浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



鶏と大根の鍋


1月11日(水)夜



夜。



市谷のオフィスからの帰り道、
歩きながら、なにを食べようか考える。


しかし、寒い。


昼間は、そうでもなかったのだが、
日が暮れ、風も出てきている。


温かいもの。


鍋か。


簡単なのは、大根の鍋


あたりか。


これは、お馴染み、池波レシピ


〜お馴染みでない方もおられると思うので、説明。


鬼平犯科帳仕掛人藤枝梅安剣客商売など
たくさんの時代小説を書いた池波正太郎
作品に登場する食い物がうまそうである、というのは、
有名なのだが、これを、この日記では
池波レシピ、と、呼んでいる。


“大根の鍋”というのは、なぜだか梅安シリーズに
よく出てくる。


出汁で大根を煮てしょうゆをかけて食べる。
これだけなのだが、滅法うまい。
バリエーションもいろいろあるのだが、
例えば、こんなシーン。



「ですが、この・・・・・・その相手を一日だけ生かしておきますと、


一日だけ、世の中が迷惑をするということで・・・・・・」


 半右衛門がいいさしたとき、おせき婆が酒を運んであらわれた。


火鉢に小鍋が掛けられる。


昆布を敷いた湯の中へ、厚めに切った大根が、もう煮えかかっていた。


これを小皿にとり、醤油をたらして食べる。


何の手数もかけぬものだが、大根さえよろしければ、こうして食べるのが


梅安は大好物であった。





仕掛人・藤枝梅安「梅安蟻地獄」」池波正太郎著 講談社文庫 から「闇の大川橋」




半右衛門というのは、仕掛人を束ねる元締め。
その元締めと、主人公の仕掛人である梅安が
大根の鍋を囲んで、仕掛の打合せをしているところ。


TV版だと半右衛門が田中邦衛、梅安は渡辺謙
ご覧になったことがない方も、イメージできようか。


出汁は昆布ではなく、鶏というのもある。
入るものは、基本は大根のみ。


池波先生もいっているが、東京下町の鍋、というのは、
基本は、主となる具材に加えるのは、一品かせいぜい二品まで。
寄せ鍋のようなものは、いけない。


大根の鍋も、せいぜい入れても油揚げ程度。


大江戸線牛込神楽坂で乗って、
新御徒町で降りる。


大根は冷蔵庫にある。
出汁は、鶏皮が凍っているので、
これでもよいかもしれない。


油揚げを買おうか、と、思い、いつものハナマサに寄る。


と、手羽先の先だけ、元を切った残り、というのか、
これを安く売っていた。
皮だけよりは、こちらの方が、よさそうだ。
購入。
油揚げも買って、帰宅。


この時間から大根を煮る、というのは、
時間がかかるのでは、と、思われかもしれぬが、
拙亭には圧力鍋、という武器がある。


まずは、大根を切る。
皮をむいて、輪切り。
時間があれば、このままでもよいが、
今日は、さらに1/4に切る。


圧力鍋に水、手羽、大根。
水はヒタヒタより少し多いくらい。


ふたを閉じて、強火で点火。


沸騰して加圧。
圧が完全に上がったら弱火。


ここからなん分置いておくかが問題。
長いと、レトルト食品のようになってしまう。


今日は、2〜3分で火を止める。


あとは放置調理。
放っておくだけで、余熱と、圧もかかっているので、
調理は進むのである。


その間に、火鉢の準備。
炭をガスで熾して、火鉢にいけ、鉄瓶をかけておく。
むろん、これは、お燗用。


鍋の方は、カセットコンロ。
圧力鍋で煮えたら、食卓用の鍋に移して食べようと
考えた。


火鉢があれば、同時にできる?。
そう、長火鉢+銅壺(どうこ)で、お燗をつけながら、鍋もできる。
(長火鉢+銅壺というのは、下記のリンクをご覧いただければ一目瞭然。)


実は、家にはこれもあるのだが、
古道具で買ったためか、銅壺からお湯が漏って、
メンテがたいへん。その上、実は、今使っているのは
陶器の火鉢なのだが、木製の長火鉢に比べると、
圧倒的に暖かい。それで、長火鉢は滅多に使っていないのである。


圧力鍋の方の、放置時間は20分。


その間に、この日記書き、など。


20分後、ふたをとってみる。


ふむふむ、よさそう。
手羽も柔らかくなっているし、大根も煮えている。


油揚げも短冊に切って入れる。


鍋は今日は鉄鍋。
出汁とともに、移し替える。


カセットコンロも用意。


卓袱台に皿と箸、しょうゆ。
箸休めに、柴漬けも出す。


お銚子に、お猪口、菊正宗も用意し、
準備完了。


ん?


鉄瓶がまだ熱くない。
立って、ガスにかけ、熱くし、再度、座る。


丹前を羽織る。


これで、万事OK。
これでまったく立たずに、食べて、呑めるというわけである。


お銚子に酒を入れ、鉄瓶のふたを取り、突っ込む。


鍋の方は、こんな感じ。





油揚げの量が多いようだが、煮えてくれば、
クタクタになる。


燗もついたので、お銚子を鉄瓶からあげて、
お猪口に注ぐ。


鍋から、大根と油揚げを取り、しょうゆをかけて。





食べる。


酒もうまいし、大根もうまい。


「何の手数もかけぬもの」であるが、大根というものが
これほどうまいのか、というのを実感できる食いものである。


あんまり呑みすぎてもいけないので、
お銚子にもう半分ほど。


鍋の方は、手羽もむろん食べ、さらにお替り。


温まった。