浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。(内容は本店と同じです。)

断腸亭料理日記本店



断腸亭2019夏・モルディブ その1

f:id:dancyotei:20190905152242g:plain
8月28日(水)

さて。

一週間程度のお休みをいただいたが、今日から再開。

例年通り、南の島へダイビングへ行ってきた。
「落語案内」は中断し、モルディブの模様を書きたい。

2015年がフィリピンボラカイ島で、あったが、
その後は、毎年、モルディブ

ただ、毎年モルディブでもリゾートは別。

16年がジュメイラ、ヴィッタヴェリ(Vittaveli)

17年がフォーシーズンズのランダー・ギラーバル(Landaa Giraavaru)

去年がアウトリガー・コノッタ(Konotta)

同じ場所に行かないのは、もっといいところはないか、
というないもの探し、かもしれぬ。

モルディブというのは、インド、スリランカのすぐ南から、
縦に長く八百キロ以上であろうか、長く長く続くリーフから
できている島国。場所によって環境も違っている。

ダイビングというのは自然の海を見るものであるが、
完全に自然か、といえば、そうでもない。

あてどもなく勝手に潜るわけではなく、もちろん、現地のダイビング
サービス、ガイドに案内してもらうわけである。
サービス、ガイドによって、潜るポイントが見つけられ、
開発されている。このよしあしがよいダイビングが
できるかどうかのポイントになる。

モルディブにはユネスコの生物圏保存地域というのに指定
されている環礁(アトール・Atoll)がある。

この生物圏保存地域というのは、日本の知床などが指定されている
ユネスコ自然遺産とはまた別のもので、もう少し、広く、緩い
のかもしれない。

モルディブではこの生物圏保存地域というのに指定されて
積極的に保護活動がされているのはバー環礁(Baa Atoll)というところ。
マレからは国内線で30~40分ほど。
17年に行った、フォーシーズンズのランダー・ギラーバルが
このバー環礁にあってなかなか見ごたえのあるダイビングができた。

昨年のアウトリガーはモルディブでも南の方で遠く、リゾートも
少なく、どちらかといえば開発が進んでいない。
こういうところがよいのかと思って行ってみたのだが、先に書いたように、
海はよくてもよいポイントが探されていないとよいものは見られない。
なかなか難しのである。

それで今年は、またバー環礁へ戻り、アミラフシ(AMILLA FUSHI)と
いうリゾートにした。比較的新しく、また小規模のよう。
https://www.amilla.mv/

8月28日、朝、家を出て、AM成田からシンガポール航空
シンガポール経由。
モルディブは直行便はなく、スリランカコロンボ経由か
シンガポール経由、あるいはタイ経由もあるのか。
ここなん年か、このシンガポール経由である。

シンガポールまでは6時間ほど。

モルディブへ行くときには、なぜかこれに決めている。

シンガポールのビール、タイガー。

機内食

和食、的なもの。
箸も付いて、鶏の甘辛照り焼き的なものに、こんにゃくや
にんじんの煮物のようなもの。
玉子焼きにおひたしのようなもの。うどんがついていた。

成田、シンガポール便はほぼ日本人。
私は降りたことはないが、ランドマークのプールが屋上にあるホテル
などあり、近年は人気なのであろう。
盆休みは終わっているためか、多少の空席もあった。

シンガポールチャンギ(Changi)空港からモルディブマレ行きに
乗り換えるのだが、待ち時間は2時間ほど。
訪れられた方はご存知であろうが、チャンギ空港はかなり
大きく、広い。
免税店、ショップ、レストランも多数。成田よりもよほどでかい。
ここ三年続けてきているが、どんどんと店も増え、また、きれいに
お洒落に、なっている。
以前からだが、Wi-Fiもフリー。

クラフトビールのあるハンバーガーショップに入った。

値段は物価の高いシンガポールでさらに空港内で
まあ、安くはないが、うまいビールとハンバーガーである。

シンガポールからマレ(Male)までは四時間。

位置関係はほぼ真西。

もう一回機内食

また、鶏。
味は、いかにもシンガポールなのか、甘辛だが、
にんにくの利いたオイスターソースと甜麺醤
白いのは、マッシュポテト。

夜遅く、マレ着。

空港そばのフルフレ・アイランド・ホテル(Hulhule Island Hotel)。
空港に最も近いのか、いつもここである。

この晩は遅いのでそのまま就寝。

翌朝。
昨夜からだが、天気がわるい。

雨風、波もそうとうに高い。

ネットで、インド洋の衛星の雲の画像を見ると、なんだか
すごいことになっている。モルディブから南インドの西に
丸い大きな雨雲の塊。
これは台風、サイクロンではないのか?。
昨年も、アウトリガーへ行っている時に、インド洋は荒れ模様
であったが、どうしても自然相手のダイビング、天気には
勝てない。

 

つづく

 

 

断腸亭落語案内 その71 桂三木助 へっつい幽霊

f:id:dancyotei:20190521083754g:plain

引き続き、三代目桂三木助師「へっつい幽霊」。


なんだ、知ってやがんのかぁ?。
一円付けてもらったって、俺のへっついだぁ!。
いやならよせ!。

こーなると、あんまり強いのも善し悪しだなぁー。
じゃ、よーがすよ。あげますよー。

くれるか?ほんとーに?。
もらってもいーの?。
そうかー、すまねーなー。
じゃー折角のお前(おめえ)の心持だから、、、

こっちの心持じゃねーや、そっちの心持じゃねーか。

んな、男らしくねーや、愚痴をこぼすねぃ。
じゃ、もらうぜ、いいかい?!。
ひー、ふー、みー、よー、いつ、むう、なな、やー、ココノ、トウ、
十一、十二、十三、十四、十五と。
さ、お前(めえ)が十五枚、俺が十五枚。
ポーンと二っつ割りの縦ん棒で、気持ちがいいじゃねーか。

気持ちなんざぁちっともよくねぇ。
閻魔だって、これじゃー、いい顔しねーだろう。
半端でしょーがねーや。

半端かぁ~?。
正直なこと言うと、俺も半端なんだよ。
だったら、どうだい、お前も俺も嫌(きれ)いじゃねぇんだから
二人でどっちかへ、押っ付けっこしよーか。

フ、フ、フ~。
そいでもいいんですがね~。
道具があるんですか~?。

渡世人の家だぁ。道具のねえことねーやな。
なにがいいんだ?。
二っ粒(丁半博打のこと)?。
あれが一番いいねー。気持ちがよくって、さっぱりしてて。

(サイコロを取り出し、振ってみる仕草。)
どうだい、よく変わるだろ。
丁半賽(ちょうはんざい)に誂えたんだよ。
いいさいころだろ?。

(幽霊、見ていて恍惚とした表情。)
へ、へ~。久しぶりだなぁ。
ちょいと触らしてくださいな。
(幽霊、手を前に下げた格好のまま、さいころを振る仕草。)

よせよー。へんな恰好するなよー。
普通に、こう、振れよー。

そういかねぇんすよー。
手、上へ持ち上げるとね、幽霊仲間はじかれちまうんすからね。

幽霊なんてなもの、不自由なもんだなー。
壺皿(つぼざら)もあるんだよ。
二、三番入れてみようか。
(壺皿にさいころを入れて伏せる仕草。)
どうだい?、なぁー。
ほら。
よく変わるだろ?。
いいかい?!。
入るよ!。
さいころを入れて、壺皿を伏せる仕草。)
さ!。どっちでも、口ぃ切っとくれ!。

さっきも言う通り、あっしぁねえ、丁より他に張ったことのねえ
男ですからねぇ。じゃー、丁に口ぃ切らしてもらいましょう。

そうかい?。
いくらいくんだい?。

いくらいくったってぇー。百五十両いっちゃいましょう。

いっぺんにかぁ?、おい。
へーー、いい度胸だなー。

度胸がいいわけじゃねーけどね。ぐずぐずしてて夜が明けりゃ、
こっちゃ、消えてなくなっちゃう。
早えとこ勝負付けてもらわねえと。
じゃー、親方、駒ぁ合わせて下さいな。

そうか?!、じゃ、俺が百五十両、お前(めえ)が百五十両
いいかい?。
ぼんちゅうわた(盆中渡?)り。勝負!。
五六(ごろく)、半!。

あ!、、、あ、あ、あ、、、

おう、おう、よせよ。
幽霊ががっかりしたなぁ始めた見たよ。
あんまりいい恰好じゃないよー。
おぃ。丁方(ちょうかた)駒、落とすぜ!。

出やがったなー、五六とは。これが四ゾロに変わるんだけど。
あっしの大(でえ)好きな、、、
親方!、もう一遍入れて下さいな。

せっかくだけど、そいつぁ断ろうじゃねーか。
お前(おめえ)の方に銭がねーのはわかってんだもん。

へ、へ、へ。
親方ぁ、安心して下さい。
あっしも幽霊ですから、決して足は出しません。

これでお仕舞。

いかがであろうか。

いい下げだと思う。(もちろん幽霊は足がないので、足は出さない。)

この噺、筋に異論もあるようで、別バージョンもあるのだが
この三木助版で、よいのではないかと私は思っている。
ちなみに別バージョンも下げは同じである。

この噺、元はやはり上方種という。三代目三遊亭円馬という人が
移したよう。(「落語の鑑賞201」延広真治編)

この人はちょっとおもしろい。
明治15年(1882年)大阪の生まれ。父も落語家であったが
落語家になってから東京へ移り初代三遊亭圓左門下となり、明治42年
(1909年)、七代目朝寝坊むらくで真打。その後、喧嘩騒ぎを起こし
大阪に戻ったり、また、東京へ、と行ったり来たり。大阪弁、京都弁、
江戸弁を巧みに使い分けることができたという。昭和20年(1945年)
大阪で没。前座時代の八代目桂文楽を預かっていたとのこと。文楽師は
そうとうに傾倒していたと語っているようである。(wiki
三代目円馬、かなりの名人といってよいようである。

ともあれ。
この三代目円馬を含め「へっつい幽霊」の明治の速記は見つけられて
いない。それでこの噺の東京での初期の成り立ちについては今回は
不明で宿題とさせていただく。

そんなわけで、想像の域を出ないのだが、三木助版の冒頭部分、
最初にへっついを買う男が関西弁なのは、上方から移された名残が
残っているのか。

 

つづく

 


三木助師「へっつい幽霊」もう少しで終わりますが断腸亭料理日記
今号で、お休みをしばらくいただきます。
断腸亭

 

 

断腸亭落語案内 その70 桂三木助 へっつい幽霊

f:id:dancyotei:20190521083754g:plain

引き続き、三代目桂三木助師「へっつい幽霊」。


出たかい?、おい。
意地のわるい野郎だなー。俺の方に出やがりゃいいのに。
なんか言ってたかい?。
えー?、金返せ?。
幽霊の借金取りかい!?。
おもしろいもの出やがったなぁ。

ま、ま、いいや。
熊さんは、銀ちゃんを自分の家に連れてきて、寝る。

翌日、熊さんは早く起めに起きて、昼時分に帰ってくる。

お帰んなさい。どこ行ってたんです?。

熊さんは、銀ちゃんの家に行ってたという。
奉公人だけでも14~5人もいる、大店。

銀ちゃん、親不孝だなぁ~。

銀ちゃんのお父っつあん、旦那に会って、この話をする。
幽霊の金、三百円を使い込んでしまって、このままでは
命に関わります。

親なんてぇもなぁ、ありがてえもんだな。
お父っつあん、泣いてたぜ。
勘当した倅でも、さて、命にかかわるとなると黙っちゃいねぇや。
三百円出してくれたが、こういうわけだから、札じゃ困る、
金貨で、っていったら、あるとこは違うね。
ガチャンと金庫を開けるとね、十円金貨で三十枚。
三百円、ここへ預かってきた。
今夜、幽霊に会って、この銭、叩き返してやれ。

どーいたしまして。
幽霊なんてもなぁ、いっぺん会やぁたくさんですよぉ。
あんまり裏返したり、馴染みんなったりするもんじゃありませんよ。

(裏を返す、馴染みになるは、吉原用語。
 始めてその花魁に会うのを初回、二回目を裏を返す、
 三回目から馴染み、となり、夫(おっと)扱いとなる。)

じゃ、今夜俺が幽太(ゆうた、幽霊のこと)の野郎に返してやる。

へっついを銀ちゃんの家から熊さんの家の土間へ据える。
三百円を前に置いて、

さ、どっからでも出てこい!。
人の銭なんか預かってたっておもしろくもなんともねぇや。
どうせ返(けえ)すんなら、早く返(けえ)した方がいい。
出ろよ幽霊。出やがれー!、と夕方から怒鳴り始めた。

さすがに、幽霊も夕方からは出にくい。
そのうちに、夜もふけてきて、どこやらで打ち出だす鐘が
ゴーン。
土間に置いてあるへっついから、ちょろちょろ、っと火が出る。

まだ出やがらねえ、出やがれ幽霊ーーー!。

と、幽霊、出ることは出たんですがね、後ろで考えてる。
(手を前に出して、幽霊の仕草。
 後ろなので、熊さんからは見えない。)

まで出やがらねえ、じれってぇ畜生だな。
出ろよ幽霊ーーー!。

(幽霊、首をすくめて)
う、う、う、、、
お待ちどう様~。

(熊さん、後ろ上を振り返り。)
出てやがる。
間抜けなところに出てやがるなぁ。
前へまわれ、前へまわれ。
なんでえその、お待ちどう様ってなぁ。
うなぎ丼(どんぶり)を誂(あつら)えたんじゃねぇぞ。
うらめしいとかなんとかいって、出ろよー!。

えーそれが、うらめしくないもんすからね。

うらめしくねえのに、なんだって出るんだよ。

そりゃ、話をしなくちゃわかんねえんですがね。
と、幽霊、話始める。

幽霊の生前、娑婆(しゃば)での仕事は左官
左官は江戸弁ではシャカンとナマル。)

名前は長(丁)五郎といった。
左官というのは表向きで、裏へまわると博打打ち。

長五郎というくらいで、丁の目だけに張ることしていた。
ある日、丁の目ばかり八回も続き、目の前は山のようになる。
すると周りから、いくらか回してくれと友達が言ってくる。
これじゃ切りがないと、なんとか切り上げて帰る。
家へ帰っても、どこから聞いたのか、これも友達が借りにくる。
一人暮らしでもあり、大金を持ち歩くわけにもいかないので
商売もののへっついに百円金貨で三十枚、塗り込んだ。

あたっている時は、おそろしいもの、その日ふぐで一杯やったら
ふぐにもあたっちまった。
どうせ、極楽には行ける身体じゃない、地獄の沙汰も金次第。
閻魔の面にこの三百円をぶつけて、その隙に極楽へ行こうって、
三百円を出してもらおうと、出てくるんだけど、みんな目ぇ
まわしちまうか、逃げちまう。親方、いい度胸だ。どうもご苦労様!。
と、長五郎の幽霊。

そうかい、幽ちゃん。
話はわかったが、これはお前(おめえ)と俺の相談だよ。
これは、お前(おめえ)の銭に違(ちげえ)ねえかも知れねえが
俺のお蔭で娑婆へ出てきたんだ。そうだろ?。
手付かず三百両(円を両でいう習慣があったよう。)持ってこう
とは思わねえだろうな。

ほー。
いくらかはじこうってんですか?。
いくらほしいんです。

いくらったって、しゃーねーじゃねーか。
ポーンと二つ割りにしてよー、お前(おめえ)が百五十両
俺が百五十両の縦ん棒なんてぇところが、どうだい、相場じゃ
ねーか?!。

百五十両?、取っちゃうの?。
親方ぁ~そりゃぁ、ひどいよ~!。

ひどい~?
いやかい?、いやならよせ!。
じゃ、出るとこ出て、話を付けようじゃねーか!。

出るとこなんざぁ出られやしねーや、こっちゃぁー!。

なにを言ってやがんだい。
元はお前(おめえ)のへっついかぁ知れねーけどなー、
今は俺のへっついだぜ、おい!。
あのへっついから出たんだよ。
見ねえ、あのへっつい、肩ぁ壊れちゃって、傷物んなっちゃって。
あのへっついだって、安いへっついじゃないよ。

へ~ん、うまいこと言ってら~。
一円付けてもらったんじゃねーか。

 

つづく

 

 

断腸亭落語案内 その69 桂三木助 へっつい幽霊

f:id:dancyotei:20190521083754g:plain

引き続き、三代目桂三木助師「へっつい幽霊」。


熊さんは銀ちゃんに道具やからへっついを一円付けて
もらってもらう、という話をする。
銀ちゃんも噂は聞いている。
熊さんは幽霊は俺が引き受けるから、一緒にもらってこようと誘う。
一円は五十銭ずつ山分け。

こんちは。

おや、熊さん。ま、一服おやんなさい。

(ここのリズムも、芸術的である。絶妙な口調。)

へい、ありがとう。
大将。塀越しの話だからね、間違えてたら勘弁して下さいよ。
そこにあるへっついかなぁ。誰かに一円付けてもらってくれると
なんて、お内儀さんと今、話してやしませんでしたか?。

(パン、と膝を叩く。)
いい方に聞いていただいたなぁ。こりゃぁ、熊さん。
あなた方のご商売には随分強い方が、、。

ええ、強いも弱いもねぇやな。実はあっしがもらおうってんだ。

熊さんが?、え?。
けっ・こ・う、、だけど、、少ぉし近すぎるなぁ。
実はねぇ、このへっついに、、、

おー、とっと。
なんにも言わなくっても、わかってる。
お前さんの方だって、元の出ている代物(しろもん)だ。
そこへたとえ、一円でも付けよう、ってんだ。
なにかいわくがなきゃ、そんなことしっこねえ。
あっしも男だ。一円付けてもらったからにはねえ、鬼が出ようが
蛇(じゃ)が出ようと、お前さんとこにこれっぱかしも、苦情なんか
持ってきやしねえ。今日はあっしばかしじゃねーや。
銀ちゃんも一緒だ。くれますか?。
じゃ、その一円っての先ぃくれませんか。
正直なこというと、そいつが目当てだ。

五十銭玉で二枚もらって、熊さんと銀ちゃん、差し担いで
へっついを担いで、道具やを出る。

熊さんの方は身体もがっちりしているし、担ぎものにも慣れている。
若旦那の方はてぇと、身体はか細い、担ぎものにも慣れない。
まだ、通りの広いうちはよかったんですが、狭い路地い
入ってきますと、余計よたよたしています。
どぶ板いつまずいた、トントントンとのめる。
掃き溜めい、ドシーンとぶつけましたから、へっついの角が
ポロっとかける、と、途端に白いこのくらい
(手ぬぐいを丸めて塊を作り転がす。)
の塊がコロコロコロっと、銀ちゃんの足元に転がる。
驚いたのは、若旦那で、

熊さん!幽霊の玉子!。

幽霊の玉子なんざぁ、あんまり聞かねえなぁ。
そんなもの、出やがったかい。

このまま路地に置いておくと邪魔になる。
縄を切ってしまったので、へっついを場所が近かった
銀ちゃんの家に入れ、出てきた塊を持って二人熊さんの家へ。

さっきの白い塊の封を切ってみる。
すると、中から出てきたのは、十円金貨で三十枚。
三百円という金が出てきた。
(年代が不明だが今の価値で、三百万円くらいとしておこう。)

どうだい、こんなことだと思ったんだ、と熊さん。
これに気が残って出てくるんだ。

銀ちゃんは、
熊さん、仕事は山分け?!。

わかってる、わかってる。
わかってるから、今、がっかりしてるんだ。

と、半分の百五十円ずつ、分け、

熊さん、どうでもいいんですけど、五十銭は?。

しっかりしてるね。
百五十銭あるんだから、いいじゃねぇか。
やるよ、やらないとはいわねえよ。

銀ちゃんは、百五十円と五十銭持ってピーっと、吉原へ。
熊さんは博打へ。

銀ちゃん、明くる日の夕方までにきれーに、使ってしまって
一文無し。

おーや、おや、せめて五十銭だけでも残しときゃよかったな。
家い帰って、熊さんに借りよう。

と、熊さんはまだ帰ってない。

熊さんの方も、悪銭身に付かず。
やっぱり、きれーに取られて、一文無し。
元手がなきゃ、博打にもならない、銀ちゃんに借りよう。

お、帰ってやがる。
若旦那!
(戸を開ける仕草。)

熊さん、お金貸してください。

じゃ、俺の言うことねーじゃねーか。
みんな使っちゃったの?。
俺かい?俺もすっかり取られたんだ。
まーいいや。端(はな)っから、なかった銭だと思って
あきらめて寝よう。

熊さんはあきらめよく、布団にもぐずり込んで寝てしまう。

若旦那の方は、そこへいくとなんとなく寝にくい。
夕べの今頃は、みんなで踊りを踊ったりなにかして、
おもしろかった、、と考えているうちに、
どこやらでうち出だす鐘が、ゴーン。
土間に置いてありました、へっついに隅からちょろちょろ、
ちょろちょろっと、火が出たかと思うと、やせーた蒼い顔を
したのがスーッと銀ちゃんの枕元へ出まして、

金返せぇ~~~~

と言ったんだから、驚いたの驚かないのって、

キャー、ってぇと、そのまま目を回しちまった。
この声を聞くと、熊さんは表の戸を蹴破って飛び込んできた。

おー、銀ちゃん、若旦那!。

あ、熊さん。
あーた、嘘ばっかり。
幽霊引き受ける、引き受けるって、ちっとも引き受けやしない。
私の方に押っ付けっぱなし。

 

つづく

 

 

断腸亭落語案内 その68 桂三木助 へっつい幽霊

f:id:dancyotei:20190521083754g:plain

引き続き、三代目桂三木助師「へっつい幽霊」。


開けてみたら、昼間、へっついを買った男。

あのへっつい、引き取って、
トッテ、トッテ、トッテ、トッテ、、、。

ラッパみたいな人が来たね。
へい。手前どもから出た物ですから、お引き取りは致しますが、
元値というわけにはいきません。道具やの決めで、半値の
一円五十銭になりますが、、。

それでけっこう。引き取って。

しかし、昼間あんなに気に入って買われたのに、、、
よかったらそのわけを教えていただけませんか?。

わけなし。なんにも聞かんと、引き取って。
トッテ、トッテ、トッテ!。

じゃ、こういたしましょう。わけを教えていただいたら、
元値の三円でお引き取りいたします。

ほんなら、話をするがな、道具や。
お前の家で、あのへっつい買ってな、道具や。
わい、家に帰ったやろ、道具や。
お前あのへっつい、運んでくれて、土間へ据えてくれたな、道具や。
晩飯、すんでな、道具や。
で、わい、床引いて、床入ってな、道具や。
どういうわけだか、寝られねえ、道具や。
けったいな晩やな、思うてな、ドウグヤ!。

ちょっと待ってくださいなー。
道具やには違(ちげ)ぇねぇけどねー、
いちいち、言葉の仕舞に、道具や、道具やを付けずに
喋れませんかね。

ふんふん。
そのうちにな、道具や。

まだやってるね。

あのへっついの隅から、ちょろちょろっ、ちょろちょろっと
火が出たかと思うと、痩せぇて、蒼い顔をしたのが、灯具やぁ。

しょーがねーなーこの人ぁ。
ふん。

すぇーっと枕元へきて、金出せー。
俺、幽霊の追剥ぎってのは、初めてだ。
あのへっつい取って。トッテ、トッテ、トッテ!。

ま、ま、ようがす。お引き取り致します。
今晩ってわけにはいきませんよ。
夜が明けたら。

そんなこと言わないで、すぐに取りにきて。
あのへっついあったら、わい怖おうて、よう眠れん。
んなら、道具や、お前の家泊めて。

そうおっしゃっても、ご覧の通り、手前の家は手狭でござんす。
あたくしと女房と寝るのがやっとでございます。
とてもお泊めするというわけにはいきません。

まあ、しょうがない、というので、泊めて、明くる日、道具やは
へっついを引き取り、また店に置いておく。
ものがいいので、これがすぐ三円で売れて、夜中になって
ドン、ドン、ドン、と、起こされて一円五十銭で戻ってくる。
また店へ飾っておくと、三円で売れて、一円五十銭で戻ってくる。

毎日、毎日、品物が減らなくて、一円五十銭ずつ儲かる。
道具やさん、大喜びですが、
さて、人間、二(ふたぁ)つ、いいことてぇのはないもんで、

(この、ふたぁつ、のリズムが最高によい。
 しかし、この人、言葉にそうとう無駄がない。)

二十日ばかり経ちますと、他の品物がパタッと売れなくなってしまう。

ある日のこと、道具やさん、真っ青な顔して表から飛び込んでくる。

おっ母。
いや、店先じゃ、ちょいっとまずいんだ。台所行っとくれ。

えらいことんなったよ。
さっき引き取ってきたへっつい、この近所でたいへんな評判だ。
あそこの道具やのへっついから幽霊が出る。
あそこの道具やの品物からお化けが出る。
なるほど、他の物が売れないわけだ。
弱ったなぁ。

そう言われると、私もなんだか気味のわるいところがあったん
だけども、、、
どっか捨ててきたら?

冗談言っちゃいけない。
それほど評判になっているものそこいらへ捨ててみろ、
あのへっついはあの道具屋の、、

しょうがないねー。
誰かもらってくれる人がない。?
いえ、そらぁ、ただ貰ってくれる人なんざぁないだろうけどもさぁ、
あのへっついじゃぁ、お前さんも随分儲けてるんだからさぁ
一円くらいなら付けたっていいじゃないか。一円付けて誰かに
貰ってもらう。その代わり、どんなことがあっても苦情聞きっこなし
ってぇことにして。

うーん。
一円くらいなら、そらぁ付けたっていいけどもなぁ。
貰ってくれる人があればいいなぁ。

と、夫婦が話をしています。
台所のそばが塀で、その向こう側が裏の長屋の井戸端んなってます。

この井戸端で顔を洗っていましたのが、長屋に住んでいる
渡世人熊五郎。ヤクザの方じゃ、ちょいと兄ぃ株でして。

道具や夫婦の会話を聞いていた。
へっついに一円付けてもらってもらう?これは、よい。
へっついからなにが出るって、そんなもなぁなんだい。
へっついは台と土は離して、台は焚き付けんなるし、
土は細かくして、路地のへこんだとこに敷いてやりゃ、
子供も転ばないと親たちも喜ぶ、水たまりにもならない。
一円は儲かるし。
(パン!。手を叩く。)

あ、えらいことした。
手ぬぐい落っことしちゃった。

と、そこへ同じ長屋に住む、銀ちゃん、若旦那が通りがかる。
銀ちゃんは大店の若旦那だが、お約束の放蕩で、勘当になり
こんな裏長屋にいる。

銀ちゃんに手拭いを借りる。

銀ちゃん、詰まらなそうだな。

えー、よく詰まりました。
つまらないというのはまだどうにかなるうちはつまらない。
ガタっと詰まると十銭の金もどうにもならない。
煙草ものめなきゃ、湯いも入れないんですよ。

 

つづく

 

 

断腸亭落語案内 その67 金原亭馬生 笠碁~桂三木助 へっつい幽霊

f:id:dancyotei:20190521083754g:plain

引き続き十代目金原亭馬生、「笠碁」。

明治の頃、三代目小さんが上方から移したといわれている。
いたるところに書かれているが、皆、詳細はない。
ある種、神話のような語り伝えのようではある。

初代露の五郎兵衛の「露がはなし」(元禄4年(1691年))に
原話があるという。(「落語の鑑賞201」延広真治編)
初代露の五郎兵衛というのは江戸初期の京都の落語家で、
やはり、上方系の噺であることは間違いないのであろう。
江戸落語は寛政、1790年代終わり頃からで、歴史が違う
のである。)

三代目小さんはたくさんの速記が残っているのだが、この噺は
私は見つけられていない。
三代目小さんということは、柳派のものといってよかったのであろう。

馬生師は志ん生の長男であるが、柳派のものも三遊派のものもどちらも
演る。ずぼらな父親で、稽古らしい稽古などしてもらえず、
自分で様々な師匠から習ったという話もある。
志ん朝もそうだが、芸風も志ん生とは随分違っている。

まあ、二人とも、結果としてその方がよかったのであろう。
志ん生自身もそう思ってのことだったのかもしれない。

十代目金原亭馬生という人は、品がある。
「笠碁」には品が必要であろう。
口喧嘩、怒鳴り合いになるわけだが、品がなければ、
聞いていられないのではなかろうか。
怒鳴り合いの部分も馬生師のものは安心しておもしろく、
聞いていられる。
また、この人の独特のやはり、フラ、なのか、空気感がよい。
言葉にならないような、なにか、言葉にならない音を出すことが
あるのだが、これがとてもいい演出になっている。

五代目柳家小さん師のものも少し触れておこう。
馬生師のものと負けず劣らず、傑作といってよいと思う。
双璧であろう。

馬生版よりも台詞というのか、エピソードが多い。
柳派直系ということで、原形に近いのかもしれない。

ふわっとして、穏やかな、小さん師の人(にん)に合っている。

談志家元も演ったが、これはさすがに、形は小さん師ものである。

「いや、なにもね、待ってもらわなくってもあたしゃ負けませんよ。
 負けませんけどね、惜しいじゃないか。お前なんかわかんない。
 そいうのあんだよ。惜しいというのが。
 いや、あたしも言いすぎた。あんなこと言っちゃいけない。
 そりゃわかってる。言っちゃいけなかった。
 ね、けども、それを気にするような、あいつと俺じゃないんだよ。
 それを、ずっと根に持つんだよ。あーいう奴だ。
 
 演ってて、俺と小さん師匠の間柄喋ってるよう、、

 途中で反省してもしょうーがないけどね。

 あーいう奴だ。
 家元とかなんとかいって、俺んとこ挨拶来ないんだろ。
 あん畜生は。

 あたしはなんとも思ってませんよ。
 あたしはなんとも思ってない。
 あいつはね、なんなんだろうね。どっかヘンな奴なんだよ。
 
 あー。
 どうでもいいけど、煙草吸ったって、喉がおかしくなる。」

談志家元の「笠碁」。
「ひとり会」のものをちょっとだけ起こさせていただいた。
ここが一番可笑しい。

こうやって、噺の途中で、切って、解説をしたり独白をしたり。
そして、すっとまた噺に戻る。家元はよくやった。
プロはある程度皆これできると思うが、家元以外は、滅多にやらない。
(ちなみに、私などは、絶対にできない。アドリブであるが、
落語というのは長い早口言葉として覚えて喋っているので、途中で
止めると、戻れない。どこから再開していいか、わからなくなる
のである。)

家元はこれすら上等な芸になっていた。

さてさて、十代目金原亭馬生師であった。

馬生師は昭和57年(1982年)54歳で亡くなっている。

志ん朝師も亡くなったのは63歳。
父、五代目志ん生は83歳まで生きている。
あれだけ、放蕩をした志ん生よりも、子供たちの方が、年若く
亡くなっているのは、皮肉というのか、なんというのか。

だがやはり、十代目金原亭馬生師、戦後の落語家として
記憶すべき人である。

さて、次。

先に、小さん師のことを挙げてしまったが、もう一人、忘れては
いけない人がいたのを忘れていた。申し訳ない。
小さん師とまんざら関係がなくもない人。

三代目桂三木助である。

昭和36年(1961年)に58歳で亡くなっているので、
リアルタイムでは私は知らない。

これというネタは多くはないかもしれない。

だが、存命中は「芝浜」といえばこの人であった。
また、その流れるような江戸前の口調は素晴らしい。

今回、私はこの人で取り上げたいのは「竃幽霊」。

竃は、へっついと読む。
かまど。土で作られている。見たことのない人も多かろう。
ガスや電気が家庭になかった頃の煮炊きのためのもの。
もちろん、薪を使う。

画数が多く、難しいので、漢字を使いたいのだがひらく
ことにする。

「へっつい幽霊」。

応挙の幽霊の画のことなどを、枕に振って噺に入る。

ある道具やに客がくる。
なぜか、関西弁。

仕入れたばかりのへっついを気に入る。
値を聞く。

おまけして、三円。

じゃ、お前のところで運んでくれて、三円にしてくれ、という。
重く、大きなものなので自分の手で運ぶことはできない。
配送付き。

道具やは了解し、売り、その男の家へ運ぶ。

それが、その日の夜遅く。

道具やは、戸をドンドンと叩く音で、叩き起こされる。

 

つづく

 

 

断腸亭落語案内 その66 金原亭馬生 笠碁

f:id:dancyotei:20190521083754g:plain

引き続き、金原亭馬生師「笠碁」。

雨の中、富士登山の笠を被って、出かけることにする。

(場面転換、もう一方の旦那の店。
 こちらの旦那は店に出ている。)

退屈で、いらいら。
店の者やら、家族の者へ小言ばかり。
(二件ほどの小言。)

番頭さん?!。
あー、あいつを呼び出す時に、あーたを使うのは、一番最後の手です。
それをやってだめだったら、あたしは生きてる甲斐がなくなっちゃう。

いや、俺がわるかったんだよ。
だけど、あいつも出てくるがいいじゃないか。
(基本、この二人のうち[ミノヤ]の方が、出かけていくことに
なっているらしい。)

あ!。
来た!。
あいつが出てきたよ。

ヘンな恰好してんねー。

あー、みんな引っ込んで。

すぐ、お茶を入れなさい。
それから、碁盤をここへ。

それから、一番いい羊羹があったろ?。
あれ。厚く切って。あいつ羊羹が好きだから。

碁盤を見ればね、我慢できずにね入ってくるからね。

へ、へ、へ。
やっぱり、我慢できなくて、出てきやがったんだ。

へ、へ、、、?

行っちゃった。

家に来たんじゃねーのか?。

家の前を通って行くとこなんかありゃしませんよ。

碁会所?。
あいつが碁会所なんか行ったって、お茶を出すぐらいが
関の山ですよ。

、、、、、!。

電信柱の陰で立ってます。

家へきたんですよ。
考えてる。

え?、声を掛けますよ。
だけどさ、こっちを向かないんですよ。

ほ、、、出てきた、出てきた。

(店の前を素通り。顔と仕草だけで表現。)

行っちゃった!。

俺は二度とあいつと付き合わないよ!。
人の家の前をぐー、っと。
ほんとーに、やな奴、、、、

!。

戸袋んとこに立ってます。

今度、声掛けますよ。

ん!、出てきた!。

、、、、、ぅ、ぅ、オウ!。

ぅ、ぅ、オウ。

ぅ、ぅ、オウ。

なんだ?。

あんまり、家の前をウロウロしてもらいたくないねー。

ウロウロしたくないけど、煙草入れを忘れちゃって。
こんな家に煙草入れ置くと、煙草入れがヘボんなるから。

煙草入れがヘボ?!。
ヘボかヘボでねえか、一番くるか?

いくとも!。

やー、この間(こないだ)のことはあたしが全部わるい!。
あれ、勘弁してください。なかったこと、なかったこと。
(盤の用意をしながら、下を見て、前は向かない。以下ずっと。)

あーたが来ないともう、寂しくって、寂しくって。
年を取って、こんな寂しい思いをするくらいならな、もう、生きて
いたってしょうがないと思った。
マッタなし、って、もうあんなことやめましょ。ね。

(後ろへ。)
早く、お茶を入れて、お茶を!。
さっきから、お茶をすぐに入れられるように、って
言っといたでしょ。
んとーう(本当)に。なんのために生きてんです!。
みんな死んじゃえ!。

さー、いきましょ、いきましょ。
こやってね、こやって、石をやってれば、いいんですよ、ね。
これがね、愉しみで。
早くお茶入れなさいよ。生きていたかったらね!。

(前の碁盤の上を手ぬぐいで拭く仕草をしながら。)
おい、おい、たいへんだ、ちょっと、屋根や呼んできてくれ。
漏る、ようだよ。
屋根が。

(引き続き、碁盤の上を拭く。)
漏るね。

なんだい?。
他は漏らなくて、盤の上だけ漏るよ。

なんで、、?
(ここで初めて、前を向く。)

あー、お前さん、笠かぶったままだよ!。


これでお仕舞。
下げ、のような、下がっていない、イマイチな終わり方。

いくらなんでも、もっと前に気付きそうなものである。
不自然であろう。
だが、他にないのか、皆もこれで下げていた。

馬生師は枕が比較的長いが、全体で30分弱。

「笠碁」。いかがであったろうか。

 

つづく