浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



秋刀魚塩焼き

dancyotei2015-10-13



10月8日(木)夜
さて。

秋刀魚の塩焼き、で、ある。

昨日、10/7のNHK「ためしてガッテン」

ご覧になった方もあるかもしれない。

秋刀魚であった。

私は今シーズン、鮨やなどで初物として刺身で食べたりはしているが、
魚やで安いものを買い塩焼きで家で食べるということは
まだしていない。

TVでもやっていたが、10月に入って安くなってきてもいる
とのこと。

皆様も耳に入っておられるであろう。
秋刀魚を取り巻く環境は大きく変わってきているようである。

まずは温暖化などもあるのであろう。
もともとは、秋刀魚といえば銚子であったと思うが、三陸から
段々に獲れる場所が北へ上がり、今は北海道釧路沖あたりか。

そして、ここ数年喧(かまびす)しいのは台湾。

我が国の秋刀魚漁船よりも格段に大きな船で船団を組み、
釧路沖よりもさらに沖、で根こそぎ獲っている、ともいう。

秋刀魚といえば、落語「目黒の秋刀魚」でも描写されるが、
脂がのって焼けばジュウジュウを音を立て、
煙が上がる、というものであった。

ガスのレンジで焼いて換気扇を回しても
家じゅうに煙が充満していた。
ベランダで炭で焼こうものなら、火事かと思われて
通報されはしないか心配するほどであった。

べら棒に脂があって、その上大量に獲れるので
一本数十円と、べら棒に安い。

まさに庶民の秋の食卓をにぎわせる風物詩であり、
皆、たのしみに待っていた。

獲れているのが北へ上がった北海道沖だからか、台湾船の
大量漁獲の影響なのか、はたまた別の要因なのか。わからぬが、この数年、
不漁だったり、脂があるにはあるが、従前程ではなかったり。

以前の安くて脂がべら棒にある姿ではなくなっていると
私は思っている。
同意をしていただける方も少なくはないのではなかろうか。

なぜ不漁なのか。
なぜ、以前ほどの脂ののりがないのか。

実際のところは原因はわかっていないのかもしれず、
台湾漁船のせいではないのかもしれぬ。

科学的に原因を究明し、それに基づき台湾とは
持続可能な秋刀魚漁を続けるために話し合う必要が
あろう。

いくら風物詩だからといって、一本数百円の
秋刀魚によろこんで金を出すというのは、私は
やはり本末転倒であると思っている。
安いから秋刀魚なのである。

毎度いってる通り、鰯でも鯖でも他に安くてうまい魚が必ずある。
それを食べればよいのである。

ともあれ。
ためしてガッテン」であった。

秋刀魚の上手な焼き方。

簡単なことなのだが、これは、目から鱗

結局、焼きすぎないこと。これに尽きている。
と、いうことは、我々は普段、焼きすぎていたということなのである。

カニズムは、皮がふくらみ、めくれて脂が落ちる、ということらしい。
脂が落ちる前に、既に焼けており、これで焼き上がりとする。
こういうことであった。

ただ焦げ目がついていないと、うまそうでないので、
10倍に薄めた味醂を両面塗っておく。
そうすれば、味醂の糖分で早く焦げる。
こんな技である。

片面グリルであれば、最初5分、ひっくり返して4分、予熱で2分。
これが、「ガッテン」のレシピだが、やってみたらうちのグリルでは
もう少し短くで最初4分にあと3分程度でよさそうであった。



なるほど。

これで十分。
火は通っている。

この秋刀魚は、今日、吉池で買った、一本150円のもの。
このくらいならばまだ許容できる値段と思い、買った。

脂を落としていないので、今日の脂ののりが、従前通りなのか
そうでもないのかは、わからないが、べら棒にとはいかぬが、
十分に脂があってうまいものであった。
(結局、脂を落とさず普通なのは、少ない、ということに
なるのかもしれぬが。)

また、焼きすぎない効果としてもう一つ、身がふっくらしているという
評価もあったが、これは今一つわからなかった。

しかし、今回の「ガッテン」の結論、かなり示唆に富んでいるのではないか。

焦げ目が入るほど焼いてはいけない。
私達の焼くおおかたの焼魚が、焼きすぎであったということになる。

煮魚も最近は煮すぎないが鉄則になっているが、
焼魚もそうであったということである。

結局、熱のかけすぎは脂も落とすし、煮魚の場合は身のコラーゲンが
煮汁に出てしまいパサパサになる。焼魚の場合は、分解して?
落ちてしまい?、やはりパサパサになる。

それでも秋刀魚がうまいのは、やっぱりそうとうに脂があったということに
なろう。

これから、すべての焼魚をこの考えで、短時間焼きにしてみようか。

ただ、で、ある。

脂を落とさない工夫をしないといけないくらいの
秋刀魚というのは、淋しい気もするのだが、いかがであろうか。