浅草在住、断腸亭錠志の断腸亭料理日記はてな版です。
断腸亭料理日記本店
 

断腸亭落語案内 その43 桂文楽 つるつる

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引き続き、文楽師「つるつる」。

途中で注がれて、またいっぱいになっちゃう。
(ここで切る録音も残っている。)

一八、もうベロベロ。

八「あー、もういい。

  あたくしはねー、余興をご覧に入れる。
  あたくしは、踊りを踊って、、
旦「踊りを踊る、って、お前の踊りなんぞおもしろくねえ。」
八「おもしろくないって、あーた知らないんだ。
  あたくしはねー、かっぽれをご覧に入れる、、
  (手ぬぐいをねじって、鉢巻きをする仕草)
  かっぽれはあたし、売りもんだったんだ、、

 (旦那が芸者に対して、一八を指さし)
旦「おい、見てやれよ、だいぶ酔ってるから、、

  あ~~~~~~、い~~~か、、、、、」

 (階段から、落っこちたてい。手を振りながら、階下の者に)
八「ダイジョブ、、
  落っこちたんじゃ、ないんです。飛び降りたの。
  
  もー、ドロン。
  あのね、大将にそ言っといて下さいよ。
  一八の身体を見ましたところ、あれはたいへんな重症でございます。
  とても、この世のものではございますまい。
  どうか、香典を十分にやっていただきたい。
  こう仰って。ヘイ。

  ちょいと、女将に礼を、、え?おやすみになった?!。
  あーそーすか。

  お御折?。(おみおり。みやげの折詰。以降片手に折をぶら下げる仕草。)
  
  すいません。どーかよろしく仰って下さい。
  あー、げんちゃん。
  君に、下足を揃えてもらっちゃ、すまないねー。

  (袂をさぐり、なにか出す仕草。)

  これはねー、煙草。
  なに言ってんの、、げんちゃん、煙草、煙草。
  女将さんによろしく言って。
  じゃ、さいならー。

  (鼻歌)
  ちゃちゃんちゃ~~ん。

  こうなりゃもう、こっちの身体だ。
  出りゃぁ、しめたもんだ。

  ちゃちゃ~~~ん、ちゃちゃん、、

  これでねー、家い帰ったら、お梅ちゃんがねー、怒るよ。
  どしたの、たいへん遅いじゃないの。
  こういうことんなる。だから、俺、冗談いっちゃいけない。
  こっちゃぁ、商売だよ。
  商売だって、待ってるもんの身になってご覧なさいよ~、

  (折を振る仕草。)

  あ、折の底が抜けちゃったよ、、。
  帰ろー。
  
  こりゃ、酔っ払ったなぁ~、、、

  (右手で扇子を床に打ち付け音を出し、左手で戸を叩く仕草。)

  ただいま~~、ただいま~~、ただいま~~。
女「お帰んなさい。今、開けますよ。
  今開けるわよ、ドンドン叩いて。酔っ払って帰ってきて。
  ほんとに、しょうーがないねー。
  (開ける仕草。)
  あー、くさい。
  (袂で、顔を覆う仕草。)
  こっちお入んなさい。
八「折をね、持ってきました。」
女「おみやげって、折の底が抜けてるじゃない。」
八「底が、抜けてますけどね、、あのー、照焼きだのねー、蒲鉾やなにか
  ポストのそばに、います!。」
女「なんだい!。もー、おやすみなさい!。」
八「寝ますよ。
  師匠は寝た?。
  あーそう。
  お梅ちゃん、寝ましたか?。寝た?
  あー、そう。いい、いいんですよ~。
  お梅ちゃんが寝ましたぁ~~(節が付いている。)
  (梯子段・階段を上がる仕草。)
  梯子段をぉ~~~上がってぇ~~~
  二階ぃ~~~~、よし、っと。
  こいで、いいんだよ。これでもう、こっちの身体ですよ。
  これで、チンチーン、と鳴りゃぁ、ツー、、、

  あー。
  こりゃぁ、まずいねー。師匠の枕元を通るよ。まずいね、こりゃ。
  目ざといからねー、師匠は。

  誰だ、そこへきたのは。
  一八でございます。
  なにしに来たんだ
  憚り(便所)にまいりました。
  憚り、そっちにあらー。

  こりゃ、まずいよ。
  なんかいい工夫は、、

一八の部屋の真下が小梅の部屋。
一八の部屋には明り取りの格子があり、外せば下へ抜けている。
ここから降りよう。
だが、飛び降りたら、音もするし、いけない。一計を案じる。

天井の梁に帯を掛けて、つたって、降りればいい!。
帯だけじゃ足らないので、腹巻、褌まで使って、綱を作る。

つかまってみる。目が回るね~~、そうだ、手ぬぐいで目隠しをしよう。
こうして、二時になって、チンチーンと鳴ると、つるつる、つるつる、
っと。

と、奴さん、綱につかまったまま、寝てしまう。

で、

チンチーン、と鳴ったから、つるつるつるつる~~~~~、っと、
下へ降りる、ってぇと、下はもう、すっかりご飯の仕度ができている。
おみおつけの鍋のそばへ降りた。(つまり、12時間後の午後の二時。)

 「あれ!、一八っつあん、どうしたの?」
八「あ~~~、っとこれはどーも。
  あ~、おはようございます。」
師「この野郎。
  なんてぇ姿だ。呆れたもんだ。
  この野郎、寝ぼけやがったか!。」
八「あ、は、は、は。
  井戸替えの夢ぇ見ました。」

これで、下げ。

“井戸替え”はもうわからない。井戸というものは、定期的に
掃除をする。これが井戸替え。専門の職人があり井戸へ入る。
この様子が、今の上から綱で降りてきた一八の様子。

 

つづく

 

 

断腸亭落語案内 その42 桂文楽 つるつる

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引き続き、文楽師「つるつる」。

旦「おい、だいじょぶかい?!。
  嫌ならよせよ。

  やるぞ!」
八「へい。ありがとうぞんじます。
  右まさに頂戴仕(ちょうだいつかまつ)りました。受け取りは
  差し上げません。

  今度(こんだ)ふーちゃん!。
  あーたお酌。

  えーもう、てるちゃんと、ねーさんはだめ。
  敵のスパイてぇことは、ちゃんとあたくし、心得てるから。
  
  あーた。こないだ歌舞伎でねー、おさらいしましたねー。
  うまかったねー。また、上出来だった。
  いや、ほんとに、あーたねえ、揚幕んとこでねー、チャリーンと
  したらねー、長刀持ってねー、あーた、トン、トン、トン、トン
  トン、て花道の七三のとこでねー、トーンと切ってねー、見得ん
  なった時ねー、お客様がねー、ワーッとほめたらねー、
  おっ母さん泪こぼしてた。あたしの隣で見物してたの。
  いや、まったく。
  あたくしはねー、、、、
  
  呑みますよぉ、、、、、

  (グビ、グビ、グビ、、呑む仕草)

  ふーーーーーー。へぇ。

  お世辞じゃなく、ほんとーですよ。
  
  もー、こーなると破れかぶれです。やーもー、いらっしゃい。
  もー卑怯なこと言いませんから。
  いっぱい注いで下さい。
  
  (コップを差し出す。)
  
  よーし!、よーし!よーし!。

  へ、へ。いい商売だな。
  ご祝儀をいただいて、
  お酒をいただいて、
  そいで、家へ帰れば、お梅ちゃんが待ってる。
  こういう間のいい時には、あたしゃ、帰りになんか拾うよ。
  あたしの運勢、なんてぇものはねー、
  
  (グビ、グビ、グビ、、呑む仕草)

  大将。
  いただいてなんか言うわけじゃありませんけどね、
  ほんとに長いことご贔屓をいただいてますねー。
  しくじったこともあるけどさー。
  (かなり酔っている趣)
  朝起きてねー、
  お湯行ってねー、
  帰ってきて、帝釈様拝むんだ。
  あーたのこと。
  どーか大将になに事もございませんように。
  あたくしは大将のために、生きていられます。
  
  え?なんです?。
  ベラベラお喋りして、半分呑んで、息をついてる?。
  あーた、そんなこというんじゃないよ~
  
  あーたのこと、芸者衆が褒めてますよ。
  いや、ほんと。形(なり)の拵えがうまいって。
  あーたはねー、お背がお高いから、なんでもお似合いだ。
  洋服はもちろんのこと。結城紬が似合って、お召しを召しても
  にやけなくて、紋付き羽織袴が立派で、赤い着物で鎖をつけて、、
  あ、これは失言、失言。
  いえ、なんでもお似合い。
  そりゃーもー、あたしゃ、請け合って、、、

  (右手の湯飲みを見て)

  大将?、、あたしゃ、半分いただいたん、、
  これ、五十銭、下さい。
  え?、手前(てめえ)が間抜けだから、注がれたんだ、?

  (芸者に)
  誰、これ?注いだの。どして、そいうことすんの?
  これ、お金が掛かってるん。営業で呑んでるんですよ、今日はこれ。
  
  (旦那に)
  大将、あたしゃこれ、警察に訴えるよ。営業妨害でしょ?!。
  
  ちくしょー、クスクス笑ってやがる。おぼえてやがれ。
  よーし!。そーいうことするんなら、どいつが注いだかねー、
  あたしゃ、犯人を捕縛しますから、、、

  (呑む、グビ、グビ、グビ)

  女の生来ですね。人をいじめるという。
  
  (誰かに注がれる)
  あー、、、!こりゃ、驚いた。
  ふーちゃん、ふーテキ!、油断も隙もならないね。ふー子!。
  ふーちゃん、こっちいらっしゃい。
  こっちへ、いらっしゃい、って。

  そーいうこと、ありかい?。
  ありなら、ありでいいよ。
  大将にバラすよ、こないだのこと。
  知らないと思ってやがるな。知ってるぞ。なんだって知ってるんだ。
  
  大将、珍談!。大珍談。
  この、ふーちゃんなるものがねー、普段お座敷い出てねー、
  あたしゃ、男は大嫌い、てなこと言って、それが大違い。
  あーたがこないだ、鳴尾の競馬(兵庫県阪神競馬の前身)いらした。
  あたしも東京駅お送り申した。
  大将!、ご機嫌よく行ってらっしゃい!、大きな穴を取って
  らっしゃいよ~、って。汽車がスーッと出た。
  プラットフォームから下へ降りるとねー、かのふーちゃんなるものがねー
  向こうから来るじゃないすか。あー、ふーちゃんが来たな、って思うから
  ふーちゃん!、って、あたしゃ呼ぼうと思った。そいたらねー、あたしの
  顔を見てねー、スーッとそれた。
  ハテ?おかしなことをするな、と思うとねー、、大将、、それるわけ。
  それるわけあり。そばにね、乙な“丹次郎”(“丹次郎”は色男の代名詞。)
  なるものが、ステッキを付きの、洋服拵えで、あーたが知ってる人。
  あーたがね、さんざ贔屓、、
  
  (右袖を右手でパンと後ろに叩き)
  
  今さら、和睦を申し込んだって、だめだよ。みんな喋っちまう。

  (右袖を右手でパンと後ろに叩き)

  およしなさいよ。なにをすんだよ、ちくしょうめ。
  
  (右袖を右手でパンと後ろに叩き)

  およしってんだよー。

  (くすぐられる仕草)

  あ、は、はー、くすぐっちゃだめだよ。
  あはは~~~~。

  あー、またいっぱいになっちゃった。

 

つづく

 

 

断腸亭落語案内 その41桂文楽 つるつる

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引き続き、文楽師「つるつる」。

旦「さあ。かまわずな、俺がここへ、出そう。」
  (財布を一八の前の畳の上に置く。)

  (芸者に向かって)
八「どうです!、ね。
  大将てぇものは、こういう人なんです。
  中座する、幇間の前へ、
  お前は今夜、身祝いがあるから、ズバリっと、ご祝儀を下さる、と。」
  (一八、財布を手に取る。)
旦「お前(めえ)にやったんじゃねえや。
  ただ、なんの気なしに、ここに出してみたんだ。」
八「あ、そーですか。
  これ、下すったんじゃない。なんの気なしに、出しただけ。
  おやおや。
  そーかー、なんだー。」
  (一八、放り出す。)
旦「なんだ、放り出しゃぁがって。
  これでお前のもの買おう。」
八「売りますよ。なんでも。
  羽織、着物、帯、みんなあなたにいただいたもの。
  売るものはなし。」
旦「そんなもの買うんじゃねえ。
  お前(めえ)の頭、半分買おう。」
八「え?」
旦「半分、坊主になんねぇ。二十円やるから。」
八「半分坊主ぅ~~?!
  へ、へ、へ、へ~。
  嫌、てぇわけじゃないんですよ~。
  普段なら、飛びつくんだよ~、あーた。
  今夜だけはいけないよ~。先方、行くんでしょ。
  一八っさん、あなた、頭半分、どうしたの?、って。
  二十円で売ってきた、って、、、。」
旦「色っぽい野郎だね、こいつぁ。
  下がって十両。(円を、両という言い方があった。)
  お前の目の玉に、親指突っ込もうじゃねーか。」
八「眼つぶし~?御免こうむりましょう。」
旦「下がって、五両だ。
  どうだい、一つ、生爪はがそう。」
八「痛いよ、あーた。
  あーたは、痛い芸が好きだねぇ。
  なんか他にないすか?。」
旦「下がって、一両!。
  手前(てめえ)一つ、ポカ~~ンと殴ろう!。」
八「いよっ。
  うけ合いましょう。
  うけ合うよ。
  ポカ、ポカっとくると、二両でしょ。」
旦「そーだ。」
八「ポカ、ポカ、ポカ、っとくると三両。」
旦「そーだ。」
八「こーなると、私も商法ですから、一個でも間違うといけませんから
  あたしは、算盤を持つよ。
  あーたがねー、ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、ポカっとくると、
  あたくしは、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、っと
  ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、ポカ、
  パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、
  ってね、ぶたれ通しで、、死んでいくら。」
旦「死んじゃっちゃ、しょーがない。
  こんな欲張った奴ぁねーな。」

  (一八、芸者の方を向いて)
八「は~?なんすか?、はあ、はあ、はあ。あー、さいですか。ありがとう存じます。
  (旦那へ)
  へへ~。大将、仲間ぁありがたいですな。
  はる子姐さんのご忠告。大将は、力自慢だからぶちどこをうかがえって。
  どこをおぶちになります?。
  仮にでも、一両でぶつんだからな。
旦「だうだい、最初、目と鼻の間、行こうじゃねーか。」
八「それじゃ、一個でまいっちゃうよ~、いけませんよ~。
  五十銭でようがすがね、肩を。」
旦「按摩じゃねーや。ばーか。」
八「踵が二十五銭!」
旦「そんなのいけねえ。」
八「拳固を見ただけで、ただの五銭。」
旦「ふざけんな、こん畜生。!
  このコップで一杯呑め!。一両やるから。」
八「ほーほー、一杯呑みの一円、へ?息を付かずに一杯呑みの一円いただき?
  あ、はは~。
  やるねー、あーた。
  へ?、現金取引でしょうな~?。
  いけませんよ、この前も、こんな大きな祝儀袋、いただいた。
  ありがたいと思って、家ぃ帰って開けてみると、絵葉書が出たよ、
  あーた。ありゃーいけないよ。
  よろしゅーございます。なにごとも営業でございますから。

  はる子ねーさん、お聞きの通り。
  今日(こんち)はお客ですから。
  (コップに注いでもらいながら)
  そこんとこ、按分(あんもん)なすって、、
  今日は、八分目、、、ってとこで、、、

  あーーーーーーー、とっ、とっ、、、あーーーーー、
  驚いたな、こりゃ、山盛んなっちゃった。

  姐さん、申し上げたでしょ。
  今日は、八分目でって、
  (旦那に)
  大将、苦情いってんじゃないですよ。
  ただ、一杯になったってことを申し上げてるだけの話なんです。
  もう、口からお迎えってやつで、、、。

  (グビグビと呑む仕草)

  フー。
  いただきました。」
旦「偉いなぁ~。
  やるぞ!。」
八「へい!。ありがとう存じます。
  (手を出す仕草)
  右まさに頂戴仕りました。受け取りは差し上げません。

  へい。こんだ、てるちゃん?
  てる奴さん。お酌。

  姐さん、あーた、もうだめ。
  近所にいますよ。お座敷い出たら、お互いに助けたり、
  助けられたり。よーすか!。

  あ~~~~~~~~、
  あーた、押すねー、
  
  (旦那へ)
  いえ、苦情を言ってるじゃないんですよ~。
  
  (芸者てるちゃんへ)
  てるちゃん憶えといで。
  どうして、そいうことすんの?。
  
  頼んでんのに、こいうことすんの。
  女の子てぇのは意地の悪いことすんだから。
  どういうわけのもんなんだか。
  人の困んのを喜んで。
  よこざんすよ。そーいうことをするんならするで。

  (んぐ、んぐ、、、、呑む。)

  ふーーーー。
  
  へ、へ、へ、、、。いただきました。」

 

つづく

 

 

断腸亭落語案内 その40 桂文楽 つるつる

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引き続き、文楽師「つるつる」。

  (大声)
八 「それなんです!。」
旦 「なんだい?!、大きな声で。」
八 「その、小梅なるものがね、あたくしの女房になる。
   いーえ、ほんと。
   あたくしはね、お恥ずかしい話ですがね、四年半岡惚れをしている。
   この家に弟子に来る途端に、あたくしは惚れてるんだ。
   いつかは、一度はと思ったんだ。
   今日はだぁれもいないから、あたってみた。」

一八は説明する。

八 「チンチーン、と鳴ると、ツー、っと。
   そいうわけなんで、一つ、手前、お暇をいただかせて、、」
旦 「よし!。わかった。いいよ!。
   お前(めえ)のめでたいこと邪魔したってしょーがねえ。
   あー、いいとも、いいとも。
   じゃ、十二時まで付き合え。な。十二時になったら、暇やろう
   じゃねーか。」
八 「あ、なるほど~~。いろいろ手があるもんですね。
   それがね、今あなた、そう仰るんだ。さて十二時になって、大将
   時間がまいりましたから、お暇をいただきたい、ってこう申し上げる
   でしょ。するとあーたがねぇ、素面(しらふ)の時ならいいんだ。
   一杯召し上がってると、あーたは、あーたてぇものは、そういかない
   んだ。(中略)」
旦 「わかったよ。お前(めえ)いい芸人だな。
   いー、幇間になったな。
  (大声で)
   手前(てめえ)はなにか?、客を断って小梅んとこへ今夜、、、!」
八 「あんた、なんてぇことをいうんですよ。言っていいことと、、、」
旦 「そーじゃねぇ-か。手前(てめえ)はなにかぁ~~?!、、」
八 「なんてぇ方です、あなたは。あたし、あなたが憎いよ。
   おできの上を針で突(つつ)くようなことするね。
   まいりますよ。まいりますけどね、大将、断っておきますよ。
   時間がきて、お暇を頂く時、やな顔したり、おこったりしちゃ
   いけませんよ~!。」
旦 「だいじょぶだよ!、早くしろぃ!。」
八 「へい、只今!。」

 「ブー」
 (自動車の音。これを口で文楽師は演るのである。珍しい。
  他の人は聞いたことがない。以前はおそらくいたのであろうが。
  吉原から柳橋まで車で移動というわけである。)

八 「へい!。先夜(せんや)はどうも。一八でございます。
   “ひーさん”をお連れ申しました。」
A 「いらっしゃいまし。」
B 「いらっしゃいまし。」
C 「どーぞ、おあがりくださいまし。」
D 「いらっしゃいまし。」
E 「いらっしゃいまし。」
八 「お座敷は?あ、竹の間!?
   はい。
  
   大将、竹の間でございます。
   只今、ご案内申し上げます。
   手前ちょっと下へ、ご挨拶。
   すぐお二階へうかがいますから。へい!。

   あ、どーも、女将。ご機嫌よろしゅう。
   お変りもございませんで。相変わらず太ってらっしますなぁ。
   お暑いでしょ?。
   あーたがね、この、お帳場にね、いらっしゃらないと形が付かない。
   妙なもんですね。
   大将は?、レキは?(親指を出す仕草)。
   え?競馬ですか?。
   お好きですねぇ。こないだねぇ、大きな穴を取ったって、
   うかがいました。お宅の馬が出たって。おめでとう存じます。
   やりますねー。大将はちっともじっとしてない。マメだよ大将は。
   玉は突く。麻雀はする。ゴルフはする。釣りはする。
   あたくしは、釣りぐらいはやりますがね。いやいや、あれは色が黒く
   なるからね。

   おや!。嬢ちゃん~。
   おぶー(湯)からあがって、おけいけい(化粧)ができて。
   お髪(ぐし)がいいから、お可愛いなー。

   坊ちゃん!。
   なにか持ってますねー?。大きな刀を差して。
   どなたに買っていただいたの?、お父さんに?。
   えー?、一八を切る~?
   あ、は、は、は、こわいね~。
  
   おや、お花姐さん。こんばんは。“ひーさん”をお連れ申しました。
   なにをなすってるんで?布団の綿を取り換えてるんですね。
   ははー、おそれいった。実にどうも、あーたがそんなことを
   なさらなくてもいいんだ。お針子さんってもんがいるんだから。
   それを先だちになってあーたが布団の綿を取り換える。あーたのお偉い
   ところ。たいへんに、銀行の方に貯金の方が、、なんでも人の噂では、
   なんでも通い帳に、ナナ、レイ、レイ、レイ、レイ、レイ、、、って、
   なんかんなってるんだ、、、、

   おや!、金ちゃん!。
   “ひーさん”、お連れ申しました。
   腕前を見せてね。おいしいものを食べさせて下さいね。
   お客が褒めてますよ!。大きい声では言えませんが、あーたがいるんで、
   ここの家は繁盛するんだって。いや、まったく!。いい腕だって。

   おや。かわいいーーーー猫ですな!。こんちは!。

 猫にまであいさつしてやがる。

A 「へい~~~~~~~~~~~。

   ちょいと、一八っつあん!。“ひーさん”お呼びだわよ。」
八 「はい!。
  
   へい、大将。どうも、遅くなりました。
  
   繰り込んできますよ!、いつもの連中が。きれいどころが、、、

   いえ、ほんとに、まったく、、、、え、へ、へ・・・・・

   只今、なん時になりましたかね?」
旦 「今来たばかりじゃねえか。」
八 「手前、気になる。」
旦 「気になるって、お前、時計持ってるじゃないか。」
八 「時計?(懐中時計の鎖をさぐる仕草)
   これねー、大将、時計と見せて、先に天保銭が付いてるんで、
   一八っつあん今なん時?、今八厘、って。」
旦 「馬鹿だね、こいつは。」

芸1「先夜はどーも。」
芸2「“ひーさん”先夜はどーも。」
芸3「“ひーさん”先夜はどーも。」
八「さーずっと、前いらっしゃい!。
  大将、繰り込んできましたよ~!。どーです、おきれいですねぇ。
  (芸者に)
  大将、今日(こんち)はねえ、たいへんご機嫌いいんですよ。
  (旦那に)
  ねー、そーですよね、大将!ご機嫌いいんですよね。」
旦「一八!。お前、働くなよ。威張(えば)ってろ、手前(てめえ)、
  客にしてやるから。」
八「ありがとう、存じます。
  (芸者に)
  皆さん!、お聞きの通り。今日、あたくし、お客ですよ~~!。
  威張ってますよ!、働きませんよ!、皆に用、言い付けたりして。
  (旦那に)
  へ、へ、どいうことになります?。」
旦「そー、だな。なんかして、遊(あす)びてぇなぁ。」
八「は、は。そーですなぁ~~~、は、は、は、、、、、

  只今ぁ~~~~、なん時になりますぅ~?」

旦「うるせーな!こいつは。今来たばかりだよ。」

 

つづく

 

 

断腸亭落語案内 その39 桂文楽 つるつる

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引き続き、文楽師「つるつる」。

小梅が湯から帰ってきた。
八「師匠はいないし。
  一つ、ご機嫌をうかがってみるかな。

  (小梅の部屋へ。)

  お梅ちゃん。
  え、へ、へ、へ。

  鏡台の前で、もろ肌脱いで。
  おけいけい(化粧)ですか?。
  いい肌ですね~。あなたの肌てぇものは。
  餅肌、羽二重(はぶたえ)肌。」
梅「そっちへ行ってらっしゃいよ。
  男の入ってくるところじゃないのよ。」
八「へ、へ~~ん。
  なんですよ。
  
  いいお乳ですね。あなたのお乳てぇものは。
  麦饅頭(むぎまんじゅう)に隠元(いんぎん)豆を
  のせたようですな、、、」

  (大声)
梅「お師匠さんに、言い付けてよ!。」

八「な、な、なんですよぅ。あーた、大きな声で。
  あたくしはね、本当のことを申し上げるとね、あーたに四年半
  岡惚れしている。
  あたくしはねぇ、三日でもいいから、どっか静かなとこ行って、
  あーたとご飯をいただきたい。
  ただの三日。
  三日がいけなければ、二日でよーがすよ。
  二日が、あーたが嫌だとおっしゃるなら、一日でもいいんだ。
  、、、、だから、半日にしましょう。

  三時間!。

  どうです?二時間にしましょう。

  一時間!。

  三十分!。

  十五分!。

  十分!。

  五分!。

  三分!。

  二分!。

  一分!。

  なし!。

  なしは、いけません!。」

梅「なに言ってんの、一八っぁん。
  お前さん、ほんとにそんなこと言ってんの?」
八「真剣に。まったく、本当に。」
梅「そんなら、私うれしいけど。
  お前さんみたいにね、色だの恋だの、浮気っぽい話ならごめんこうむる
  のよ。曲がりなりにも私みたいなもんでも女房にしてくれるっていう
  話なら、ほんとに私、うれしいと思ってんのよ。」
八「へ?
  私は、あなたが女房になってくれれば、あたくしてぇ者は、
  ばかな喜び!。」
梅「お前さん、自惚れちゃぁいやよ。
  ナカ(吉原)には大勢大夫衆(たゆうしゅう=幇間)はいる。
  けれどもね、お前さんあんまり、いい男じゃない。
  けれども、お前さんは親切だ。私は忘れないことがあって。
  この前、大患いしたことがあって、お前さん、寝ずに看病してくれた。
  うれしいと思って、忘れないの。
  どうせ亭主を持たなきゃなんない。邪険な亭主を持って、おっ母さんに
  苦労させるのやだと思って。そいでお前さんに話しをすんのよ。」
八「あたくしはね、あーたが女房になってくれればねー、
  そーりゃもー、親切にしますよ。親切株式会社の頭取になろうと
  思ってるの、あたし。」
(中略)
その代わり、小梅は、ズポラはやめてくれ、と。
お酒を呑むと、だらしなくなるし、時間も滅茶苦茶。
わかりました、と、一八。
梅「それじゃ、今日、(深夜)二時を打ったら私の部屋へきて。
  色々話もあるから。その代わり、二時が五分でも遅れても、
  あー、お前さんのいつものズボラが始まったんだなぁって、思って
  私も諦めちまうから。ない縁と思って、諦めて下さいよ。」

一八、了解。
八「どーです。
  こう、トン、トーンと運ぼうとは思わなかった。」
大喜びである。

八「お梅ちゃ~ん、二時を打ったからきたよ~~~、って、、
  あ、いらっしゃいまし。」
  (お客である。)
大「なんだい。馬鹿だな~、こいつぁ、踊ってやがる。」
八「あ、は、は、は、は。どーーーーも、大将!、お珍しい。
  あんまり、あーたが、おいでがないんでね、どーなすったかと
  思ってね。お案じ申し上げてた。」

吉原も飽きたから、今日は河岸を変えて、柳橋へ行って夜っぴて
騒ぐから、付き合え、という。

八「結構ですなぁ~~。
  では、今晩は一つ、手前、一つ、助けていただきたい。」
旦「よーせやい、そんなこというなよ。一緒にこいよ。」
八「それが、いけないんですよ。今夜だけ大将、他のもんで
  間に合わせてくださいよ。」
  (中略)
旦「そうか、一八。お前いい芸人になったなぁ~~。
  いい幇間になったなぁ~~!。そ~じゃね~か!。
  手前(てめえ)が初めてこの土地に出た時なんて言った。
  木から落ちたなにか同様でございます。身寄り頼りも
  ございません。一生懸命にやります。勉強をいたしますから、
  どうか贔屓に願いたい、って。俺は随分お前のことを世話して
  いるつもりだぜぇ~。随分贔屓にしてるつもりだ。」
八「あ~たねぇ、おこっちゃいけませんよ。あ~たに世話になって
  いるってぇことは、誰一人知らない者はない。
  あたくしはねぇ、あ~たのためなら真剣に尽くそうと思って
  いるんですよぉ~。」
旦「じゃ一緒にきねぇ~な。」
八「それがね、こ、ん、や、だ、け、ちょっと、、わけがあるん
  ですよぉ。」
旦「じゃ、それを言いなよ。俺が聞いて、なるほど、もっともだな
  ってことがわかれば、お前にきれいに暇やろうじゃねぇか。」
八「あー、そーですか。それでは、お話しを申し上げますがね、
  大将、これは大秘密ですよ。大秘密。
  当家にねぇ、小梅という芸者がいましょ?。」
旦「ないをいってやがんだ、馬鹿。
  んなこと、お前(おめえ)に言われなくたって、わかってら。
  あのくらいの芸者はねえなぁ。どうだい、三味線は達者だし、
  喉は光ってて、トコトン(鼓)がいけて、親孝行で、客扱いが
  よくて、女っぷりがいいし、淑(しと)やかで、あれが本当の
  一流の芸者てんだ。」

  (大声)
八「それなんです!。」
旦「なんだい?!、大きな声で。」

 

つづく

 

 

断腸亭落語案内 その38 桂文楽 心眼 ~つるつる

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引き続き、文楽師「心眼」。

円朝作品なので全集にもちろん入っている。
異説のある作品が多いが、これは円朝作が定説のよう。

初出は明治24年(1891年)「八笑人」、書籍か。(「円朝全集」
解題 角川書店)「文七元結」と同年である。
前に見たように、この時期は寄席に出演られなかったので高座では
なく、出版物からであったのであろう。53歳。亡くなるまでは
まだ9年あるが、まあ、晩年といってよいだろう。

同じく「全集」の解題には「「心眼」と題しているように従来の
単なる笑い噺にはない禅味を含んだ、円朝の面目を一新した作品で
ある。」とある。
心の眼で見るというので、禅味といっているのであろうか。
今となってはそれほどのものでは、ないのではなかろうか。
もちろん、よくできているが。

円朝作品を見ていくと、やはり近世(江戸)から近代(明治)の
移り変わりというのか、そういうものが見えるといってよいので
あろう。「累ヶ淵」「牡丹灯籠」から比べると大きく変化している。

現代の目で作品構造を考えると、夢落ち(夢でした)はやはり
ちょいと稚拙には思える。
しかし、夢の中だからよく見える、また、夢の中なので、イケメンで、
モテて、顔のまずい内儀さんなど別れる、などと考えてしまう、
人の願望、慾が顕在化される。現実とのギャップのおもしろさ。
現代でも立派に通じると思われる。「モテキ」(久保ミツロウ
漫画、ドラマ、映画)、「ハンサム★スーツ」(鈴木おさむ
小説、映画、漫画、ドラマ)など思い出す。
やはり男としては、日頃の夢がかなったりして、、、はうれしい。

ただ、比べてみると、「モテキ」にしても「ハンサム★スーツ
にしても、夢がかなった部分を大きく大きく描くわけだが「心眼」は
一席ものという制約からか夢は、文字通り、一晩で儚(はかな)く
終わってしまう。

やはり円朝師、エンターテインメント性よりも、道徳を説く“教導職”
であったからか。

もう一つ書いておくと、これ、盲人を扱っているが、書いている通り
これは平凡で風采の上がらないフツーの男、なのである。
着想は盲人の弟子の話しからであったが、もちろん意図してこういう
噺を作ったのであろう。これも近代の発想といってよいと思われる。

さて。
文楽師。盲人の噺は、書いている通り「心眼」以外にも「景清」、
その他に「按摩の炬燵」と少ない持ちネタに3席もある。
どれも他の人があまり演らなかった噺であろう。
これは文楽師の特徴。得意としていたといってもよいと思われる。
むろん、当時は差別的なテーマや言葉が大手を振って扱われていた
ので、避けようという意識はあまり働かなかろう。
勝新太郎の「座頭市」(子母澤寛原作)がご存知のように盲人が
主人公の代表的な時代劇であろう。ある種、我が国では伝統的に
盲人を扱ったものは作られてきたといってよいと考える。
文楽師の場合、たまたま盲人の演出を得意とし、持ちネタに選び
他の噺と同様、技を磨いて演っていたということであろう。

しかし「心眼」にしても「景清」にしても現代においては盲人を
扱った話は、TVはもとより、寄席でも演じることは難しかろう。
今演る人は聞いたことがないと思う。
今ある音と文字でしか残らないものということか。

さて。

八代目桂文楽師「鰻の幇間」「よかちょろ」「心眼」と三席書いてきた。
もう一席。
なにを書こうか、考えたのだが「つるつる」。

ヘンな名前である。
オノマトペ
ちなみに落語には「だくだく」「ぞろぞろ」なんという題名の
噺もある。

「つるつる」。

これも文楽師お得意の幇間(たいこもち)のもの。
35分ちょいで、文楽師の噺の中では長い。

例によって短い枕で、すぐに噺に入る。

吉原の幇間。この噺は、舞台が決まっている。
名前は落語で定番の一八(いっぱち)。

文楽師は軽く枕でも
幇間と申しますと、吉原が本場でございます。」
と説明をしている。

「松葉屋瀬川」でも吉原の幇間は「吾朝」という名前で出てきた。

吉原は遊郭であるが「松葉屋瀬川」のように、大見世の場合、
引手茶屋へ一度あがり、芸者さんを呼んで呑んで、というステップを
踏むのがルールで、また、実際に妓楼にあがってからもさらに呑んで
騒ぐ。これらのお座敷に幇間も同席する。芸者にしても、幇間にしても
吉原には古くからあった。
(詳細な歴史はどちらもなかなか難しい。これはまた稿を改めよう。)

時代設定は、明治末から大正にかかっているか。

一八が家に帰ってくる。
独り者である。
住んでいるのは吉原内の幇間の師匠の家。住み込み。
置屋も兼ねているのか、芸者も一緒に住んでいる。

時刻は、朝~午前中か。湯から帰ってきたところ。

前の晩から朝までお客と呑んでいたという。

柔道に凝っているだかで、呼ばれて座敷に入ると、いきなり投げられた。
呑まされるは、投げられるは、絞められるはで、もうダメ。

そこへこの家の芸者小梅も湯から帰ってくる。

八「お梅ちゃん。
  あなたがねぇ、お湯からあがるのを男湯の方であたしは待ってた。
  一緒に帰ってこようと思って。
  それがあたしが、先に帰ってきちゃった。

  たいへん今日(こんち)は、鬢(びん)の具合が、たいへん、、、

  あーーーー、うーーーーーん。

  なんだい、お言葉なし、ときたね。

  すーーーーっと、向こうの部屋へ入っちゃった。

  いい女だな。あのくらいの芸者てなないね。
  俺ぁ、四年半岡惚れしてるんだがなぁ。

~~~~
岡惚れとは、密かに片思いをすること。
~~~~

  岡惚れも、三年すぎれば色のうち、ってぇことがあるが、
  一年半超過してるんだから。

~~~~
この“色”は、まあ、今でいう恋人、彼氏、でよろしかろう。
ただ、芸者、花魁などのという限定は付くかもしれぬ。
~~~~

 

つづく

 

 

断腸亭落語案内 その37 桂文楽 心眼

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引き続き、文楽師「心眼」。

盲人で按摩の梅喜(ばいき)。
茅場町のお薬師様に願掛けをして、なんと目が開いた。
大喜びで浅草のたまたま出会った、近所の上総屋の旦那と、
自宅に帰るところ。
芸者の乗る人力車に出くわし、上総屋の旦那に、お前の内儀さんの
お竹さんは、本当にまたとないよい内儀さんなのだが、器量が著しく
まずい、といわれる。目が見えなかったので自分の内儀さんの
顔を知らなかったのである。

さらに。
上「お前の内儀さんはまずい女だ。
  反対にお前はいい男、たって、役者にだって、お前さんくらいの
  男はないって言ってもいいくらいだ。」

山の小春という芸者がいる。

~~~~
説明されないが山は浅草、山の宿でではなかろうか。今の花川戸、
言問橋の西詰あたりの地名。馬道にも近い。
~~~~

この小春が、梅喜はいい男で以前から岡惚れをしている。
目が悪くなかったら、一苦労してみたいと言っていた、と
上総屋の旦那はいう。

二人で、浅草の仲見世までくる。
久しぶりの目に見える仲見世に梅喜は大喜び。
新しいおもちゃがいろいろ出ているんですね~。

仁王門から本堂へ。
いつもは下からお参りするが、上に上がる。

(またまた、手をパンパンと、打つ。
 もちろん、観音様もお寺である。)

梅「このご恩は決して忘れません。
  いずれ、お竹がお礼参りに伺います。
  ありがとう存じます。ありがとう存じます。」

梅「あれ?!
  旦那、ご覧なさい。箱の中から人が出てきた。」
上「ありゃ、姿見(すがたみ、鏡)だよ。
  お前さんとあたしがあそこに映ってるんだ。」
梅「は~~~、なるほど。私だ。
  なるほど~、私はいい男ですな~。
  こっちは、あーたですね。
  なるほど~、あーたはまずい面だ。」
上「おい。ヘンなこと言っちゃいけない。」

人混みに紛れ、上総屋の旦那と、はぐれる。
入れ替わりに
 「そこにいるのは、梅喜さんじゃないかい?」
山の小春である。
今そこで、上総屋の旦那に、目の開いた梅喜がそこにいると
聞いて急いできた、と。

梅「なるほど~、いい女だ。」
小「なにを言ってるんだね~。
  だけど、よかったね~。
  どっかで、ご飯あげたいと思うんだけど。」

富士横丁の富士下に[釣り堀」という只今で言う、待合、
これへ二人(ふたあり)が入る。

~~~~
この5~6月がちょうど季節であったが、お富士様の植木市というのが
浅草では毎年開かれている。これが、観音様の裏手、北側、旧象潟町
あたりにある浅間神社の市。いわゆる富士信仰の神社である。
このあたりであろう。今と比べればかなりにぎわっていたところ。
~~~~

女房のお竹に上総屋の親父が梅喜のことの話をする。
観音様のお堂まできてみると梅喜はいない。
心配して辺りを探してみると、高いお堂から富士横丁の方を
見ると、確かにそれらしい二人連れが見える。
後から見え隠れに付いていく。
続いて、ツレコミに入る。
庭の植え込みんとこにしゃがんで、中の様子を伺う。

こちらは、座敷。
二人は、よろしくやっている。

梅「目が開いて、姐さんにご馳走になろうとは思わなかったな。」

梅「“人なし化け十”の内儀さんなんか目が開いたら一緒になって
  いられませんよ。」
小「じゃ、あたし女房にしておくれでないかい?」

そこへ、お竹が

梅「なんだ、いきなり。
  お前は誰だ?」
竹「わたしゃ、お前の女房のお竹だ。」
 (お竹、梅喜の胸倉にむしゃぶりつく。)
梅「お竹、お竹、苦しいよ、、、、、」

  ・・・

竹「どうしたの、梅喜さん、梅喜さん!」

梅「お、お、、
  お前、今、俺の喉を締めやしなかったかい?」
竹「なにを言ってるんだい。お前さんがあんまりうなされてる
  から飛んできたんじゃないか。
  梅喜さん、お前、こわい夢でも見やしないかい?」

梅「あー、、、、

  夢かぁー。
  
  俺ぁもう、信心はやめだ。

  盲(めくら)ってのは妙なもんだねぇ。
  寝ているうちはよーく見える。」


これで、下げ。

夢でした、という下げは落語にはそれなりにある。

「夢金」「鼠穴」「天狗裁き」、、他にもあろうか。

まあ、安易といえば、安易なのだが、私はそれほど嫌いではない。
落語らしい、ともいえるかもしれぬ。
長閑(のどか)というのか。
落ち、下げ、というよりは、結末の付け方といった方がよいかも
しれぬ。

この噺、なかなかよくできているのではなかろうか。
勧善懲悪というのか、やはり円朝作品らしいかもしれぬ。

私が聞くと、梅喜にやはり感情移入する。
男ならだれでもそうなのか。わからぬが。
目が開いて、且(か)つ、いきなりいい男、イケメンになっていた
という、まるで変身をしたよう。
美人にもモテて、内儀さんなんか別れちまおう。
スケベな男なら、ウキウキ?。

だが、そんなウマい話はないわけで、夢であった、と。

やっぱり、真面目に地道に毎日を送らねば、か。
円朝作品らしいが、これは説教くさく感じない。
まあ、そうだよな、と。

 

つづく