浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



とんかつ・目黒・とんき その1

9月25日(月)夜

さて。

オフィス帰り、なにを食べようか。

[とんき]。

目黒のとんかつや、で、ある。

池波レシピ、でも、ある。

一年ぶり、か。

オフィスから目黒は歩けぬ距離ではないのだが、
帰り道とは反対方向のため、あまり足が向かないのである。

線路際の坂をのぼって10分ほど。

目黒通り、権之助坂から最初の通りを左に入った右側。
[とんき]到着、7時すぎ。

白い暖簾を分け、白木の桟の硝子戸を開けて入る。

明るい店内。
柱がなく、ドーンと広い。

真ん中が大きな調理場。
調理場を大きくコの字に囲んで、長い白木のカウンター。
なん席ぐらいあるのであろうか。
100席もなかろうが、そうとうに大きい。

向かって右側壁際に待つ者用の椅子が並んでいるが、
待っている人はいない。

ご主人を探す。

あ、いたいた。
背の高くて、眼鏡でごま塩の短髪。柔和。

一人、と、指を一本出す。

ご主人はうなずいて、

ヒレかロースか、串カツか。

と、聞く。

これは、独特の調子なのだが、入ってきたお客すべてに
この言葉をかけ、注文内容を聞いて、符丁のような言葉で
通す。

ヒレ、ロースト、串カツの三つしかないのでこれでよいのであるが、
無駄がない。

私はロースで、と応える。

ちょっと待ってね。
そちらに座って、お待ちください。

きっとすぐであろう。

2〜3分後、声を掛けられて、掛ける。

目の前であった。

しかし、ここも外人のお客が増えたものである。

白人、二人組、三人組、観光客、あるいはビジネスマンと見られる人。
ちょうど私の隣の若いカップル。
最初は小さな声で気が付かなかったが、よくよく話し言葉を聞いていると、
ハングルで韓国人らしい。
おとなしいので、日本人かと思っていた。

お兄さんが熱いおしぼりとお茶を持ってきた、、、が、

あ、ビール下さい。

お兄さん、お茶をすぐに引っ込め、

キリンか、サッポロ、と、聞く。

キリンで。

秋味か、ラガー。

ラガー。

やっぱりラガーであろう。
秋味は、一番搾りなのか?、わからぬが、どうも
もったりしていて、好みではない。

ともあれ、このやりとりも、無駄がない。

スッと、ラガーと、

バタピーが置かれる。

今時、バタピーがつまみで出てくるところ、というのも
なかなかないのではなかろうか。

これがつまんでみると、腹が減っているというのもあろうが、
なかなかうまいバタピーなのである。

ここ、カツが出てくるまで、時間がそこそこかかるのである。

バタピーをつまみながら、ゆっくり待つ。

のどが渇いているので、ガブガブ呑んでしまう。

ここは、ご飯も豚汁も基本ついてくるので、今日は
先に全部呑んでしまってもよいか。

などと、考えていると、、、またまた、お兄さん
笑顔で登場。

新聞、読みますか?。

目で、後ろの台に乗っている新聞を指す。

あ〜、いいです。
ありがとうございます。

厨房の働く様を見ている方が、おもしろい。

そう、ここは一人の客には、新聞を出していた、
のである。
それこそ、池波先生が来られていた頃から。

私も出されたことがある。

最近は聞くことにした、のか、たまたまか。

ちょうど、目の前奥がカツを切って皿に盛りつけるところ。

前にも書いたような気がするが、この切って皿に盛り付けるているのが
かなり高齢と見られるお爺さん。
背はもともと高くはないようだが、腰というのか、背中が曲がっている。
ただやっぱり、表情はいつも柔和。

 

つづく

 


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