浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



上野・藪そば

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12月18日(火)第1食

朝から冷たい雨模様。

上野の[藪そば]へ行ってみようと考えた。

今シーズンまだ食べていなかった、かき南蛮。

上野[藪そば]のあれは、かなりうまい。
他ではないものであろう。

昼前、雨はやんだが、あぶないので、傘を持って
徒歩で出た。

大塚行きのバスで御徒町駅まで。

バスを降りて北へ真っすぐ向かう。
丸井横に出る通り。

上野[藪そば]到着。
12時すぎ。

入ると、時分時、なかなか混んでいる。

カウンターの奥に掛ける。

やっぱり一本もらおうか。

お酒、お燗。

お燗はどうされますか、と聞いてくれた。
聞くのは、よいことであろう。

お燗というと有無をいわさず、熱燗が出てくるのは
勘弁である。

熱くもなくぬるくもない、上燗、なんという言葉は
通じなかろう。
ぬる燗、と伝える。
熱いよりは、ましである。

すぐにきた。

置くとここで、お姐さんが、アテのそば味噌です、との言葉。

アテ?!。

もちろん、意味は分かる。
酒の肴のこと。

アテというのは、関西弁である。
もはや、東京でも普通に使われるようになっているのか。
洒落ているつもりか。

実はこのお姐さんから、アテ、の言葉を聞いたのは、初めて
ではない。
いつからこの店におられ、アテ、の言葉を発しているのか
わからぬが、以前はこんなことは、なかったと思うが。

上野[藪そば]というのは、明治25年創業。
薮直系ではないと聞くが、東京そばやの押しも押されぬ
大老舗といってよろしかろう。
京都料亭の東京の支店ではない。

アテはやめてほしい。大きな違和感を私は感じる。

東京のそばやには、東京のそばやのスタイルがあった。
毎度書いているが「粋」ということになろう。
これは東京の食文化である。店も客も大切にしてきたはず。
店自ら文化を捨ててしまっては寂しかろう。

そば味噌を説明したければ、おつまみです、でよいだろう。
あるいは、お通しです、でも通じるだろう。

ともあれ。

かき南蛮。

かき。

かきが大きい。

かきは油で炒めている、と聞いた。
ちょっと焦げ目もついている。
たが、むろん堅くはない、プリプリ。
うまく料理されている。

また、つゆ。
これが、絶妙ではなかろうか。
普通のかけのつゆと違うのではなかろうか。
しょうゆは、多少控えめ。
かといって、関西風の透明なつゆでもない。

かきには、濃いしょうゆのつゆは、やはり邪魔。
閉店をしてしまったが、池之端[藪蕎麦]はそちらで
あったと記憶しているが、あれはあれで違和感があった。

このつゆは、かきを邪魔しないが、東京のそばとしての
しょうゆ味も主張してる。
これがよい。

うまい、うまい。

食べ終わり、つゆも飲み干し、立つ。

ご馳走様でした。

おいしかった。

上野[藪そば]は、うまい。

老舗ではあるが、酒の肴も多い。
東京のそばやには、天ぷら、焼海苔、板わさ、あるいは、ヌキ、
程度しか酒の肴はなかった。
これを通している老舗もあって、それはそれで評価されてよい。
だが、ちょいとしてものでよいのだが、酒の肴の選択肢が
増えるのは、酒呑みとしては、うれしい。
もちろん、そばやは呑み屋ではない。お客は居酒屋のように
お銚子を並べるような呑み方は野暮である。

また、夏のサラダ蕎麦。ドレッシングで食べさせるものを出す。

私は好きで、夏には必ず食べにくる。
ご通家などは、そばの香りを台無しにする、などという向きもあるかも
しれない。私は、あり、だと思うが。

老舗らしからぬ、新しい、が、うまいものを出している。
ただサラダ蕎麦も、もうなん年もメニューにあって、
ただ奇を衒ったチャラいものではない。

出すものは、伝統と現代、ここ独自のバランス感覚、
センスがあるのであろう。
私は、よいと思うし、好きである。

アテ、だけはやめてほしいが。

 

 

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