江戸の地図を出してみよう。





この地図で、三番丁通、と書かれているのが、
今の靖国通り、と、思われる。


見た通り、すべて武家屋敷。
町人が住む、町屋はまったくない。
それも、大きな大名屋敷ではなく、皆、中小の旗本屋敷。
靖国神社は、もう少し東の方で、この範囲には入らないが
むろん、この江戸の頃には、靖国神社は存在しない。
しかし、そのあたりも、すべて、旗本屋敷。
ちなみに、靖国神社は、明治二年、東京招魂社として戊辰戦争での
明治新政府軍の戦死者を慰霊するために建てられている。)


見ても、たいしておもしろくもないかもしれぬ。


三番丁通、と書かれているところから、
左側、市ヶ谷御門寄りに小さな三角(▽)が
描かれているのが見えると思う。
これは、坂、であることを意味している。
三角の向いている方向が坂の上で、今の靖国神社方向に
坂になっているということ。
もちろん、今も、靖国通りは、このあたり、市ヶ谷駅前から、
靖国神社に向かって、なだらかだが、坂になっている。


もう一つ、この地図では道に小さな長四角のしるしがあるのが
おわかりになるであろうか。
これは、辻番所(つじばんしょ)。
街角にある、今でいう交番のようなもの。


今日のこの地図は、切絵図という、いわば、
地域の区分地図の「番町」編である。
私が、引用するのは比較的、大きな江戸全図であることが多い。
江戸全図には載っていないが、切絵図には、
このような番所も表記されている。


番所は、幕府が設けたものと大名などが設けたものがあり、
このように江戸の街角に多数あった。
(ちなみに、これらは武家の設けた番所だが、これ以外にも
町方には町方で設けている、自身番(じしんばん)、
木戸番(きどばん)というのもあった。それぞれが、指揮命令系統は
違うが、江戸の町の、日常の治安と自治を預かっていたのである。)


さらに、この地図の「市ヶ谷御門」前にも番所があるのが、
お分かりになろう。
これは他の辻番所とは違い、大番所と呼ばれたものである。
お濠の各門は、むろんのこと、江戸城を守るという意味があり、
番所はここだけではなく、四谷、牛込、小石川、と、
外濠沿いの各門、いわゆる見附、をはじめ、肝心の大手門をはじめとする、
内濠の門にも置かれていた。


閑話休題


パク森、で、あった。


カレーやのパク森は知っている人も多いかもしれない。
レトルトカレーになっていたり、横浜のカレーミュージアムにも
入っていた。
また、渋谷の道玄坂にも店がある。


今、市ヶ谷はこの靖国通りに店があるが、もともとは、
お濠の外側の新宿区、市谷左内坂の、今は、ラーメンやの
庄の、になっている場所にあった。


(なん回も書いていた。)


99年


04年


05年


開店したのは、いつ頃であったろうか。
私が、名古屋へ転勤する前なので、10年以上前だし、
ひょっとすると15年前、というようなことになるかもしれない。


開店当時から通っていたのだが、あれよあれよという間に、
渋谷に店を開き、さらにレトルトカレーも出し、横浜にも店を出し、
お濠の向こう側にも店ができ、、そして、
数年前、元の左内坂の店は閉められた。
(その後に、庄のが開店したのであった。)


私など、市谷でも、お濠の外側に務めており、毎日利用する駅も
市ヶ谷ではなく、牛込神楽坂なので、このお濠の内側にくることは
やはり、さほど多くはない。
それで、パク森のカレーだけを食べに、わざわざくる、
ということも、ない、のではあった。


混む、お昼少し前にきてみる。
店に入り、カウンターに座る。


以前、左内坂に最初の店ができた頃、レトルトカレーの箱に
デザインされている、髭のご店主は店にいたが、この店には
いない。(今は渋谷の店にいるのだろうか。)


この店には、ノーマルなチキンカレーをはじめ、
様々なカレーが存在するのだが、私はここでは、
店の名前がついた、パク森カレー以外は、食べない。


また、ここでは、量が、ノーマル、中盛、大盛、と選ぶことができ、
辛さも、甘口から、ノーマル、中辛、大辛、など、なん段階か、
選ぶことができる。


以前から決まっている私の頼み方は、パク森カレーの
中盛、中辛。


そもそも、パク森カレーなるものは、どんなものか。
まず、ご飯を、高さ3cm、直径15cm程度であろうか、
天面がまっ平らな、きれいな円形に盛り付ける。
これは、なにかの型に入れるのではなく、しゃもじだけで
盛り付けている。まあ、ちょっとした技術、で、あろう。


この平らな、ご飯の上に、いわゆる挽肉のドライカレー
(カレー粉でご飯を炒めたドライカレーではなく、
挽肉自体にカレー味の付いたドライカレー)が、
ご飯と同じ形の円形で、やはり天面はまっ平らに丸くのせる。
この上に、色どりにパセリの細かいのが、パラパラ、と、のり、
最後に、とろみのある欧風カレーをご飯にかかりながら、
周囲に盛り付ける。


こんな具合になっているもの、で、ある。
文章で書くと長い。写真を見た方が、早かろう。





こんなもの。
几帳面に盛り付けられているので、見た目に美しい。


そして、2種類のカレーを同時に食べる、というおもしろさ、
ということである。


しかし、挽肉のドライカレーと、とろみのある欧風カレーを
両方かけているカレーというのは、どうなのであろうか、
珍しいとは思われるが、まあ、他にもある、アイデアではあろう。


食べる時には、この2種類のカレーを混ぜながら
食べる、ということになる。


と、いうことは、むろん混ざった時に、どういう味になるのか、
を計算しなければいけないと、いうことである。


パク森カレーのうまさは、この計算が、先の盛り付けと同様に、
とてもきちんと、几帳面にされているのではないか、と、思うのである。


味を分析すると、欧風カレーの方は、ベースはウスターソース
果物系であろうか、あまみ分もあるように思われ、比較的濃厚。
ドライカレーの方は、挽肉の食感と欧風カレーの味を
補う役目、ということになっているのか。


味の組み立ての細かいところまでは、むろんわからないが、
やはり、なんともいえないクセになるうまさ、を作り出している。


久しぶりに食べたが、かわらず、うまい。


中辛、中盛で、1050円。


スタンドカレー店としては、決して、安くはない。
しかし、どうしてどうして、カレー屋パク森、
味のレベルは高い。






カレー屋パク森 市ヶ谷駅前店
東京都千代田区九段南4-8-30 アルス市ヶ谷ビル
03-5215-8560