浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



とんかつ・目黒・とんき その2

引き続き、目黒[とんき]。

調理場の真ん中でカツを揚げている背中の曲がったお爺さん。

隣の二つある揚げ鍋からあげるのは、補佐のような
オトッツアンなのだが、そのオトッツアンはあげて、
バットの油切りの上にのせるところまで。

切るのはその背の曲がった、お爺さん。
この人もご主人と同様、眼鏡をかけ、柔和な表情で、カツを切る。

カツを切って、用意されたキャベツとトマトののった
白い皿に盛り付ける。

カツを切るとき、ご高齢なので見ていてなんだか
心配になってくる。

意外に、このお爺さん、腕も細い。
そこそこ力は必要だと思うのだが、一回で切れきれないことも、
あったり。

たまに、衣が肉からはがれてしまったり。

だが、かまわず、お爺さんはまとめて、皿に盛り付ける。

衣がはがれるというのは、まあ、とんかつとしては
あまりよろしくはない、とは思うのだが、ここでは、
ある程度は許容、なのであろう。

衣がはがれることの多いとんかつやと
少ないがしっかりして、ほぼはがれないところとがある。

衣がはがれるというのは、どういうことか。
現象的には、肉と密着しているはずの衣がはがれる。
原因は、密着力が低いから?。

肉と衣は、熱が入るとどちらも縮むわけだが、
肉の方が収縮率が大きい場合に、肉との間に隙間ができやすくなる。
カニズムとしてはこの時に衣が肉に追随して縮めばはがれない
ということになるように思う。

衣の性質、玉子、粉、水、それぞれの割合、つけ方などなどによっても
違うのであろう。あるいは、揚げる温度、時間などによって
大いに違ってくると思われる。揚げ物なのでパラメータが多く
かなり複雑で微妙な現象なのであろう。

ともあれ。

そろそろか。
ビールは呑み終っていたので、グラスと空瓶をカウンターの上に
出しておく。

と、すぐにお兄さんがきて、回収。
お茶と交換。

実にすばやい、のである。
やはりほぼ、お客の動作などをいつもきちんとみているのである。

きた。



ビールを呑み終っているので、豚汁、ご飯、お新香も
同時に出てきた。

今日は呑み終えておいたが、前回はカツをつまみに呑む、
というのを考えたので、呑み終っていない状態でカツがきた。

この場合、聞いてくれて、ちゃんと時間差をつけて、
とんかつのみ先に出し、ビールの呑み具合によって、
ご飯、豚汁は後から、という配慮をちゃんとしてくれる、
のである。

若干、衣がはがれ気味。
まあ、ここでは先のようなことで、ノーマルなこと。

ソースをかけて



箸をつける。

肉の色は、いわゆる半生のロゼ色というのではない。
柔らかいことは柔らかいのだが、そこそこ歯応えはある。
そして、旨みが強い。

ロースの場合でも脂身はほぼ取ってしまうところもあるが、
下の横に包丁を入れた部分が大きくはないが脂身で、わかるように
してあるのであろうか。
脂身は、やはり、うまいもの、で、ある。

衣がはがれるというのは公平に見て減点要素であろうが、
全体として十分にうまいロースカツである。

食べていくと、キャベツを入れたステンレスの
ざるを持ったお兄さんが足しにくる。
私は普段はお替り可のところでもあまりキャベツのお替りはしない。
が、ここでお兄さんに聞かれると、断りずらいので、
一回、足してもらう。

が、食べていると、キャベツが減ってくる。
と、また、キャベツのお兄さん登場。
キャベツ、いかがですか?。

さすがに、もうよいので、断る。

まさにわんこそば状態。
一度断れば、むろん憶えていて、もうこない。

しかし、このお客ケアは実に徹底しているものである。

ご飯も、豚汁、お新香もうまい。
豚汁は、特段濃いということもなく、ノーマル。
十分にうまい。
お新香は糠漬けで自家製であろう。
ご飯も豚汁も(おそらくお新香も)、お替りは可、であるが
食べすぎを考えてお替りはしない。

食べ終わった。

と、すぐにお兄さん、熱いおしぼりを持ってくる。

今日は目の前に楊枝があったが、ちょっと離れていると
このタイミングで目の前に置いてくれる。

そして、お茶。
出してくれて、お兄さん、

あ、熱かったですね、と、

グラスに冷たい水もくれた。

まったく、たいしたもの、で、ある。
(食べ終わった後は、この季節ぐらいだと水でもよい。)

完全にお客一人一人の状態を見ていて、サービスをしてくれている、
のである。

ロースカツ定食、¥1,900。
むろん、町のとんかつやよりは高価だが、東京の名店・老舗では
むしろ安い方。

それでもいつも誰に対しても、これをしてくれている、
というのはまったく頭が下がる。

たくさんきている外国人の方、これがお分かりになろうか。
むろん、日本人の習慣に合わせたサービスではあるが、
日本でも、東京でもこんな店はほぼない。

誇るべき東京のとんかつや、で、ある。



ご馳走様でした。

この店で、怒る人はいない。
まさに癒しのとんかつや、で、あろう。

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