浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



台東二丁目・中華/とんかつ 武井食堂

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2月27日(水)第一食

さて。
台東二丁目の[武井食堂]。

まあ、知っている方はほぼいなかろう。

正直のところ、近所なので毎日のように自転車で通っているところで、
存在は知っていたが、入ったことはなかった。
いや、なかなか知らなければ入れない佇まい。

話題というのほどのことはないと思うが、
例の町中華探検隊の、下関マグロ氏が鳥越の方であろうか、
この界隈に住まわれているようで、紹介されてていたのを
発見したのであった。

せっかくなので、この界隈、最近あまり書いていないと思うので
少し触れてみよう。

現代の地図。

江戸の地図も。

清洲橋通りはないのだが、お分かりになろうか。
武井食堂の場所に星印を入れた。

私の住む元浅草は鳥越神社の氏子。
こちら側は下谷神社。
この違いは、片や旧浅草区で片や旧下谷区という違いでもある。
近所ではあるが、お隣というにはちょっと距離がある感じ
であろうか。
(ただ、下谷と浅草の境界は時代によって多少の変動があって
私の住む元浅草でも七軒町は江戸期には、下谷七軒町と
言われており、下谷に含まれていたと考えてよいだろう。)

この界隈のランドマークはなんといっても
今は佐竹商店街、江戸期には佐竹右京太夫上屋敷
そしてその隣の三味線堀。

佐竹商店街、今は、アーケードはあるがシャッターを
閉めているところが目立ち、寂しさは隠せない。

佐竹藩、秋田藩久保田藩ともいう。
出羽秋田の国持大名、表高20万石(実高40万石)、外様。

上屋敷なので家紋が描かれている。これは扇に月。
新羅三郎義光源義光)を祖とする正しい源氏。
常陸を領地とし、平安後期までさかのぼる。
鎌倉、室町とあまり恵まれていたとはいえない家勢でまた、
戦国大名化も遅れたようである。
関ヶ原では中立、上杉との密約も囁かれ、戦後処理で秋田に
転封。これで外様ということである。

20万石の大名の上屋敷の場所として、下谷は辺鄙なところと
いわざるを得ないが、そういった背景であろう。
佐竹家は幕末まで秋田藩主家として存続、明治以降は
華族となり、現代まで続いている。現秋田県知事、佐竹敬久氏は
末裔にあたる。

現町名になる以前、この界隈は竹町(タケチョウ)といっていたが、
これは江戸期からある呼び名で佐竹屋敷の西にあった幕府
大番与力同心組屋敷の総門が竹門と呼ばれたことに由来する
とのこと。

明治になり、大名屋敷は新政府に接収され、当地も同様で
しばらくはなににも使われずに、明治2年、火災で焼失。
その後荒れるにまかされ、佐竹っ原と呼ばれていた。
明治17年、民間に貸し渡されるようになり、次第に民家、
商店が立ち並ぶようになる。
次第に商店よりは、大道芸、見世物、寄席などの
エンターテインメント系というのか、盛り場的色彩が
強くなり、活動写真館などもできた。圓生氏なども
このあたりのことは語られている。
つられて数々の露店、居酒屋、鮨や、料亭などの飲食店、
さらには、銘酒やのような私娼楼的な怪しいものもあった
ようである。今ではとても考えられなかろう。
(佐竹商店街HPより)

明治31年に佐竹は商店街として組合を作ったとのことで
自ら、日本で二番目に古い商店街と表明している。
(一番目はどこであろうか。浅草仲見世であろうか。)

ちょっとお洒落な鞄やさんだったりカフェであったり、
ポツポツと新しい店舗に置き換わっているが、今一息。
歴史も古く、様々な関係もあり難しかろうが、場所としては
一等地であろう。より栄えてほしいものである。

さて、そんな佐竹商店街の南端の東西の通り。
その南側に黄色いシート屋根のあるお店。
[武井食堂]。

丸に八がなにを意味するのか。
暖簾には中華そばと、とんかつ、というのが目を引く。
まあ、雰囲気としては、定食やなのね、ということか。

12時台、サッシの扉を開けて、入る。
パイプ椅子に簡素なテーブル。
先客は界隈のサラリーマンらしい男性、なん組か。
なかなかにぎわっている。

かなり高齢のおかあさんが外で、中は息子さんといった
感じであろうか。

とんかつ、中華を看板にしているのは知っていたので
なにを頼むか、決めてきた。

最近の課題、かつ丼である。

とんかつやにはなかろうが、こういったとんかつ且つ食堂を
標榜しているところであれば、まずあるだろう、と。

案の定、あった。
かつ丼、850円也。

ややあって、きた。

カツは、とんかつを看板にしているらしく、
揚げたて。別段かつ丼に揚げたては必要ないが。
玉子が一個のよう。
ただ、かつがさすがに大きい。
それから、ノーマルに玉ねぎ。

味噌汁が、うまい。
やっぱり熱いが、濃い。
濃いみそ汁は、無条件でうまい。

かつ丼は、値段も味も、それなり。
可もなく、不可もない。
町の食堂。
むろん、それがよい。
それでよい。

ここは武井ビルといっているので、自家所有のなのであろう。
町中華以上に食堂と呼ばれるところは東京下町でも
ほぼ見なくなった。
貴重である。
もちろん、またこなければ。

 

 


03-3831-6267
台東区台東2-19-5 武井ビル 1F