浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



芋茎と油揚げの煮たの

1月16日(月)夜

寒い日が続いている。

皆様、いかがお過ごしであろうか。

海流の関係というようなことを
TVでいっていたような気がする。

日が暮れると、都心でも2〜3℃というのは、

いかにも寒い。

温室効果で東京が冬でも暖かくなる以前、
我々の子供の頃は、やはりそれなりに寒かった。
霜柱も立ったし、水溜りに氷も張っていた。

その頃を考えると、これでもまだ
暖かいのかもしれぬ。
が、やっぱり、寒いものは寒い。


8時頃、市谷のオフィスを出る。

なにを食べようか、考えるのだが、
今日は、決めていた。

温かいもの、煮物、煮物、と、考えて、
芋茎、に行き着いた。

これ、読めない方もいるやに思う。
いも、という字に、くき。

字の通り、芋(いも)の茎(くき)。

芋は、本州ではサツマイモでもジャガイモでもなく、
里芋のこと。(これは前にも書いた。)

つまり、芋茎とは、里芋の茎、のことである。
イモガラ、ともいうし、ズイキ、ともいう。

私の子供の頃には、親などは、戦争中、物のない頃、
食べていた、なんというのを聞かされていたことも
あり、代用食のようなイメージがあった。

が、そうではない?!。
立派な食い物である、ということを、毎度お馴染み
池波作品から学んだ。

作品は、剣客商売

秋のある日、老剣客の主人公、秋山小兵衛が
浅草・元鳥越(これは今の鳥越神社のある鳥越。拙亭近所でもある。)
の牛堀久万之助道場を柄樽を持って、訪れる。
老僕の権兵衛が、軽い中食(ちゅうじき)を出す。


引用***



にぎりめしへ味噌をまぶしたのを、さっと焙(あぶ)ったものと、


芋茎と油揚げを煮た一鉢。塩漬けの秋茄子などの簡素な中食であったが、


(中略)


「うまいぞ、権ちゃん」


「あれ、また、権ちゃんといいなさると」


「お前のような人に食べるものの世話をしてもらって、


 ここの旦那はしあわせじゃな」



池波正太郎 剣客商売・狂乱 新潮文庫




これ、いかにもうまそう、で、ある。

で、初めて作ってみたのが、06年

芋茎というのは、乾物として売っているのは、
なんとなく、知っていた。

すると、京都の割烹で、芋茎、といわれて
出てきたものがあった。

先斗町

他にも、東京でも割烹で食べたりし、乾物とは違うものがある、
ということに薄々気が付いてきた。

で、生のものに、出会った。

これは千葉県八街あたりのものだったと思うが、
今、東京では生の芋茎というものは、まったく出回っていない。

これに対して、先の、割烹料理ではないが、
京都などでは出回っているのか(、、よくわからぬが)。

で、芋茎とはどんなものか。
味、というよりは、香りと食感の食い物、で、ある。

灰汁があって、ここからくる香りは独特なもの。
食感は、フカフカ、というのか、フニュフニュ、
と、いうのか、不思議なおもしろい、もの、である。
京料理などで今でも使われているというのは、
このあたりのおもしろさから、なのであろう。

牛込神楽坂駅への帰り道、駅隣のスーパーに寄って、
乾物の芋茎と油揚げを購入。

帰宅。

乾物は、3cm程度の長さにカットされたもの。

これを水に入れて、15分ほどもどす、と、
パッケージには書いてあるが、この冷たい水道水では
もどらぬと思い、鍋に水を入れ、ここに芋茎を入れ、
加熱。少し温めて、火を止めて、置いておく。

この間に、いつものように、火鉢の準備。
火を熾し、お燗用の鉄瓶を熱くする。

15分。ある程度、ふくらんできた。

一度、あけて、水で洗う。

乾物だと灰汁は少ないが、それでももどし汁は
色がついている。

これを煮る。
油揚げも短冊に切る。

酒としょうゆ、辛めがよろしかろうと、
砂糖は、ほんの少し。

アルミホイルの落しぶたをして、10分ほど。

味がしみれば出来上がり。
小鉢によそい、白胡麻なんぞも、ふる。





お燗もつけて、呑む。


やはり、こういう煮物には燗酒。



老僕権兵衛が作る素朴なもの、なのであるが、


乙なもの、で、ある。