浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

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歌舞伎座三月大歌舞伎・菅原伝授手習鑑 その4

dancyotei2015-03-29

歌舞伎座三月大歌舞伎・菅原伝授手習鑑 その4

「菅原伝授手習鑑」の通し、その4。



先週は序幕から道明寺まで。
これで昼の部が終了。


夜の部は、よく上演される、車引から。


昼の部の最後の、道明寺で菅原道真、菅丞相が
九州大宰府に流され、夜の部にはもう出てこない。
かわりに、梅王丸、松王丸、桜丸の三つ子の兄妹が
主人公になる。


もう一度この三つ子のことをおさらいすると、
菅丞相の領地にある別邸の管理人であった四朗九郎
という男の子供で、なぜか別々の主人に仕えている。


そもそもこの設定が不自然のような気がするが、
ともあれ、梅王丸は菅丞相の舎人(とねり、下級の家来)に
松王丸は、菅丞相のライバルで追い落としの成功した
藤原時平の舎人に、桜丸は時の帝の弟の斎世親王の舎人である。


桜丸はこの芝居の序幕で、斎世親王と菅丞相の娘苅谷姫の
仲を取り持ち、そのまま二人は駆け落ちしてしまい、
これが菅丞相が流される原因になっている。


車引のお話はまったく簡単。


菅丞相は既に流された後の京都。


梅王丸と桜丸が道で行き会う。
そこに時平の行列が吉田神社に参詣するという先触れがあり
二人は菅丞相の恨みを晴らす好機と、吉田神社へ急ぐ。


松王丸は時平の舎人なので当然この行列にいる。


梅王丸と桜丸は時平の牛車を襲おうと近づく。
松王丸は護る。



国芳嘉永3年 (1850年)江戸・ 中村座
桜丸:初代坂東しうか、梅王丸:七代目市川高麗蔵
松王丸:八代目市川団十郎



三人のからみ、いわゆる荒事といってよいのであろうか、
派手な見得の切り合いがあり、牛車から、時平が登場。





豊国画 寛政9年 (1797年)江戸・中村座
梅王丸:初代市川男女蔵、時平:中村竜蔵、
松王丸:三代目沢村宗十郎、桜丸:二代目中村伝九郎



梅王丸と桜丸は時平に襲い掛かろうとするが
時平の威光にすくみ上がってしまう。
松王丸は二人を成敗しようとするが、時平は
境内を血で穢(けが)すのは畏れ多いと二人を許す。


三兄妹は間もなく開く父の70歳の賀の祝い再会後、
決着を付けようといって別れ、幕。


お話はほぼないに等しく、ビジュアル系の幕。


梅王丸&桜丸 vs 松王丸〜時平。
これは背景はともかく、この対立する図式はわかりやすい。
(善玉 vs 悪玉 である。)


ビジュアル系の中身は上の浮世絵を見ていただければ
おわかりになろう。
先の三枚が嘉永の頃で、幕末。
現代もこの三人の着物の柄はほぼ変わっていないようである。


三人とも最初は紫の格子柄の着物なのだが、
もろ肌脱ぎになる。(上の着物の両肩を抜き、下の着物を
見せる)
そうすると梅、松、桜を派手にあしらった柄の着物になる。


梅王丸と桜丸の梅と桜はどちらも赤地。
松王丸の松は白地。
これも紅白対決で、ビジュアル的にわかりやすいし、
歌舞伎の様式美を十二分に発揮している。


そして、梅王丸は派手な隈取、松王丸は中くらい。
桜丸は若衆扱いで控えめな隈取。


この姿で三人は大立ちまわり、大見得を切り合う。
いかにも歌舞伎。


大向こうから声がかかる。


最後に登場する時平は、歌舞伎では公家悪と表現されるようだが
舞台中央のそれぞれよりも高い位置に立つ。
(この幕では座長格の役。年長の悪役。)


時平は悪人の派手な隈取。


先ほど、威光と書いたがある種、神のような
不思議な力で、梅王丸と桜丸を威圧する。
これも歌舞伎的なのかもしれぬ。


まあ、こんな芝居である。


梅王丸は愛之助、松王丸は染五郎、桜丸は菊之助
これは昼の部から一緒。


車引は基本、派手な衣装と隈取で、
大立ち回りをする、梅王と松王の幕なのである。


立回り中に、決まって(ストップモーションというのか、
止まって見得を切ることを決まるという。)
見得になるのだが、ここで声がかかる。


屋号の声をかけるというのは、むろん、いいぞ〜と、
ほめているわけである。


ただ、これはいわゆる“おやくそく”というやつである。
この掛け声まで含めて、芝居であろう。


ただ心からほめたくなるのには、やっぱり、重みが必要なのである。


愛之助は松島屋、染五郎高麗屋


「マツシマヤッ!」


「コォウライヤッ!」


愛之助染五郎
残念ながら、まだ若いのか重みが足らない。


私も声をかけたかったのだが、、、。


以前に、吉右衛門の梅王丸、幸四郎の松王丸の車引を
観ているが、この二人であれば、誰がどう観てもほめたくなる。
いや、ほめるようにできているので、手慣れた二人であれば
赤子の手をひねるようなもの。もうたくさんってくらいに感じるほど。
(様式美。わるくいえば予定調和なのだが、これが歌舞伎である。)


ここ数年、なん人もの大幹部役者が亡くなっているが
世代交代していかねばならなかろう。






つづく