浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



国立劇場12月歌舞伎公演 東海道四谷怪談 その3

dancyotei2015-12-09



12月6日(日)


引き続き「四谷怪談」。


昨日から、いろいろと考えてみたのだが、
結論からいうと、よくわからない。


なにがといって、鶴屋南北作品というものが、
で、ある。


その前にもう少し説明をしなければいけなかろう。


まず今回の「東海道四谷怪談」のこと。


これは、そうそう悩むことはない、
というのが私の結論ではある。


つまり、はっきりいって、おもしろい芝居である。


ワクワクするし、驚かされるし、
怖がらせてもくれる。


なにも考えずにエンターテインメントとして
おもしろがってよいのではないか、ということである。


歌舞伎史上どう位置付けられるのか、とか、
作品論であるとか、そういう小難しいことを
考えなくとも、この芝居だけ取り出して
時代を移しても、つまり、今から50年後の未来でも
十分におもしろい、と。


それでいいじゃないか、と。
この結論に行き当ったのである。


ここまではよいのである。


ここまではよいのだが、鶴屋南北作品とは、的なことを
考え始めて、まったくわからなくなってしまったのである。


もっとも、過去によくわからないと思いながら、
一つは通しで3年前に、もう一つは7年前で幕見で
観ただけ。


これで南北作品についてなにか語ろうということ自体
無謀で、お馬鹿さんなことではあろう。


まあ、そんなことで、よくわからない、が結論
ということになったのではあった。


前にも書いたように、実際のところこの人の作品は
今はあまり上演されないのであるが、研究書、論文の類は
かなりたくさんある。
書棚をひっくり返したら、読んでいないのが出てきたり。


実は、これら、みんなとても難しいのである。
演劇論のようなものがわかっていないと、とても
読めないものだったりして、ツンドクになっていた
のである。


上演されないのに研究はたくさんあって、皆むずかしい。


これはどういうことであろうか。


『浮世柄比翼稲妻』でも書いているのだが、素直な感想が、
ストーリーがあっちゃこっちゃへいって、
わけがわからない、ということなのである。


で、そういうものとして、そのままを受け入れて
おもしろがればよいのでは、と書いていた。


四谷怪談」はさすがに、ストーリーはちゃんとあって、
わけはわかる。


わからぬが、他の作品もわけのわからない(と感じる)ものが
多いのではなかろうか。
それで、江戸期はともかく明治以降、近代の頭になってくると
ついていけなくなって、人気がなくなった、のでは
なかろうか。


文化文政期の大衆は近代の演劇論などむろん無関係だし、
そのままをおもしろがっていたはずである。


どなたか、わかりやすく南北作品を解説してくださる方は
あるまいか。


しかし、現代においてあまり上演されなければ、
価値もあまりないようにも思うのだが、、。
なんとなく、南北作品、ちゅうぶらりんな存在である。


さて、最後に二つばかり「四谷怪談」でお見せしたいもの。





国貞画 柳屋おもん 二代目岩井粂三郎(初演の頃と思われる。



これは今回も演じられたが序幕「浅草観世音額堂の場」。
お姐さんがいて、左に見えるのが、楊枝や。
楊枝は歯を掃除する今もある楊枝である。(ふさ楊枝といって
歯ブラシ替わりのものもあったのだが。)


浅草観世音は、むろん浅草寺
この楊枝やは、今の仲見世、である。
今は楊枝などは売っていないが、江戸期には
楊枝を売っている店がなぜか多かったのである。
池波作品の「仕掛人藤枝梅安」シリーズに出てくる
梅安の相棒の彦さんのオモテの仕事はこの観音様の楊枝やに
納める楊枝を削っている職人。


この芝居ではいわゆる水茶屋(茶店)も兼ねており
こういうきれいなお姐さんを置いて、客を引いた。
別料金を出せば、連れ出せた、ともいう。


まあ、こんな風俗が描かれている。


もう一つ。





1896(明治29年)東京 歌舞伎座
形見草四谷怪談 直助権兵衛 五代目尾上菊五郎


(明治時代の五代目は、團菊左時代の菊五郎。当代は七代目。
引っ掛けている半纏のようなものが、菊五郎格子なのが、
ちょいとよい。)


これは「本所砂村隠亡堀の場」に登場する。
「うなぎかき」といってたが、うなぎの漁師。


火消しが持つ鳶口(トビクチ)のような棒で堀の泥を
かき混ぜて、うなぎを探して獲るというものである。


だいたい、砂村は今の江東区の砂町で、本所ではなく
深川のように思うのだが、理由はよくわからない。


それはともかく、当時こんな風にうなぎを獲っていた
という、まあ、これも風俗である。


南北先生は生世話で、こういう当時の風俗を
そのまま取り入れたリアルな演出、写実という
ことになるのか、という例である。



ということで、あまり締らないが
鶴屋南北作「東海道四谷怪談」、ご退屈様、で、ある。