浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



鴨汁

dancyotei2016-11-02


10月31日(月)夜

五反田のオフィスからの帰り道。

昨日ほどではないが、寒い。

日が落ちるのが日一日と早くなっている。

寒がりの私は、スーツも冬物にしその上に、

ステンカラーのコートを引っ掛けてきてしまった。

さて、なにを食べようか。

やっぱり、温かいもの。

煮物。

汁物か。

そうだ、鴨汁。

蕎麦やの鴨せいろの汁のみ。

これで呑む。

よいものである。

蕎麦やへ寄って、とも思ったのだが、作ろうか、と

考えた。

いつものハナマサに寄る。

冷凍の鴨肉。

それから三つ葉も必須であろう。

ねぎはある。

油揚げも入れよう。

ちょっと具だくさん。

食べるかどうかは置いておいて、

生蕎麦も買っておこう。1パック。

帰宅。

鴨肉は袋ごと流水に漬けて解凍しておく。

以前にもなん回か作っているが、うまいものを作ろうとすると、

意外にこれが難しい。

蕎麦やで食べても、店によってかなり優劣がある。

鴨の脂と旨みをつゆに引き出せているか。

このことである。

むろん、ただ肉を切ってつゆで煮込んだだけでは

まるで落第である。

鴨肉は、火を通しすぎないレアが鉄則。

すぐに縮んで堅くなってしまう。

それで、肉は煮込まずに別に火を通し、後から入れる。

脂の方は脂身を細かく切ったものからよく脂を出す。

旨みの方。

これは、プロがよくやるのは、鴨肉でつくねのような団子を

作って入れる。

ただ、これはわずかな鴨肉で一人分だけ作るのは

あまり効率的ではない。

大量に作った余りの肉を叩いて団子にする。

まあ、よいか。

脂だけだ。

脂身を切り出し細かく切っておく。

脂を取った肉はちょっと厚めのスライス。

ねぎ。

これは煮込み用と薬味用の2種類。

煮込み用は5cmほどの長さに切り、

さらに縦に1/4に割っておく。

薬味用は薄いこぐち切り。

三つ葉は一把、洗って、ザクザク切る。

油揚げは一枚の半分ほどを短冊切り。

そして、酒。

さすがにビールではなく、燗酒、で、あろう。

鉄瓶に水を入れて火にかけておく。

これで準備完了。

先に鍋で脂を出す。

脂が出てきたら脂を取った肉も足す。

今日は鍋一つで完結させてしまおうという方針。

しかし、本当は、別に、

魚焼用のグリルなどで焼くのがよいのであろう。

たが、これもちょいと難しい。

大きなまま表面を焼いて、中はレア。

つまりたたき状にしてからスライスし、

最後に入れる。

これがよさそうだが、やはり一人分では無理である。

ともあれ。

脂と共に肉も鍋にいれ軽く焼いて、取り出す。

ここに桃屋のつゆ、水、縦に切ったねぎ

短冊に切った油揚げを入れる。

ねぎに火が入るまで。



いいかな。

別にしておいた、肉も入れる。

OK。

丼に入れて、三つ葉もたっぷり。

出来が上がり。

酒。

一合のお銚子に酒を入れて熱くなった鉄瓶で燗をつける。

銘柄はもちろん、菊正宗。

脂も十分に出ている。

肉の旨みも、量を入れたせいか意外に出ている。

やはりこれ、鴨せいろそばのつけ汁、というだけでなく、

もはや独立して、一品の肴でよいのではなかろうか。

特に鴨肉をたっぷり入れると。

濃いめのしょうゆ味と鴨肉、鴨の脂がまた相性のよいこと、

夥(おびただ)しい。

そして、もちろん、辛口の菊正宗もなくてはならない。