浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



五反田・支那そば・はせべ

12月8日(金)夜


金曜日、昼。


寒いし、ラーメン。


五反田でラーメンというと、私はここになる。
二郎系だの、一風堂などチェーン、
それから、駅前の町中華亜細亜]にもむろん
ラーメンはある。


また、わんたん麺のチェーン[広州市場]
の本店もあって、様々取り交ぜて選択肢は
多い。


チェーンでもなく、ラーメンのみを出す
ラーメン店としては、ここが一番しっくりとくる。


オフィスからは少しあるのだが、
やはり、月に1、2回はくる。


場所は、東口の駅前の歓楽街のちょっとはずれ
郵便局の隣。

佐野ラーメン、という。


栃木の佐野で食べたこともないので
よくわからぬが、青竹で打つというのが
言われているところ。


店名に“支那そば”とうたっている。


支那というのは、今はメディアでは使えない
言葉で、戦前の用法といってよいのであろう。


今のラーメン店での使われ方とすれば
しょうゆ味で昔の味、中華そばという
言い方に近かろう。


かなりの余談だが、支那、ということばを
ウィキペディアで調べてみると、ちょっとおもしろかった。


支那というのは英語のChinaで、清のことかと
私は思っていたが、そうではないらしい。


支那=Chinaはそのようで、由来は古代インドの言葉、
梵語サンスクリット語とのこと。
ここから今もインド、から欧米系の言葉ではChina系の
言葉が使われている。


梵語が最初となると、清よりも歴史的にはもっと古く、
なんと中国最初の統一王朝、始皇帝の秦のことのよう。


我が国の使用例とすれば仏典経由で平安頃が初出という。


以来、我が国では、唐=から、もろこしといった
言葉とともに、中国のことを呼ぶ一般名称として
使われてきた。
特に明治以降、支那の用法は一般化し、特に日中戦争
(当初日本は支那事変と呼称)からの敵対状態もあり、
ある種の蔑称としてのニュアンスが加わった。
また、その少し前、清が滅んで中華民国が建国されているが
この中華民国から、日本の公文書に支那を使わないでほしい
といわれてもいるようで、既にある程度の侮蔑的ニュアンスは
あったのかもしれない。


いわゆるラーメンは明治後期から大正あたりに日本で一般化
したものと考えてよいと思うがこれがちょうど
今の支那が侮蔑的ニュアンスを持つようになった頃
ということになる。
ただ、ラーメン=支那そばは、もちろんうまいので
我が国に広まったのであろうから“支那そば”そのものには
そういったニュアンスはもちろんなかったはずである。


志ん生師なども枕でラーメンのことを支那そばと
使っている。


まあ、そんなことで今も“支那そば”にはうまそうな
しょうゆラーメンというイメージがあって使われている
のであろう。


余談が長くなってしまった。


五反田の[はせべ]。


私はここには、好物のわんたん麺を食べにくる。
わんたんだけを取り出すと、近くの[広州市場]の方が
うまい、とは思うのだが、わんたん麺とすれば
こちらの方が好み。


わんたん麺。



佐野の製麺所というが麺はちょっと縮れた平打ち。


わんたんは肉は少なめでだがなめらかな食感の皮が
うまい。


スープは鰹節の粉でも入っているのか
ちょっと、鰹系が香るが、ベースは
鶏からに豚骨も入っているというが
厚みがしっかりとあり、バランスもよい。


支那そば、中華そばと名乗ると、ノーマルな
しょうゆ味であるが、これはなかなか難しい。
塩味(えんみ)にある程度の存在感が必要であるが、
これがしょうゆその物の味になってしまうと、
しょうゆを飲んでいるようなものに感じられ、いけない。


支那そば”と名乗ってなんら違和感のない
うまいしょうゆ味のスープ、で、ある。


〆て、とがっているところはないが、
なかなかのレベルのわんたん麺であると
思っている。


私などにすれば、もっと有名になってもよい
店であると思うのだが。


まあ、今の東京のラーメンのトレンドを支えているのは
マニアの集団とラーメン関連メディアなのであろう。


彼らの目に留まらないと表立った話題にならず
行列にもならない。
これに引っ張られて列ができ、実際に店に行ってみても、
まずくはないが、それほどのことはないということはよくあること。
1年もすれば話題も冷めて逆に人けがなくなる、という例も少なくない。


この店のように、とがったところ、話題性がなければ
目に留まりにくいということなのか。
あるいは、そういうラーメンメディアにコネでもなければ
ということなのかもしれぬ。


だがまあ、ともかくも、いつも食べにくるお客が絶えないのが店に
とっては最もよいことであることは間違いない。
これでよいのかもしれない。


話題の店、行列の店がまずい店ではなかろうが
うまい店のすべてではない。
無名でも、うまい店はたくさんある、ということであろう






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