浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



けんちん汁

10月30日(火)夜


夕方、なにを食べようか、考える。


だいぶ、寒くなってきた。
自分の池波レシピのページを読み返してみる。


あんかけ豆腐など、季節、で、あろう。


すると、


*****


清水門外の盗賊改役宅の外の濠端に夜、茶飯売りが


荷を降ろす。それを、平蔵が、うさぎ(木村忠吾)などに買いにやる、、。


その茶飯売りは、餡かけ豆腐や、けんちん汁も出す、と、いう。


池波正太郎著「鬼平犯科帳八巻」より「あきれた奴」 文春文庫)


*****


こんなのがでてきた。
あんかけ豆腐もよいのだが、けんちん汁。


筆者、けんちん汁、というのは、子供の頃から、
どちらかというと、嫌いなもの、で、あった。
お気付きの読者はいらっしゃるかもしれないが、
元来、野菜嫌い、と、いう性癖を持っていた。


むろん、成人し、三十を過ぎ、四十を過ぎ、今は、
野菜そのもののうまさ、と、いうのも、わかるように
なってきてはいる。


それでも、子供の頃の記憶が残っており、
池波作品にけんちん汁が出てきても、さほどうまそうに、思わなかったし、
今まで、作りたいと思ったことはなかったように思う。


池波先生はけんちん汁が、好きだったのではなかろうか。
作品では、上のもの以外にも、出てきていると思う。


剣客では、おはるが、作り、小兵衛と、大治郎に出す、、、
というようなシーンもあったように思う。


気取らない飯屋、あるいは、家庭の料理。
両方のイメージがある、のであろう。


よし、作ってみようか。


帰り道、スーパーに寄り、材料を買う。


野菜は、ごぼう、里芋、にんじん(これは家にある)、ねぎ(これもある)、
たけのこ、椎茸、あたりか。
里芋はむいたもの、たけのこは水煮が安いのでそれにする。
椎茸は、乾燥のものも買ったのだが、生の方がなんとなく
うまそうな気がして、生も買ってみる。
それから、豆腐、木綿。こんにゃく。


これでよかろうか。
野菜だけでもよいのだろうが、鶏肉を入れるレシピもあるようだ。
もも肉を少し買う。


帰宅。


まずは、ごぼう
金だわしで、きれいに洗い、乱切り。


材料の大きさは、どれも基本的には、
小さめにするのがよいのだろう。


ごぼうは、ささがきよりは、煮込み料理であるから、
少し、大きめで、1cm幅程度の乱切り。


豆腐は手でちぎり、ざるにのせ、熱湯をかける。
こんにゃくも小さめに手でちぎり、湯がく。


椎茸は、石突を取り、1/4に。


にんじんは小さめ。ねぎは、煮えやすいので、大きめ。
里芋は中くらい。鶏肉は、小さめ。


煮るのは、時間もないので、圧力鍋にしてみよう。


野菜をそれぞれ、下茹でし、鰹だしで煮る、というレシピも
あるようである。
これはどちらかといえば、和食のプロのやり方であろう。


直に、胡麻油で炒めて、水で煮る、で、よかろう。


圧力鍋はでかいので、問題はないが、
ごぼう二本、豆腐一丁、里芋六個、などなどで、
かなりの量で、ある。
下から、へらで返しながら炒めるのだが、なかなか、たいへんである。


全体に胡麻油がいきわたり、野菜の表面の色が変わってきたのを
目安に、水、酒、しょうゆ。
しょうゆの量は、筆者には珍しく、少なめ。
野菜から味が出るので、薄めでもよいだろう。


やはり、汁であるから、ヒタヒタより、多目。


ふたをし、点火。
沸騰し、加圧。弱火にし、そのまま10分弱。
火を止め、放置。


トータルで、20分ほど。


ふたを開けてみる。


うゎ、、、!。


豆腐にスが入ってしまった。
(ス、とは、お分かりであろうが、細かい穴、で、ある。
漢字もあるようだが、馴染みもないので、カタカナ表記にした。)


豆腐を圧力鍋で煮れば、こうなることぐらい、
想像をすべきであった。
結局、20分はかかっているので、普通に煮てもよかった。


盛り付け。


けんちん汁には、ビールよりは、酒、で、あろう。
燗をつける。





食べてみる。
煮え具合は、よい。


汁も飲んでみる。


、、、、、ん。


これは、うまい。


野菜からうまみがたっぷり出て、胡麻油と相まって、
ちょっと、へんな比喩だが、なにかタンメンのスープのような
汁の味、で、ある。


かなり、よい。


しかし、けんちん汁は、こんな味であっただろうか?


あまり好きな料理ではなかったので、子供の頃の記憶しかなく
よく憶えていない。
ひょっとすると、胡麻油の量が少し多かったかもしれない。
それで、タンメン、と書いたが、
中華料理に近い仕上がりになったのかもしれない。
(圧力鍋の効果?、は、あったのかどうか。)


もともと、けんちん汁は、中国の精進料理、普茶料理からきており、
禅寺などで食べられてきたもの。
鎌倉の建長寺(けんちょうじ)が、なまり、けんちん汁になった、
という説もあるようだ。
そんなことで生まれが中華料理であれば、
胡麻油、多め、と、いうのも、悪くはないであろう。


ともあれ、相当に、うまい。


結局、燗酒を呑みながら、どんぶりに三杯もたいらげてしまった。


今日のけんちん汁、池波レシピになったのかどうかは、よくわからぬが、
断腸亭流では、けんちん汁は、胡麻油多めがうまい、と、いうことにしよう。