浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



断腸亭の正月・雑煮

dancyotei2007-01-03

`07年、皆様のお正月はいかがであろうか。


どうもまったく代わり映えのしない、断腸亭の正月、で、ある。


元旦。


昼前に起き、炭を熾す。


これは、むろん、雑煮の餅を焼くため、で、ある。
毎年繰り返していること。


ガスで熾して、火鉢に移す。
餅網を五徳の上にのせる。


餅を並べ、焼く。餅は角餅。



拙亭の雑煮は、つゆは、鶏がらだしで、しょうゆ。
具は、鶏肉、里芋、小松菜、三つ葉


どうなのであろうか、東京では標準的な雑煮なのではなかろうか。
(東京の方、お宅のお雑煮はどんなものでしょうか?)


すべて、大晦日までに用意をしておく。
鶏がら、鶏肉は、春日通りを渡った三筋の鶏肉屋で買っている。


小松菜、里芋、三つ葉は、ハナマサ


小松菜は、ご存知の通り、今でも残る、
数少ない東京の伝統野菜である。
江戸川区小松川の菜っ葉で、小松菜。
東京では、今でもその江戸川区や、葛飾、足立などでも作られている。
今年、小松菜は、一把¥300を超えていた。
ハナマサの小父さんの話によると、
先週の大雨で悪くなってしまったらしい。


高くても、しかたがない。
こればかりは、ほうれん草に代えればいい、というものではない。
雑煮には、小松菜以外にありえない。
購入したのは埼玉産、一把¥380。


里芋は、中国産、三つ葉は、切り三つ葉、茨城産。


鶏がらは、ズンドウ鍋で煮出し、大晦日
しょうゆを入れ、つゆとして用意。


里芋は、皮をむき、固ゆでにしておく。
小松菜も茹でておく。
これらはすべて、プラスチック容器に入れ、冷蔵庫にストック。


ちなにみ、これらはすべて、内儀(かみ)さんの仕事で、ある。


さて、焼いた餅は、温めたつゆに、里芋、小松菜を入れ、
三つ葉を散らし、雑煮になる。



ポイントは、煮ないことと、具は少なめであること。


むろんつゆは、熱くなければならないが、
具は味が染みるほどには、煮てはいけない。
これは東京の雑煮、ということもあろうが、父親の好みでは
なかったのかとも思われる。


内儀さんと結婚した最初の正月、すべての材料と作り方を伝え、
作らせたのであるが、出てきたのは、煮込まれたけんちん汁、
のようなものであった。
北海道出身の内儀さんは、雑煮といえば、野菜、肉、餅も
具沢山で、とろけるくらいに煮込んだもの、という感覚であったらしい。
煮込まない、ということは、筆者には、あたりまえ、で、あったため
取り立てて、いうまでもないことであった。


難しいものである。


まあ、一度いわれれば、難しいことではない。
その翌年以降は、思った通りの雑煮が出てくるようになった。


そういえば、池波先生は、「男というもの、
結婚したら、まずは、お膳をひっくり返さなければならない。
でなければ、一生、まずいものを食わなければならなくなる。」
と、いうようなことをおっしゃっていたかと思われる。


筆者の場合は、やはり父親が、そんな風であったので、
この、結婚して最初の雑煮も、その場で、作り直させた記憶がある。


雑煮というもの、日本人にとっては、ことさら大切なものである。
民俗学上は、正月という節句儀礼食の中心であり、
家の味、地域の食文化の中でも、象徴的存在である。


筆者の父親、爺さんなど、東京でもまったくもって、
よい育ちではなく、爺さんは三男で、
きまった家業があるわけでもなく、家というような家もない。
雑煮以外のお節料理は、細かな決まりもなく、
思い入れもなかったと思われる。
しかし、こと、雑煮だけは、うるさかった。


お若い皆さんも、結婚したら、是非、
まずはお膳をひっくり返してほしい。