浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



食は文化である。しろしょうゆのこと。その1

dancyotei2006-01-15

1月12日(木)夜


食は文化である。


そして、味覚は、人の育った環境で決まっていく。
それが、親から子供へ伝えられる、文化、たるゆえん、である。



あたりまえ、のことを大上段に振りかぶって、あらためて
書き述べるには、いささか訳がある。


読者の方から、吸い物、について、しろしょうゆ、を入れると、
「塩では出せない美味さに驚かれることでしょう。」
との、コメントをいただいた。


しろしょうゆ、といっても知っている人もなかなかあるまいが、
結論からいうと、筆者、しろしょうゆ、は、ダメ、である。


断っておくが、優劣ではない。好き嫌いの話し、である。


味覚、というのは、難しいものである。
人それぞれ、うまい、と思うものは、千差万別。
自分がうまい、と、思うものも、そう思わない人も多い。
これも、あたりまえ、のことである。


今回のこの話し、少し長くなる。
理屈っぽいのは、いつものことであるが、日本人と、切っても切れない
しょうゆのこと。お付き合い願えれば幸いである。


しろしょうゆ、というものについて、
少し、説明をしなければならない。


いや、その前に、そもそも、我々が毎日使っている、
しょうゆ、とは、なんであろうか。
ここから調べてみた。


日本国内で製造販売される、食品には、農林水産省が定めた、
規格、がある。日本農林規格。いわゆる、JAS、である。
よく、まるいマークがパッケージに入っているので
見たことぐらいはあるかもしれない。


これを、しょうゆ、と定義します、というものである。


今回、筆者も初めて知ったのであるが、JASでは、
しょうゆは、なんと、5種類もの規格がある。


こいくち(濃口)しょうゆ。
うすくち(淡口)しょうゆ。
たまり(溜)しょうゆ。
さいしこみ(再仕込み)しょうゆ。
しろ(白)しょうゆ。


むろんのこと、生産量は、こいくち、が、8割以上と
市場のほとんどを占めている。
うすくちでさえ、14%。(キッコーマンHPより)


これは、全国の数字であるから、東日本での
こいくち、の割合は、おそらく9割以上であろう。


これが、日本のしょうゆ、と、いうものの外観である。
そして、しろしょうゆ、も、立派なしょうゆ、であることがわかる。


さて、しろしょうゆのこと、
そして筆者が、しろしょうゆがダメな理由を述べるには、
あらためて、筆者自身のことを書かねばならない。


筆者は、東京で育った。
今は、浅草に住んでいるが、父、祖父、曽祖父、、と、
先祖代々、父方は、今の、品川区の大井町あたりの
百姓(庄屋、ともいうが、きちんと調べていないので不明、である。)
で、あった。(むろんのこと、大井は江戸の外である。)


しょうゆで煮染めたような、という言葉があるが、
筆者の父は、魚でも野菜でも、煮物には、しょうゆと酒のみ。
(この場合のしょうゆは、むろん、こいくち、で、ある。)
砂糖はおろか、みりん、さえ、入れさせなかった。


お世辞にも、上品とはいえない味であるが、
こんな家で育った筆者も煮物は、しょうゆの色がついていないと
基本的には、だめ、で、ある。


あるいは、銀座お多幸の、真っ黒な、おでん、が大好きである。


しかし、そうはいっても、他の味はわかる。
例えば、銀座のいまむら、などの、一流の料理人の作る
こいくちしょうゆ、を使っていない、
出汁感の強い野菜の煮物のやさしい味は、
目から鱗が落ちるほど、うまい、と思った。


さて、もう一つ、筆者の味覚と、味覚知識のバックグラウンド
を述べると、この日記を書き始めた頃、住んでいた、名古屋と、
筆者の仕事のことに、なる。


筆者は、97年から、会社の転勤で、2年と少し、
単身で名古屋市内に住んでいた。


今は少し違ったことをしているが、入社以来15年以上、
主として「食品会社」を、お得意先として、マーケティング
商品企画、の、ようなこと、をしてきた。


食品会社とは、誰もが知っている
東京大阪のナショナルブランドメーカーはもちろん。
地域的には、北は北海道から、南は九州まで、
ジャンルもカップ麺やレトルトなどインスタント食品から、
酒、味噌、今回のテーマのしょうゆなどの伝統食品まで。
名古屋時代には愛知、三重、岐阜、静岡の様々な食品会社を、
お得意先としてきた。


ここに、詳細はむろんのこと書けないが、
当然ながら、一般の方よりは、仕事柄、食品に関する知識は、
持っている。
しかしながら、調理師免許を持っているわけではなく、
修行をした経験もなく、実際に料理を作る、ことを
生業(なりわい)とする、「プロ」ではない。



**************************
だいぶ長くなりそうである。
続きは、また明日。