浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



蜀山人と、あいやき


2月25日(日)夜


午後、稽古がてら、調べ物(蜀山人)があったので、
台東区の中央図書館へ徒歩でいく。
合羽橋道具街通り(新堀通り)、言問い通りの手前。
(ここの一階には、池波正太郎記念文庫があるので有名。
先生の蔵書や、再現された書斎がある。
ファンには、たまらない空間、で、ある。)


先日の、「恐れ入谷の鬼子母神、、」


が、もとは大田蜀山人(しょくさんじん)の作である、という話を
確かめよう、というのが第一の趣旨ではある。


余談だが、蜀山人という人をご存知であろうか。
今、知っている人は少ないのではなかろうか。


狂歌師、という説明が最もわかりやすかろう。
江戸中期、田沼時代が、蜀山人が最も売れた時期である。


狂歌とは、短歌と同様の五、七、五、七、七で、
川柳のような、滑稽なものをよむ、というものである。


狂歌は落語にも出てくる。
「掛取漫才」などという噺には


貧乏の棒も次第に長くなり振り回されぬ年の暮れかな
貧乏をしても下谷長者町上野の鐘(金)のうなるのを聞く


というようなものが出てきたり、
日本史の教科書にも出てきた。
黒船来航の時には、


太平の眠りを覚ます蒸気船たった四杯(しはい)で夜も眠れず


(蒸気船は、当時、上喜撰(じょうきせん)という高いお茶があった
ということ。)


蜀山人のものでは、例えば、こんなもの。



世の中は色と酒とが敵(かたき)なりどふぞ敵にめぐりあいたい


世の中に蚊ほどうるさきものはなしぶんぶといひて夜もねられず



これは有名であろう。やはり、日本史の教科書に載っていたように思う。
田沼時代が終わって、松平定信寛政の改革
始まった頃、定信が文武を奨励したことを揶揄している。
(ただし、浜田義一郎著「大田南畝」によれば、これは、蜀山人本人の作ではなく、
蜀山人は時世を批判する狂歌は一切よんでいないと、ともいう。)



冥途からもしも迎いが来たならば九十九まで留守と断れ




談志師匠も地話(じばなし)として、蜀山人をやっていた。
また、元祖断腸亭・永井荷風先生も、随筆などには、
よく引用をされてもいた。


どうも、筆者にとっては、きちんと理解していなければならない、
そんな人だと、前々から、思っていたのではある。


少しだけ、説明をすると、狂歌師であるが、本当は、幕臣
それも先日、神楽坂のところで触れた、牛込の御徒町に住んでいた。
つまり、御徒組。最下級の御家人、と、いうことになる。
家を継いだ時は、祖父からの借金が蔵前の札差に山のようにあり、
かなりの貧乏暮らし。(ちなみに、大田蜀山人(南畝)の札差は、
かの、泉屋茂右衛門、住友、で、あったという。)


そんな生活の中で、狂歌や、狂詩といって、
漢詩をおもしろおかしく詠んだものなどを作り、
当時、江戸では最も売れた、狂歌師であり、一流の文化人
(軽文化人と、いったほうがほかろうか。)であった。


この頃の狂歌師の、ペンネームがふるっている。
蜀山人も、いくつも名があるが、
四方赤良(よものあから)、飯屋宿盛(めしやの やどもり)。
他には、朱楽管江(あけらかんこう)、元の木網(もとのもくあみ)
知恵内子(ちえのないし)、紀躬鹿(きのみじか)、
大飯食人(おおめしのくらんど)、、などなど、挙げだしたらきりがない。
まったくもう、この頃のふざけ方は、相当なものである。


また、蜀山人については、改めて書いてみたい。


ともあれ、図書館で座り、気が付くと、少し熱っぽい。
内儀(かみ)さんが、ゴホゴホいっていたので、
風邪をうつされたか、、。
借りるものを借りて、タクシーで帰宅。


うがいをし、解熱剤と抗生物質を飲む。
借りてきたものを、読みながら少しうとうと。


うとうとしながら、なにを食べようか、考える。


食べ切ってしまおうと、前から気になっていた、冷凍庫の鴨肉。
どう食べようか、なのである。


鴨鍋、鴨飯、、汁、、、、?


素直に焼いてみるか。
鍋も、飯もよくやるが、ただ焼いたことは、あまり記憶にない。


簡単であるし、これでいってみようか。


そば屋のメニューでも鴨を焼いたものはよくある。
池之端藪では、あいやき、などと、乙な呼び方をしている。
合鴨の、あい、で、ある。


ねぎと、冷蔵庫に生椎茸もあったので一緒に焼こう。


鴨肉は解凍する。
この肉は、胸であったか、ももであったか忘れたが
一枚、そのまま焼こう。切るのは焼いてから。


塩をし、ガスの魚を焼くグリルでそのまま焼く。
ねぎも、椎茸も、一緒に並べる。


やはり、焼きすぎぬように。中は半生、というのがよかろう。
しかし、これはもう、カン、で、ある。


皮目を重点的に焼いてみる。
脂がプチプチと跳ねて、うまそう、で、ある。


なんの根拠もないが、こんなものか?


出して、切ってみる。


おお、ベストなタイミングであった。
中はピンク色。
ねぎ、椎茸とともに、盛り付ける。



どうであろうか?
うまそうではないか!


ビールを開けて、食う。


いやいや、これはうまい。
しょうゆをかけなくとも、塩だけでもうまい。


まったくの、偶然であったかも知れぬが、
ベストで、ある。