浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



断腸亭落語案内 その71 桂三木助 へっつい幽霊

f:id:dancyotei:20190521083754g:plain

引き続き、三代目桂三木助師「へっつい幽霊」。


なんだ、知ってやがんのかぁ?。
一円付けてもらったって、俺のへっついだぁ!。
いやならよせ!。

こーなると、あんまり強いのも善し悪しだなぁー。
じゃ、よーがすよ。あげますよー。

くれるか?ほんとーに?。
もらってもいーの?。
そうかー、すまねーなー。
じゃー折角のお前(おめえ)の心持だから、、、

こっちの心持じゃねーや、そっちの心持じゃねーか。

んな、男らしくねーや、愚痴をこぼすねぃ。
じゃ、もらうぜ、いいかい?!。
ひー、ふー、みー、よー、いつ、むう、なな、やー、ココノ、トウ、
十一、十二、十三、十四、十五と。
さ、お前(めえ)が十五枚、俺が十五枚。
ポーンと二っつ割りの縦ん棒で、気持ちがいいじゃねーか。

気持ちなんざぁちっともよくねぇ。
閻魔だって、これじゃー、いい顔しねーだろう。
半端でしょーがねーや。

半端かぁ~?。
正直なこと言うと、俺も半端なんだよ。
だったら、どうだい、お前も俺も嫌(きれ)いじゃねぇんだから
二人でどっちかへ、押っ付けっこしよーか。

フ、フ、フ~。
そいでもいいんですがね~。
道具があるんですか~?。

渡世人の家だぁ。道具のねえことねーやな。
なにがいいんだ?。
二っ粒(丁半博打のこと)?。
あれが一番いいねー。気持ちがよくって、さっぱりしてて。

(サイコロを取り出し、振ってみる仕草。)
どうだい、よく変わるだろ。
丁半賽(ちょうはんざい)に誂えたんだよ。
いいさいころだろ?。

(幽霊、見ていて恍惚とした表情。)
へ、へ~。久しぶりだなぁ。
ちょいと触らしてくださいな。
(幽霊、手を前に下げた格好のまま、さいころを振る仕草。)

よせよー。へんな恰好するなよー。
普通に、こう、振れよー。

そういかねぇんすよー。
手、上へ持ち上げるとね、幽霊仲間はじかれちまうんすからね。

幽霊なんてなもの、不自由なもんだなー。
壺皿(つぼざら)もあるんだよ。
二、三番入れてみようか。
(壺皿にさいころを入れて伏せる仕草。)
どうだい?、なぁー。
ほら。
よく変わるだろ?。
いいかい?!。
入るよ!。
さいころを入れて、壺皿を伏せる仕草。)
さ!。どっちでも、口ぃ切っとくれ!。

さっきも言う通り、あっしぁねえ、丁より他に張ったことのねえ
男ですからねぇ。じゃー、丁に口ぃ切らしてもらいましょう。

そうかい?。
いくらいくんだい?。

いくらいくったってぇー。百五十両いっちゃいましょう。

いっぺんにかぁ?、おい。
へーー、いい度胸だなー。

度胸がいいわけじゃねーけどね。ぐずぐずしてて夜が明けりゃ、
こっちゃ、消えてなくなっちゃう。
早えとこ勝負付けてもらわねえと。
じゃー、親方、駒ぁ合わせて下さいな。

そうか?!、じゃ、俺が百五十両、お前(めえ)が百五十両
いいかい?。
ぼんちゅうわた(盆中渡?)り。勝負!。
五六(ごろく)、半!。

あ!、、、あ、あ、あ、、、

おう、おう、よせよ。
幽霊ががっかりしたなぁ始めた見たよ。
あんまりいい恰好じゃないよー。
おぃ。丁方(ちょうかた)駒、落とすぜ!。

出やがったなー、五六とは。これが四ゾロに変わるんだけど。
あっしの大(でえ)好きな、、、
親方!、もう一遍入れて下さいな。

せっかくだけど、そいつぁ断ろうじゃねーか。
お前(おめえ)の方に銭がねーのはわかってんだもん。

へ、へ、へ。
親方ぁ、安心して下さい。
あっしも幽霊ですから、決して足は出しません。

これでお仕舞。

いかがであろうか。

いい下げだと思う。(もちろん幽霊は足がないので、足は出さない。)

この噺、筋に異論もあるようで、別バージョンもあるのだが
この三木助版で、よいのではないかと私は思っている。
ちなみに別バージョンも下げは同じである。

この噺、元はやはり上方種という。三代目三遊亭円馬という人が
移したよう。(「落語の鑑賞201」延広真治編)

この人はちょっとおもしろい。
明治15年(1882年)大阪の生まれ。父も落語家であったが
落語家になってから東京へ移り初代三遊亭圓左門下となり、明治42年
(1909年)、七代目朝寝坊むらくで真打。その後、喧嘩騒ぎを起こし
大阪に戻ったり、また、東京へ、と行ったり来たり。大阪弁、京都弁、
江戸弁を巧みに使い分けることができたという。昭和20年(1945年)
大阪で没。前座時代の八代目桂文楽を預かっていたとのこと。文楽師は
そうとうに傾倒していたと語っているようである。(wiki
三代目円馬、かなりの名人といってよいようである。

ともあれ。
この三代目円馬を含め「へっつい幽霊」の明治の速記は見つけられて
いない。それでこの噺の東京での初期の成り立ちについては今回は
不明で宿題とさせていただく。

そんなわけで、想像の域を出ないのだが、三木助版の冒頭部分、
最初にへっついを買う男が関西弁なのは、上方から移された名残が
残っているのか。

 

つづく

 


三木助師「へっつい幽霊」もう少しで終わりますが断腸亭料理日記
今号で、お休みをしばらくいただきます。
断腸亭