浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



歌舞伎座三月大歌舞伎・夜 その1

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円朝師匠の続きも書かねばならぬのだが、
先週、歌舞伎を観てきた。4月になってしまうので、
書いておく。

3月20日(水)夜

今月の歌舞伎座は、猿之助が出演(で)る。
それも夜の「弁天小僧」。むろん主役。
ただ、幸四郎と交互。

猿之助のものを観ておきたいと思ったのである。
書いているように、猿之助は贔屓といってもよいだろう。
吉右衛門玉三郎は別格であるが、この世代であれば、
応援したい役者である。

猿之助澤瀉屋(おもだかや)四代目。
なん度も書いているが、明治初期に成田屋市川宗家の弟子筋から
初代が旗揚げし、歌舞伎の本流とは様々な確執、恩讐があったと
いってよいのであろう。
猿翁になった先代猿之助は独力で一座、一門を築き、率い、
本流ではないところに、スーパー歌舞伎で一時代を造った。

四代目を襲名した当代は新歌舞伎座になって
16年の「義経千本桜」まで出演しなかった。

長い長い門閥の歴史の中でできてきた関係、どうしても
距離があるのであろう。

だが、この当代猿之助の世代、30代後半から40代。
幸四郎海老蔵菊之助勘九郎七之助など。
どうしても、次の歌舞伎界の大看板、大幹部に、いや、
吉右衛門世代の疲れが見えている今、すぐにでも彼らに
力強く受け継いでもらわなければならないタイミング
であるのは皆、表立っては口には出さぬが隠せぬこと
なのではなかろうか。

この中で、当代猿之助は役者としての器が違うように思っている
のである。
今回の「弁天小僧」の役が付いたのは、松竹(?)も
やはりちゃんと猿之助を育てようと考えるようになったのか。
もちろん、トウシロウの憶測ではあるが。

内儀(かみ)さんも休みなので、ウイークデー。

3時、着物を着て出かける。

冬物はいつもおんなじだが、青竹色のお召し風の紬。
白足袋に雪駄。暖かいのでコートはなし。

弁当は、押し寿司が食べたかったので、三越の地下で
鯖の押し寿司を買って、入る。

例によって、演目と配役を写しておく。


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夜の部
近江源氏先陣館
一、盛綱陣屋(もりつなじんや)

    佐々木盛綱 仁左衛門
       篝火 雀右衛門
     信楽太郎 錦之助
       早瀬 孝太郎
      四天王 廣太郎
      四天王 種之助
      四天王 米吉
      四天王 千之助
  高綱一子小四郎 勘太郎
  盛綱一子小三郎 寺嶋眞秀
     竹下孫八 錦吾
     伊吹藤太 猿弥
   古郡新左衛門 秀調
     北條時政 歌六
       微妙 秀太郎
   和田兵衛秀盛 左團次

 

二、雷船頭(かみなりせんどう)

〈奇数日〉 女船頭 猿之助       
        雷 弘太郎

〈偶数日〉   船頭 幸四郎
        雷 鷹之資

河竹黙阿弥
三、弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)
 浜松屋見世先より
 稲瀬川勢揃いまで

  弁天小僧菊之助 幸四郎(奇数日)
          猿之助(偶数日)
     南郷力丸 猿弥(奇数日)
          幸四郎(偶数日)
     鳶頭清次 猿之助(奇数日)
          猿弥(偶数日)
     忠信利平 亀鶴
    赤星十三郎 笑也
  浜松屋伜宗之助 鷹之資
    番頭与九郎 橘三郎
    狼の悪次郎 錦吾
   浜松屋幸兵衛 友右衛門
   日本駄右衛門 白鸚

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お目当ては三つ目であるが、前の芝居も書いておかねば
ならなかろう。

一つ目は時代物。
「盛綱陣屋(もりつなじんや)」ではなく「近江源氏先陣館」
というのが本名代、芝居のタイトル。
私は初見。

人形浄瑠璃から歌舞伎に移したいわゆる丸本(まるほん)物。
その八段目が「盛綱陣屋」。歌舞伎で上演されるのはほぼここだけ
のよう。

近松半二、竹本三郎兵衛らの合作。初演1769年(明和6年)大坂竹本座。
もちろん人形浄瑠璃として。明和は田沼時代。
上方から、江戸に文化の中心が移る微妙な時代であろう。

最初に書くのだが、どうもこの系統の芝居は苦手である。
はっきりいって、わからない。理解ができない。

なにかというと、例外もあるが主としてこの時代より前、
浄瑠璃から移された一連の歌舞伎芝居である。

最近観たものでは17年国立の「伊賀越道中双六」

あるいは有名でよく上演されるが「菅原伝授」の「寺子屋」

これもあまりにも有名だが「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」の
「飯(まま)炊き場」

主人のために子供の命を差し出す。
子殺しのようなことである。

ちょっと違うが「忠臣蔵」の「五段目」「六段目」の
勘平が切腹に至る一連の件(くだり)。

これもひどい、と思うのである。
自分が誤って殺したと思い、責任を取って切腹してしまう。
普通、気付くであろうと思えて仕方がない。

悲惨ではあるが、あまりにおバカ?。

どれも古典の名作で最近でもなん度も上演されている。
“こういうもの”として観ればよいのかもしれぬ。
しかし、あまりにストーリーがひどくて、どうしても芝居作品として
評価する頭が働かないのである。

同じように思われる方はおられないだろうか。

今回の「盛綱陣屋」もこの私のわからない系統になる。

 

 

つづく

 

 

明治23年東京新富座 三代目国貞  佐々木盛綱 初代中村鴈治郎
盛綱妻早瀬 市川升若 北條時政 四代目中村芝翫 和田秀盛 初代市川左団次
高綱一子小四郎 初代市川ぼたん 盛綱母微妙 高砂屋福助 信楽太郎 市川荒太郎
高綱妻篝火 二代目坂東秀調 盛綱一子小三郎 尾上きく