浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



その15 三代目三遊亭金馬


さて、今日はこの人で三席、をいってみよう。


お化け長屋/居酒屋/藪入り
三代目三遊亭金馬である。
(当代ではなく、先代である。)


前に、昭和の名人として、志ん生文楽、円生を挙げた。
その次、となると、どうしてもこの人である。


一度、「商家」の回で「薮入り」に触れた。
この噺もこの人、以外にはない。
それから、道灌


であるため、それ以外である。


「居酒屋」「小言念仏」この二席は、決定である。
最高である。


もう一席が、難しい。
本当は、「薮入り」なのであろう。
これを外すとなかなか、厳しい。
「雑俳」「金明竹」「孝行糖」「唐茄子屋」あたりも有名であるが、
どうせ聞くのであれば、金馬師匠である、というくらいであろう。
難しいものである。


それぞれを簡単に、解説だけしておこう。
「雑俳」
これは、俳句がベースになっているが、難しい。
昔、みんなが知っていた、有名な俳句を知らないと、
面白味も少ないし、今、それを知っていても、現代性は少なかろう。
昔、庶民でも、これくらいの俳句を知っていた、
というくらいのものかも知れない。(それなりに可笑しいが、、。)


金明竹
これは、そこそこ面白い。与太郎である。筆者も演った。
本来であれば、盛り上がるハズの、関西弁の言い立ての、
後半がイマイチ。現代的には、飽きて聞いていられない、と、思われる。
前半部分は現代でも充分、爆笑である。


●このフレーズが可笑しい。
「家中ピーピー、タレ流し。」


「孝行糖」
有名な噺であると思う。これも与太郎
与太郎が、親孝行であるということで、お上から、ご褒美(ほうび)をもらう。
このご褒美を元手に、孝行糖、という名前を付けた飴屋を始める。
子供相手に、唄を歌いながら面白おかしく、売り歩く飴屋、というものが
あったのであるが、それ、である。
「孝行糖、孝行糖ォ、の本来は、粳(うる)の小米(こごめ)に寒晒(かんざら)し、
榧(かや)ァに銀杏(ぎんなん)、ニッキに丁子(ちょうじ)チャン、チキチン
スケテンテン、、、、、」
筆者の同世代であれば、聞き覚えのあるフレーズであろう。
ドラマとしては、平凡。現代性は乏しかろう。


「唐茄子屋」
これは、人情噺に分類されよう。
毎度お馴染み、道楽者の若旦那が勘当(かんどう)され、落ちぶれる。
偶然、実の叔父さんに救われ、担ぎ売りの唐茄子屋を
始めされられる。
真夏の炎天下、暑さと慣れない重さで、倒れてしまう。
通り掛かりの近所の人達が、気の毒がって、買ってくれる。
人の情けを知る、というような噺である。
夏の暑さを表現する噺、というような気もする。
金馬師のこのくだりは、なかなか、唸らせる。

前に、三席挙げた人情噺と比べれば、だいぶ落ちる。
(人情噺としては「ねずみ穴」の方が、上であろう。)


なかなか難しい。
現代にはやはり、なかなか残れない噺ばかりである。


さて、と、すると、二席で、ご勘弁をいただこう。

「居酒屋」

これは、もう、爆笑。絶対に聞いていただきたい噺である。


もともとは、「ずっこけ」、と、いう噺の冒頭部分である。
後の方は、ほとんど、音としては、残っていないのではないかと思う。
昔は、金馬師匠以外にもやった人もいたらしいが、これも、
残っていない。


噺は枕も入れて、15分程度と、短い。
ある男が、居酒屋で、小僧をからかいながら、酒を呑む、
と、いうだけの噺である。
文章で書いても、まったく可笑し味は伝わらない噺の典型であろう。


小僧の
「できますものは、つゆ、柱、鱈昆布、あんこうのようなもの。
鰤にお芋に酢だこでございます・・・ふへぇぇ〜〜い」
というセリフ。とにかく、妙な声なのである。
それも、妙に、いい声、なのである。

(前に、神楽坂の、メトロ、というスタンドカレーの店を
http://pws.prserv.net/jpinet.ysaka01/2004/list1/metro.html
料理日記に書いた際に、ここの小父さんの声が、
この小僧に似ていると書いた。
居酒屋の小僧を知らなくとも、この小父さんの声は可笑しい。
やはり、同じ様に、ちょっと高い声で、妙な節が付いた、
妙な声、なのである。)


理屈も、うんちくも、なにもない。
とにかく、この小僧が可笑しい。絶品。

「小言念仏」

これも、ほとんど、ストーリーはない。


ある爺さんが、仏壇に向かって、念仏をあげている。
念仏をあげながら、家族に小言を言っている。
それだけの、噺。
噺、というよりは、風景。呟き、である。
せりふをいう登場人物も、この爺さん一人である。
これも、また、文章で書いて伝わるかどうか・・・。


「なむあみだぶ(南無阿弥陀仏)、なむあみだぶ、なむあみだぶ、
なむあみだぶ、なむあみだぶ、


線香よりも、マッチの方が多いよー!


なむあみだぶ、なむあみだぶ、なむあみだぶ、
・・・・・・・、なむあみだぶ、なむあみだぶ、


お漬けの実はなんにします?って?そんなこと、相談すんじゃないよ!


なむあみだぶ、なむあみだぶ、なむあみだぶ、


ほら、どじょうやが来た、


なむあみだぶ、なむあみだぶ、なむあみだぶ、


どじょうやを入れるんじゃない、どじょうを入れるんだ!


なむあみだぶ、なむあみだぶ、なむあみだぶ、


ほら、早く呼ばねえと、行っちまうよ!


なむあみだぶ、なむあみだぶ、なむあみだぶ、


ほら!


なむあみだぶ、なむあみだぶ、なむあみだぶ、


ほら!!!


なむあみだぶ、なむあみだぶ、なむあみだぶ、


どじょうやーーーー!


なむあみだぶ、なむあみだぶ、なむあみだぶ、


どじょうやーーーー!


なむあみだーーーー!


どじょうや??


!!、むあみだぶ、なむあみだぶ、なむあみだぶ、
・・・・・・」


おわかりになるであろうか。念仏と、どじょうや、が、
入れ替わってしまうのである。これ自体は、たいしたことはないが、
この、念仏をあげながら、「どじょうやー!」と叫ぶのが、
とにかく可笑しい。


是非!!。