浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



日本橋吉野鮨

dancyotei2012-02-05



2月2日(木)夜



鮨が食いたい!。


寒い、のであるが、やはり鮨は別格、で、ある。


今、私が足を運んでいるのは、三軒。


先日書いた、浅草松屋に入っている、すし栄


デパートの地下のテナントで、土日、
半端な時間でも食べることができるし、安い。
が、老舗であり江戸前の“ちゃんとした”仕事をしていて
安心して食べられる。


そして、新橋しみづ


いわゆる、有名店の一角といってよいだろう。
ルーツは柳橋の美家古、神田鶴八から江戸前の技を引き継ぎつつ、
新しい試みもしている。
むろん、鮪にしてもなんにしても、種は一級品。
そして、その割に、¥10000程度と安い。
また、居心地がいい。


そして、もう一軒が、日本橋吉野


創業は明治12年
老舗といってよかろう。
鮪のトロ発祥の店としても知られている。


むろんのこと、技も江戸前を継承している。


『たかがすし屋、されど鮨屋』を店のポリシーにしている。
ここが私の気に入っているところ。


値段は、1〜2品の刺身とにぎり、酒を入れて、
6〜7000円。
これも、むろん、よいところ。


この値段なので、人気もある。
2〜3人でテーブルに座ってもよいが、
一人でカウンターならば、早い時間がよい。
(予約もできぬことはないが、早い時間まで。)


と、いうわけで今日は、外出のついでに、
5時台に店に入る。


カウンターは2〜3組のお客。
奥に近いところに座る。


お酒お燗。


桜正宗の一合瓶。


下町では比較的見かける酒。


そのままお燗をつけて、出てくる。


これも、よい。


座った目の前の冷蔵ケースに、小鯛の酢漬け、
春子がどっさり。


これ、刺身でもらおう。


きちんと〆られている。


つまんでいると、また、目の前の
冷蔵ケースの上、常温で置かれている
やりいか。
10数cmと、小ぶりなもの。


これもつまみで頼んでみる。


鮨やでは、煮いかという。


甘いたれをかけ、白胡麻をふる。


お!。
食べてみると、子持ち。
胴には、下足も一緒に詰められているが、
玉子も入っている。


いかの、産卵期は春先から初夏。


まだまだ極寒の日が続いているが、
確実に春は近付いているのだろう。


こんなもんで、にぎり。
お酒も一合でやめて、お茶に。


にぎりをつまむときには、呑みながらぐずぐずは
いけない。これも池波先生の教え。


白身から。


きょうはなにがあるか、聞いてみる。


すると、鯛、平目昆布〆、ひらすずき、鰤(ぶり)。


ひらすずき?
初めて聞く名前。


板さんに聞いてみると、この時期のすずきのこと、
という。


じゃあ、それと、鰤。


ひらすずき。
言い方が少しへんだが、鮨やで出てくる鱸(すずき)の味。
うまい。
(あとで調べてみると、ひらすずき、とは、
この前、自分でも焼いて食べたりしているが、
いわゆる内湾、汽水域にいる鱸とは違う種で
くさみもないもの、という。
そして、旬は寒いこの時期。)


鰤。


これはもう、べら棒な、脂。
まさに寒鰤。


いか。


むろん、生のいかは、すみいか。


あまく、やわらか。


次は、光物。


光物ではあるが、さよりから。


さよりは、光物に入っているが、
味は、かぎりなく白身に近かろう。
やはり、これから春先が旬。
うまみがある。


小肌。


渋い銀色に黒い細かい斑点。


包丁目を入れてあったり、ひねって
にぎったりもする。


にぎりの鮨としては、最も美しい。
まさに江戸前鮨のシンボルといってもよかろう。


今、にぎり鮨は国内各地はむろんのこと、
もはや世界中に広まっている料理ではある。


しかしながら、この、小肌のにぎりこそが、
鮨であり、世界中どこにもない、江戸前鮨。


次は、鯵。


ここは、昔の手法、酢洗いをしてあることも
あるが、今日は、生。


おろし生姜が心地よい。


鯖。


むろん、〆鯖。
よい脂、で、ある。


次は、蛤。


甘いたれを塗った、いわゆる煮蛤(にはま)。
ぷりぷり。


たこ。


これも、江戸前仕事の生きた種。
柔らかく煮て、甘いたれを塗る。


海老。
茹でた小型の車海老だが、さいまき海老という。


茹でた海老は回転すしでも、どこにでもあるが、
ほとんどのものは、既に茹でて流通しているもの。
あれは、ご存知のようにパサパサ。


店で茹でて、荒熱をとってからにぎるのが、本当。
甘く、ぷりぷり。
まったく、別物で、ある。


そろそろ、腹も一杯。


巻物は、今日は、鉄火にしようか。


きちんと、簀巻で巻いた細巻。


うまかった。


ご馳走様でした。


勘定は、6000円ちょい。


店に入ってから、1時間は経っていない。
有難うございます、の声に送られ、
硝子格子を開けて出る。



『たかがすし屋、されど鮨屋』。


最初にトロ発祥の店、と書いたが、
直接聞いたわけではないので、わからないが、
おそらくここは、高価な近海の生の鮪は使っていない。
ご存知の通り、鮨やの原価で、最も大きいのは鮪。
生の本鮪をやめれば、安めの値段で提供できる、
と、いうことであろう。


それがこの店のいう、
『たかがすし屋、されど鮨屋
ということのように私は思っている。


鮨なんて、それほどのものではないが、
やっぱり、私達東京に生まれ育った者にとっては、
ふるさとの味、なのである。


この形で、残っていってもらわなければ
困る鮨や、で、ある。






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