浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



熱燗はやめてくれ!

dancyotei2006-11-30

これは、実は昨日の、山本家総本家での話し。
(いや、最初に断っておくが、ここだけではない。
巷に満ちあふれている、現象ではある。)


店に入り、席に案内され、座り、
まず、「お酒」。


「熱燗ですか?」


と、聞かれ、とっさに筆者は


「いや、熱くしなくていいです」、


と、答えてしまった。
お姐さんは、「はい」、と、答えたかどうか、、、。
いってから筆者は、むなしさを感じた。


そして、きたお銚子は“熱燗”であった。


おわかりであろうが、今、燗酒(かんざけ)のことを
「熱燗」という、人や、店が、あふれているのである。


そして、いつごろからあるのか、チェーンの居酒屋はもとより、
多くの酒を出す、まあ、“こだわり”ではない、
店では、「お燗機」というもので燗をつける、


いや、燗をつける、などという表現は、もったいない、
温める、でよかろう。


一升瓶を逆さまに差し込んだお燗機である。


お燗機は、燗の温度の設定もできるようだが、
そこでは、いちいち、「熱くしなくていいです」などという
要望に応えるという手間をかけるわけもない。


そして、筆者は「熱くしなくていいです」と、いってから、
「ああ。この人は、お燗=(イコール)熱燗、といっているのね」
ということに気がつき、むなしい思いになった。
希望はまったく無視され、いう通り、熱燗で出てきた、
というわけである。


同じようなことだが、日本酒の温度をいう言葉に、今、
「常温」という言い方もある。


ご存知のように、日本酒は本来は、燗をつけて呑むのが
基本であった。そして、燗をつけていない常温の酒を
昔は冷(ひや)といっていたのである。


これもいつ頃からか「冷酒(れいしゅ)」と呼ばれる、冷やして呑む呑み方が
出現し、温めもせず、冷やしもしていない、常温のものを
文字通り、「常温」と呼ぶようになった。


このため、店で「冷(ひや)で」というと、
「常温ですか」と聞き返されることになる。
これも、冷(ひや)は冷だろ!と言い返したくなる。


日本酒には、昔から、冷(ひや)、ぬる燗、人肌、上燗、
熱燗、などいろいろな言葉と温度がある。


それぞれに酒の銘柄、種類、製法、などなどによっても、
適不適があり、また、料理や季節、気分、などなどで
使い分けるものである。
それが、また、酒呑みの楽しみでは、あり、
豊かな日本の食文化のなかの、日本酒文化でもあろう。


一時、日本酒は焼酎やビールに押されたが、
吟醸酒や地酒ブームなどで、少し盛り返し、そして
最近はまた、焼酎ブーム、で、若干元気はない、
そんなところであろうか。
(一部、立ち呑みブームからカップ入りが最近は
注目を浴びているようだが。)


日本酒メーカーも様々なことをしているが、
なかなか、抜本的な回復策はないかもしれない。


一方、先のお燗機。
チェーン居酒屋など、効率を考えれば、
お燗機もある程度は、致し方もなかろうと、筆者は思う。


しかし、「お燗」=(イコール)「熱燗」という
言葉の理解は、筆者はどうしても納得がいかない。


お燗酒を代表する言葉は、熱燗ではない。
お燗、でよいはずである。
そして、その温度は、いわゆる適温、上燗、にするべきである。
言葉の問題である。断じて、熱燗ではない。
(ちなみに、菊正宗によれば、上燗は49℃らしい。)


実際に、お銚子を触って熱い、くらいの熱燗は、
真冬の相当に寒い日の、それも一本目など、
はよいが、そうでなければ、あまり呑みたいものではない。
また、日本酒にとっても、たとえ安い酒であっても
なんでもかんでも熱燗にするのは、あまり賢いとは思われない。
(アルコール臭のみ強くなるものも多いのではなかろうか。)


一方、普通のお客さん、消費者側のこと。
日本酒に趣味のない普通の消費者はどう思っているだろうか。
筆者の年代以下であろうか、30代であろうか、


実は、呑む側も、「お燗」=(イコール)「熱燗」という
認識があるのではなかろうか。
だから、居酒屋など料飲店側でも、そういうことになっていった
のではあるまいか。


たとえ、安いチェーンの居酒屋とはいえ、
これは日本酒文化を守り育てるという意味で、
いかがなものであろうか。


極端にいえば、店も、消費者も、こぞってよくない呑み方を、
実はしている、そういうことになっているのではなかろうか。


そこで、筆者から、提案である。
日本酒メーカーさんは、消費者教育を含めて、PRを居酒屋に、
こっそり(?)してはどうであろうか。


「熱燗」は決して、日本酒のベストな呑み方ではないこと。
お燗した酒の、一般名に、「熱燗」を使わないこと。
「お燗」ということ。
そして、できれば、「上燗」と、「熱燗」の微調整ぐらい
させてほしい、ということ。


現在の「お燗」=(イコール)「熱燗」という認識は、
消費者に日本酒のイメージと、実際の味の認識を向上させることには
決して役に立っているとは思えない。
いや、逆に、悪い酒の熱燗は、アルコール臭が、口元にグッときて
まずいもの、というイメージを植え付けているように
思えるのである。




ともあれ、筆者は声を大にしていいたい。
なんでもかんでも「熱燗にするのはやめてくれ!」。