8月になりました。
梅雨もあけて、いきなりの猛暑。
暑中お見舞い申し上げます。
しばらくは、この暑さが続くよう。
皆様、お身体、ご自愛いただきますよう、
お願いいたします。
断腸亭
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三代目三遊亭金馬師。
「居酒屋」。
やはり、師の持ちネタとして忘れてはいけなかろう。
酒に関する小噺をいくつか、比較的長めに振って、噺に入る。
縄暖簾。
中は十二、三になります、ひびだらけの小僧さんが一人。
隅に居眠りをしているという。
入口に一匹、犬が寝そべっている、というのがバックです。
飛び込んでくるお客様も決まってます。
盲縞(めくらじま、紺無地のこと)の長半纏かなんか。
濡れっ手ぬぐいを肩にピシッと引っ掛けますと、
拳固で一つ、水っ洟(ぱな)をこじ上げますと
頭で暖簾を分けて入ってきます。
小僧さんをからかいながら呑んでます。
気の置けない者に、からかいながら呑むくらい
酔いが発散することはないそうです。
酔っ払いますと、子供みたいに愚にも付かないことを
真面目(まじ~め)な顔して喋っているところは
酔っ払いのおもしろ味のあるもんでございます。
客「ごめんよ!」
小「へい~~~~。
宮下へお掛けな(さ)い~~~~~~~。」
客「なんだ?」
小「大神宮様(神棚)の下があいておりますからお宮の下へ
お掛けない~~~~~~。」
客「どっか破けたような声出すなよ。
(どっか破けたような、と評しているが、この小僧の声がこの噺の肝。
子供のようではあるが、高く、かなり妙な声なのである。)
大神宮様の下ぁ?。
あ~、立派にお宮ぢができてるなぁ~。
お宮の下で、宮下かぁ。
は、は。電車の停留所みたいなこといってるなぁ。
客の座る場所に名前付いてるのか?!。
おい。酒、持ってきとくれ。」
小「へい~~~~。
お酒は澄んだんですか、濁ったんですか?」
客「おい。
ヘンな聞き方するんじゃないよぉ。
不敬だねぇ。
お前(おめえ)客の柄(ガラ)ぁ見るねぇ。
頭の先から、足の先まで見下ろしゃがって、
澄んだんですか、濁ったぁ?
濁った酒なんか呑めるかよ。澄んだ、んだよ。」
小「へい~~~~。
上一升ぉ~~~~~。」
客「おい、ちょいと待てよぉ。おい。
一合でいいんだよ。」
小「え、へ、へ。
景気でございます。」
客「あ、景気か。
俺ぁ、びっくりしちゃったよ。
おどかすなよー。
酒の一升は驚かねえけど、懐(ふところ)の一升にゃ
驚くからだよ~。
景気と聞いたんで、安心したよ。
景気ならもっと大きくやれやい。
上一斗ぉ~~~~~、とかなんとか。」
小「お待ちどう様。」
客「ほいきた。
おい、小僧さん。
猪口はいけねえんだ。小せぇもんで呑んでると、酔わねえんだよ。
生酔いになっちゃって、あくびばかり出てくんだよ。
大きなもん貸してくんねえか。ガブガブって呑んで、酔っ払ったら
小せぇもんでいいんだがな。
ぐい呑みってなねぇか。湯呑み?あー、いいとも。湯呑み。
結構だよ。
おー、ありがと、ありがと。
お~~~~~!おう!。
置いて、どんどんそっち行っちまうなよ。
一杯(いっぺえ)注いでけよ。」
小「まことにあいすみません。
混み合いますから、お手酌で願います。」
客「なんだ、はっきり断りゃがったな、おい。
愛想のねえこと言うもんじゃないよ。
一晩中、ここについててお酌してくれって、いうんじゃねーやな。
持ってきたついでだから、一杯だけ酌しろってんだよ。
(あたり見まわし。)
混み合います、ったって、誰もいやしねえじゃねーかよー。
ヘンなこといいなよぉ、おい。
どうせお酌してもらうんなら、女の子がいいよぉ。
酒は燗、肴は気取り、酌は髱(たぼ、日本髪の後頭部の部分の髪)って、
だろう。十七、八の子で。白魚五本並べたような真っ白(ちろ)な
細ぉい指で、いかが?、てなこと言われると、フラフラっと、
一杯(いっぺえ)余計に呑むよぉ。
お前のぉ、、、、、?手かい、、?
汚ねえ手だなぁ~~。
ベースボールの手袋みてえな手だな。
でも、本革だなぁ。縫い目なしときてやがる。
安くねえぜ、そりゃぁ。
どうでもいいけど、お前(おめえ)の指、親指ばっかかぁ?。
小指があるのかい?。見せろよ。太さも長さもみんなおんなじ
じぇねーかよ。バナナ五本並べたような指してやがる。
肉付きはいいなぁ!。実が一杯(いっぺえ)入(へぇ)って
やがる。月夜に獲れたんじゃねーな?!。」
小「蟹じゃありませんよぉ。」
客「そう言いたくなるじゃねーか。
ブルブル震えねーで、しっかり注げよ。
湯呑みの口ぃ、徳利がカチカチっと当たるのはいやな心持だからな。
もっとケツ持ちゃげなきゃ出ないよ。もっとケツ持ちゃげてご覧よ。
お前のケツじゃないよ。
徳利のケツ持ちゃげろってんだよ。そそっかしいなぁ。
ケツ持ちゃげろったら、自分のケツ一所懸命に持ちゃげて。
お前のケツ持ちゃげたって酒は出るかい。
(注ぐ)
あ~~~、っと。
は、は、は、は。
ガミガミ言っても、江戸っ子だ。職人だ。
腹にはなんにもないんだ。勘弁ししてくれよ。
昼九(し(ひ)るく)、夜八(よるはち)って、ってねぇ。
夜は八分目に注ぐもんだよ。心得てるんだよ、そのくらいのことは。
いいかい。憶えておきな。